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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
157/287

-2-12 在非世

 赤。赤。赤。

 見てみるといい。

 赤。赤。赤。

 この太陽を。この空を。

 赤く染まった夕焼けを。

 一日の中において、これ程の赤を見る事が出来るのは、この時間だけだ。

 同じ日の光でも、朝焼けではこれ程見事な赤にはならない。

 実に素晴らしいものではないか。

 この世界全てを染める程の、この赤色は。


 なぜこれ程の赤になるのかって?

 それはな、赤がお前の“終焉”の色だからだよ。


 日が沈んでゆく。それでもまだ赤は残る。

 赤。赤。赤。

 世界の全てを染める赤は、まるで××で染められたかのように。朱い。




 どすん。

「あ痛っ!」

 地面に、うつ伏せに叩き付けられるような衝撃。

 どすどすん!

「ぐうえっ!」

 更にその上から、押し潰されるような衝撃がやって来た。

「お、重い……」

 何やらなぜやら、今訳の解らない事が起こっている。身が潰されそうな思いが。

「って、ユエンっ。大丈夫か!」

「……取り敢えずそこをどいて……」

 言われてやっと、状況を把握した。私はどこかに落ちて、その上にイスクとシズホも落ちて来たんだと。お陰で全く身動きが取れない。

「あ、ああ悪ぃ」

 重みが消える。二人分の重さが消えて、やっと私は立ち上がる事が出来た。

「……ごめん」

 シズホも小さな声で謝りの言葉をくれる。

「いやいいよ、それよりも……」

 改めて周りを見ると、何やら暗い場所に居る。

「……どこだよここ」

「解らん」

 誰も現状が解らない。おかしな状況になっている。これは一体?

 洞窟の中? とも思ったけど、それも違うらしい。なぜなら間近に木があった。それが解って辺りを見回してみると、木が何本も生えている。どうやら森の中に居るらしい。だけどその木々は、冬の木のように葉っぱが全くなかった。だけどここは寒くはない、なら全部枯れているという事か。

 ……。

 誰も何も喋れない。不気味としか言いようのない場所。だけど何か、嫌な予感だけは重々感じている。

 ……その嫌な予感がどんどん大きくなっていくのも。

 そんな時、やるべき事は決まり切っている。一刻も早く、この場から逃げる事。暗い中とはいえ、ここはひらけた場所だ。もし何か妙なものに見付かった時、非常に目立つ場所に居る。

 だけどどこに逃げればいいのか。嫌な予感は四方八方から感じている。障害物も、枯れた木々しか見当たらない。一体どうしろと……。

 その時、ぐるぐると、どこかからうなり声がした。




 エンが試験を通ったなら、どうしてやろうか――。

 そんな事を思いながら、儂はいつも通りアサカエの神社へと向かっておった。

 もしもそうなら、待ち構えて、いち早くエンの顔を見る為に。そしておめでとうを言う為に。

 試験を通っていなければ――考えたくはないが、その時には一晩でも付き添って、慰めてやろうかの。

 鳥居をくぐり、石段を登っていって、また上にある鳥居をくぐる。そうして母屋の方に向かう。エン――はおらぬ故、ハトリにでも声を掛けようかの。

「ハトリ、入って良いのかの」

 まあ、いいも悪いもない。儂はいつでもここに来て良いと、神社の誰からも認められておるのだから。

 ……だが。

「……誰もおらぬのか?」

 気配がない。いつもならば、ハトリなどがすぐに顔を見せに来る筈であるのに。

 むう、みんなしてどこかに出掛けておるのかの。だがこの日、町などに出る事など聞いておらぬのだが。町にある道場の日でもなかった筈であるが。

 ……道場、か。

 ふと思い至る。だが、それならば、メイスケが何か応えても良かろう事だろうが。

 そう思い、なんとなく母屋に隣接しておる道場へ歩んでいく。

 なぜだろうか、こんな静かな神社は初めてだ。それに只静かなのではない。何やら、言い知れぬ不安のある静けさだ。

「メイスケ、カイもおらぬのか?」

 ――誰もおらぬと思っておった道場。

 そこに入る前に――妙な臭いがした。

 今までになかった……錆びた鉄のような臭い。

 ……何か、嫌だ。とてもおかしな事がある。

 なぜだ。こんな日常であるというのに、それをかき消すような嫌な感じがある。

 ……その嫌な感じは、道場にあった。

 ――初めに見えたのは、赤い床に倒れておる、誰かの姿。

「……カイ、か!?」

 なぜか、肌の薄黒い、だが見知った顔の男。異様な臭いはそこからのもの。

 そのすぐ傍に、

「トオナ、か」

 薄赤い、道場の端っこに、うずくまっておった姿が一つ。

 それは、その声は儂のよく知る、

「メイスケっ。これは――」

 寄っていく。怪我をしておるものならば、なんとか――。

「来んじゃねえっ!」

「ひうっ」

 気圧される。メイスケが儂に大声を出す事など、今までになかったというのに。

「な、何が起こったのだ。カイは……?」

「近寄るな。触ったりすんなよ。カイにも、あと俺にもな」

 一体、何を言っておるのか、事情が全く解らずにいた。メイスケは肩に大怪我をしておって、カイも倒れたまま動かないでおる。

 これは、放っておけぬ事態だという事だけは解った。

「あ、は、ハトリを呼んで来るっ」

「いや、呼ぶなら役人とかだ。……あとお前はもう来んじゃねえ。出入り禁止だ」

「な、何を申すのだメイスケ――」

「いいから行け、早く!」

 ……解らぬ。何もかもが解らぬ事。だが、儂がここにおってもなんにもならぬ。それだけは解った。

「た、助けを――」

 だから言われた通りに、逃げ出した。儂には出来ぬ事を、出来る者の所へ――。


「……済まねえな。ユエンの女を狂気病にしちまったってんなら、永遠に恨まれっからな……」

 多分、トオナは最初にハトリを呼びに行く事だろう。解る。あいつが今、唯一頼れるのは、ハトリしか居ないからなあ。

 ――ああ、どんどん自分が消えていく気がする。頭の中が、ぐちゃぐちゃにかき回されるように、意識が遠退いていく。こういう事か。狂気病になるって事は。今まで稀に出て来る奴らを潰していったが、まさか自分が、な。

 ハトリには嫌な役目を押し付ける事に、なるんだろうなあ。

 ……済まねえなあ……ハトリ。最悪だな俺は。

 最後に、また、もう一度お前に……、

 済まな

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