-2-12 在非世
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赤。赤。赤。
見てみるといい。
赤。赤。赤。
この太陽を。この空を。
赤く染まった夕焼けを。
一日の中において、これ程の赤を見る事が出来るのは、この時間だけだ。
同じ日の光でも、朝焼けではこれ程見事な赤にはならない。
実に素晴らしいものではないか。
この世界全てを染める程の、この赤色は。
なぜこれ程の赤になるのかって?
それはな、赤がお前の“終焉”の色だからだよ。
日が沈んでゆく。それでもまだ赤は残る。
赤。赤。赤。
世界の全てを染める赤は、まるで××で染められたかのように。朱い。
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どすん。
「あ痛っ!」
地面に、うつ伏せに叩き付けられるような衝撃。
どすどすん!
「ぐうえっ!」
更にその上から、押し潰されるような衝撃がやって来た。
「お、重い……」
何やらなぜやら、今訳の解らない事が起こっている。身が潰されそうな思いが。
「って、ユエンっ。大丈夫か!」
「……取り敢えずそこをどいて……」
言われてやっと、状況を把握した。私はどこかに落ちて、その上にイスクとシズホも落ちて来たんだと。お陰で全く身動きが取れない。
「あ、ああ悪ぃ」
重みが消える。二人分の重さが消えて、やっと私は立ち上がる事が出来た。
「……ごめん」
シズホも小さな声で謝りの言葉をくれる。
「いやいいよ、それよりも……」
改めて周りを見ると、何やら暗い場所に居る。
「……どこだよここ」
「解らん」
誰も現状が解らない。おかしな状況になっている。これは一体?
洞窟の中? とも思ったけど、それも違うらしい。なぜなら間近に木があった。それが解って辺りを見回してみると、木が何本も生えている。どうやら森の中に居るらしい。だけどその木々は、冬の木のように葉っぱが全くなかった。だけどここは寒くはない、なら全部枯れているという事か。
……。
誰も何も喋れない。不気味としか言いようのない場所。だけど何か、嫌な予感だけは重々感じている。
……その嫌な予感がどんどん大きくなっていくのも。
そんな時、やるべき事は決まり切っている。一刻も早く、この場から逃げる事。暗い中とはいえ、ここはひらけた場所だ。もし何か妙なものに見付かった時、非常に目立つ場所に居る。
だけどどこに逃げればいいのか。嫌な予感は四方八方から感じている。障害物も、枯れた木々しか見当たらない。一体どうしろと……。
その時、ぐるぐると、どこかからうなり声がした。
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エンが試験を通ったなら、どうしてやろうか――。
そんな事を思いながら、儂はいつも通りアサカエの神社へと向かっておった。
もしもそうなら、待ち構えて、いち早くエンの顔を見る為に。そしておめでとうを言う為に。
試験を通っていなければ――考えたくはないが、その時には一晩でも付き添って、慰めてやろうかの。
鳥居をくぐり、石段を登っていって、また上にある鳥居をくぐる。そうして母屋の方に向かう。エン――はおらぬ故、ハトリにでも声を掛けようかの。
「ハトリ、入って良いのかの」
まあ、いいも悪いもない。儂はいつでもここに来て良いと、神社の誰からも認められておるのだから。
……だが。
「……誰もおらぬのか?」
気配がない。いつもならば、ハトリなどがすぐに顔を見せに来る筈であるのに。
むう、みんなしてどこかに出掛けておるのかの。だがこの日、町などに出る事など聞いておらぬのだが。町にある道場の日でもなかった筈であるが。
……道場、か。
ふと思い至る。だが、それならば、メイスケが何か応えても良かろう事だろうが。
そう思い、なんとなく母屋に隣接しておる道場へ歩んでいく。
なぜだろうか、こんな静かな神社は初めてだ。それに只静かなのではない。何やら、言い知れぬ不安のある静けさだ。
「メイスケ、カイもおらぬのか?」
――誰もおらぬと思っておった道場。
そこに入る前に――妙な臭いがした。
今までになかった……錆びた鉄のような臭い。
……何か、嫌だ。とてもおかしな事がある。
なぜだ。こんな日常であるというのに、それをかき消すような嫌な感じがある。
……その嫌な感じは、道場にあった。
――初めに見えたのは、赤い床に倒れておる、誰かの姿。
「……カイ、か!?」
なぜか、肌の薄黒い、だが見知った顔の男。異様な臭いはそこからのもの。
そのすぐ傍に、
「トオナ、か」
薄赤い、道場の端っこに、うずくまっておった姿が一つ。
それは、その声は儂のよく知る、
「メイスケっ。これは――」
寄っていく。怪我をしておるものならば、なんとか――。
「来んじゃねえっ!」
「ひうっ」
気圧される。メイスケが儂に大声を出す事など、今までになかったというのに。
「な、何が起こったのだ。カイは……?」
「近寄るな。触ったりすんなよ。カイにも、あと俺にもな」
一体、何を言っておるのか、事情が全く解らずにいた。メイスケは肩に大怪我をしておって、カイも倒れたまま動かないでおる。
これは、放っておけぬ事態だという事だけは解った。
「あ、は、ハトリを呼んで来るっ」
「いや、呼ぶなら役人とかだ。……あとお前はもう来んじゃねえ。出入り禁止だ」
「な、何を申すのだメイスケ――」
「いいから行け、早く!」
……解らぬ。何もかもが解らぬ事。だが、儂がここにおってもなんにもならぬ。それだけは解った。
「た、助けを――」
だから言われた通りに、逃げ出した。儂には出来ぬ事を、出来る者の所へ――。
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「……済まねえな。ユエンの女を狂気病にしちまったってんなら、永遠に恨まれっからな……」
多分、トオナは最初にハトリを呼びに行く事だろう。解る。あいつが今、唯一頼れるのは、ハトリしか居ないからなあ。
――ああ、どんどん自分が消えていく気がする。頭の中が、ぐちゃぐちゃにかき回されるように、意識が遠退いていく。こういう事か。狂気病になるって事は。今まで稀に出て来る奴らを潰していったが、まさか自分が、な。
ハトリには嫌な役目を押し付ける事に、なるんだろうなあ。
……済まねえなあ……ハトリ。最悪だな俺は。
最後に、また、もう一度お前に……、
済まな
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