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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
158/287

-2-13 思った以上の事

 光ったと思った時には、それが果たして何なのか理解してしまった。

 体中を暖かい風が撫でる。それが理解したものが現実であると認識する始まりだった。

 赤が辺りを覆い、視線の先が崩れていく。炎を吐き出す出口の門。その中にあるレオイの何もない顔が、酷く嫌らしいものに見える。

 その時から既に体は動いていた。

 体を反転させて地面を蹴る、一瞬で縮まったレオイとの距離。足を回してその顔面にぶつけた。体が軽布のように飛び、地面に転がった。

「“圧し”――“吹け”!」

 まだ止まらない。

 流れる風を現す簡単な法術。

 私の真後ろでそれを現し、その力を全て自分に向ける。

 更に飛んだ。先程以上の勢いで、吹っ飛ばしたレオイに向かって行く。離れた距離は一瞬で詰まった。

 手刀を繰り出す。それが首筋にぶつかるまで、あいつの顔は変わらなかった。

 そうして、レオイは体を崩して、倒れ伏す。だけどまだ終わりじゃない。

「ふんっ!」

 レオイの前で、思い切り右足を上げる。そしてそのまま、足を振り下ろして――。

 どん!

「え?」

 踏み付けた、筈。だけど倒れたレオイの体が、そこにない。

 いや、見えたのは、レオイの体がいきなり土の下に沈んでいった。私が踏み付けたのは、只の土でしかなかった。

「……逃げやがったか?」

 恐らくそれで正しいだろう。あいつは知っていた。私と正面からぶつかって、勝てる訳がないと。

 今は脅威はここにあらず。

 だけど、異常はまだ止まってはいない。

 視線の先には、赤い光に炙られる出口の門が映っている。

 こんな事が、あんな襲撃者如きに出来る筈がない。あんな死体みたいな奴に出来るのは、私達にとっては精々嫌がらせ程度のものにしかならない。

 だけど如何に寺院の末端とはいえ、その中枢をこうも容易く破壊出来るなんて。

 そんな事が出来るとすれば――。

「ちっ」

 法術で、飛び上がる。もしあの時リイの言った事が事実だとすれば、私一人では手に負えない可能性が高い。

 頼りに出来そうなのは、先生くらいか。

 だけどこの状況で、信用出来そうな奴が何人居る? 誰が敵側で、誰が味方なのか。

 解らない。だけどこの事態、私だけで収束させるには、手に余る――。




 管理棟にある門の間。

 次々と、入口の門から候補生――いや、この時点で法術師となった者達が戻って来る。

「これで何人だ?」

「現在で、候補生の二十名中十名が帰って来た事になります」

「帰って来ていない者は?」

「アサカエ シエンさんを含めて、十一名です。名前は――」

 それぞれの名前を、試験官が読み上げ確かめる。その中に、もう一つのアサカエという名を聞いた時、一人の男の顔に笑みが浮かんだ。

「そうか。アサカエは二人共まだ中に居ると」

 それだけ言うと、老齢の試験官が門に向かう。

「先生? 何を」

 老齢は答えず、門に対して何事か呟く、少しして、門がゆっくりと閉まり始めて――。

「何をするんです! まだ中に人が――!」

「アサカエ シエンならば、なんとかするだろうよ。それよりも危険分子を中に封じる事が先決だ」

「見捨てるんですか!? シエンさん達を」

「そのアサカエ シエンが、連中に連なっているとすれば?」

「え……?」

 誰も、思いもしなかった言葉。皆が動揺する中、リーレイア・クアウルだけは何も表情に出さず、煙草を吹かせていた。

「今回の試験、あの女が絡んでいるとなった時からおかしかった。出口の門を破壊したのも、あの女の手引きがあったとすれば、辻褄が――」

「――そんな筈がありませんわ」

 突然の、女の声。管理棟の入口に、皆が目をやる。

「なに?」

「ごきげんよう、裏切者様。あの子供達、操りの糸を辿ればぴったりと貴方に行き付きましたわ」

 リリムラ クグルミがそこに居た。長い髪をかき流し、老齢を問い詰める。

「な、馬鹿な。でたらめを貴様、私がそんな――」

「私が、そんな?」

 遮る。リリムラはそれこそ自信満々に、言葉を紡いでいた。

「へまをする筈がないと? ではあの子供達、どうして見回り中のアサカエ シエンに接触出来たのでしょうね? わざわざ寺院の中に手引きした理由は?」

「し、知るものか。そもそもアサカエ シエンが二人をたぶらかしたのだろう」

「へえ、ではお聞き致しますが――貴方どうして操られた子供が“二人居る”事を知っておられるのかしら」

 リリムラの浮かべる笑みが、より強く、老齢を嘲るような表情をした。

「あ、う……」

「語るに落ちましたわね。わたくしは子供達としか言っておりませんのに、それが二人居る事を知っていますのは、対峙したわたくしと、アサカエ シエンと、操った当人しか知り得ない事でしょう?」

 くっくっく、とリーレイアが含み笑いをこぼした。こんな単純な誘導に引っ掛かるような間抜けが、よくもまあこんな反逆を起こせたものだと。

「お前も絡んだか。リリムラ クグルミ」

 うなだれる老齢をよそに、リーレイアはリリムラに問う。

「わたくしはアサカエ シエンが不当な扱いを受ける事に我慢ならなかっただけですわ。アサカエ シエンに協力をしたという事ではありません。勘違いなさらぬよう」

「ふ……そうだな、それがお前の立ち位置か」

「貴方もそうではありませんの? リーレイア・クアウル先生。今の今まで動かなかった理由は」

「さてな、私は単なる端役だよ。試験官でもない故にな。だが、取り敢えず――」

 リーレイアが、老齢を見やる。その視線に、びくっと老齢が震えた。

「そこの男には、それなりの処分を下さねばな。取り敢えずはふん縛っておこうか」

 周りに、老齢の味方は居ない。観念するしかなかった。

「こいつが行なった事は立派なテロリズムだからな。確保された者も順次処分されるだろう」

 この国では、獄門という処刑法がある。過程はどうあれ、候補生を危険に晒し、試験を妨害した挙句にアサカエ シエン達を異界に閉じ込めようとしたのだ。目論見は失敗したとはいえ、極刑の余地は充分にある。

 まあつまる所は、やらかした方が悪いのだ。どんな処分が成されようと、同情の余地はなし。

 只、懸念があるとするなら、未だ黒幕の存在が出て来ていない事だ。こんな小悪党ではなく。

 あそこまで派手にやって、痕跡も辿ったというのに、誰が主犯で、今どこに居るのか、全く解らず仕舞いだと。

「何を企んでいるやらな」

 このまま引き下がる連中な訳がない。なぜなら、奴らにとっての明確な目標が達成されたとは思えないからだ。そして未だ、帰って来ない連中は――。

「って、先生!?」

 一人の女試験官が、悲鳴のような声を上げる。

「な、なんだ!?」

「し、死んでる……」

 老齢を囲む試験官。座り込んでいるだけに見えるそれは、ぴくりとも動かなかった。

「自害したか」

「い、いえ、目立つ傷はありません」

 リーレイアの言葉に、すぐさま否定の言葉を返す試験官。リーレイアが寄っていき、手に触れてみると、それはもう冷たくなっていた。口の中も見てみるが、舌にもどこにも損傷はなかった。

 ……ではそれは。今死んだのではなく、もう死んでいたという事だ。そうしてこの死体を操って動かしていた者が居たのだ。

「一応逆探知をしてみろ。痕跡が残っているとは思えんがな」

 そう指示をしてみるが、望みは薄かろうとリーレイアは思う。ここまで周到に動いた者が、最大の証拠を前にへまをする筈がない。

 ならば何者が動いているのか。子供や死者を操る真似をして。そしてなぜ、狙われているのが“アサカエ”なのだろうか。

 解らない。今の情報量では足りないものが多過ぎる。ならば、

「……シエンの奴め」

 回答に、一番近いのはあいつだ。この騒動の中心にあるのは“アサカエ シエン”の存在に他ならない故に。

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