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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
156/287

-2-11 動かない結果

「いい? あんたらの後ろの門、本来そこが出口で合ってるんだけどね」

「何か、あったのか?」

 エンに問う。あのうんともすんとも言わない門が本来の出口で合っているなら、どうして動かせないのか。

「そう。ちょっとした問題事があってね。門は壊れて動かなくなってる訳よ」

「壊れた?」

 だから動かなかったのか。私達は、ここで閉じ込められていたと?

「うん、それもまたあとで説明するからさ」

 どうやら、相当面倒な事態が起こっているらしい。少なくとも、一から全部説明する時間がないという事は察せられた。

「という訳で緊急措置。みんな今から入口の所まで戻っていって、そこから出て行ってね」

「い、今から引き返すんですか?」

「そう。でもまあ大丈夫でしょう」

 化物はもう居ない、筈。エンがみんな倒してくれたから。

「試験は?」

「うん。それも大丈夫。予定外はこれで終わりだからさ」

 予定外。即ち試験以外の何かが起こった、という事か? でも終わりって言う事なら、その何かももう収まる筈だと。

「……つまり――」

「うん。みんな一応出口までは来れたんだからさ。どのみちあとは出るだけ、全員合格だ」

 にかっと。エンが満面の笑みを浮かべる。その笑顔に、候補生のみんなの緊張が解けた感じがした。

「じゃあ、行きなさい。私はもう少しやる事があるんだわ」

「やる事って、エン?」

「ああ、大した事じゃないよ。こっちの門の応急処置をね」

「こちらからは、出られないんじゃあ?」

「こっちからしか出来ない事もあるんだよ。じゃあみんな、あとで会おうねえ」

 ……大丈夫だろうか。勿論、エンは試験官の一人だ。私達の心配なんて、意味のない事だと解っている。

 だけど、なぜだか解らない。言い知れない不安がある事が――。



 みんなを見送った、その上で最後の懸念があるんだと認識する。

「……さて、出て来な、そこの」

 目線だけを、出口の門の方に向ける。死んでいる筈の門が、少しずつ開いていって、そしてそこから、全身を覆うぼろ布を被った人間が現れた。

「正体は見せない訳? まあ大体察しは付くけどさ」

 ……人間が、顔を覆っている布を剥ぐ。言葉は解ってくれるんだ。

 っていうか。

「……やっぱりあんたか。門に直接干渉なんてして、まあ」

 現れた姿。それは私がよく知っている――いや知っていた顔をしていた。

「こんな状況で出て来るんだね。キオセ レオイ」

 昔の相棒だ。――あの時遺跡で死んだ筈の男。

 そいつは私を見据えたまま。死んだ魚のような暗い目をしていて、何を考えているのかも察せられない。

「もう喋れないんだ。だけどくだらない浅知恵は出来るんだと」

 だからって、情状酌量の余地はない。今はいいけど、エンを危機に陥れた事には変わりはないんだから。

「取り敢えずあんたは確保だ。目的はあとから聞く」

 小刀を向け、戦闘の意思を示す。レオイの方も、その両手に術力を込めていた。

 そして――。

「行くぜえ」

 決着は、さっさとつける。あいつが本物なのか偽物なのかなんて今はどうでもいい。

 エンを無事に行かせる為なら、なんだってする。それだけだ。




 全員、急いで来た道を引き返す。入口の門まで行ければ、全員助かると。そのエンの言葉を信じて。

「急げみんな!」

 化物は居ない、筈だけど、エンが倒したのが全てかどうかは解っていない。生き残りとか、あの場に集まっていなかった化物が、まだどこかに居るとしたら。

 疲れ切っている私達に、その相手が出来るかどうか。

 そもそも現在が異常事態なら、一刻も早くここを出ていくべきだと。だけどこの中には負傷者も居る。全員が全速で走る事なんて出来はしない。

 だから、怪我の少ない、或いは疲れの少ない者が、負傷者を引っ張って行っている訳で。私も一人、肩に手を回させて負傷者を歩かせている。

 でもおかしな話だ。異常事態の筈なのに、助けに来たのがエンだけだなんて。他の試験官は何をしているのかと。

「……ん?」

 ちょっと、待て。

 何かが、引っ掛かる。なぜ、エン以外の助けが来ないのか。なぜ私達は入口で、エンは出口の方へ?

 他の試験官は? 今入口の門は開いている筈。私達の状況も把握出来ている筈だろう。今は明らかな異常事態だと解っている筈だ。でなければそもそもエンが来る事もないだろうに。

 状況を解っている上で、誰も来ないという事があるなら――。

「……まさか」

 立ち止まる。そして出口の門がある方を見やる。

 エンは、強い。あの化物の集団でさえ、一人で立ち向かって倒し切れる程に。

 だけど、もしこの予想が――。

「おい、どうしたユエン?」

 イスクが私に向き、声を掛ける。そのイスクも、負傷者に肩を貸している状態だ。

「……私は」

 確証がある訳じゃない。だけど、嫌な予感は拭えない。

 これがもし、もしも本当に、“エンを孤立させる為の罠”だとしたら。

「戻る。エンを助けに行く」

「何!?」

 エンは言っていた。これは“予定外”の事だと。それは即ち、エンにとっても予想外の事だったんだ。それが起こったのなら。

「おい本気か? お姉さんなら何があっても楽勝だって」

「いや、そうじゃない」

 加えるなら、今ここから出る手段は一つしかない。入口の門だけだ。

 そして、私達は知っている。入口の門は、外からは開けられるけど、中からは開けられない事を。それは実際に触ってみて、解っている。

 私達が出たあと、エンを閉じ込めるという事も、出来ない事じゃない、のかも。

「杞憂でもなんでもいい。だけどエンを一人にしておけない」

 考えれば考える程、疑惑が確証に変わっていく気がする。今、エンは入口から一番遠い所に居るんだと。私達が出られたあと、“何が起こるか解らない”としたら。

 ……これが誰の考え通りか、それも解らないけど。

「……あとは頼んだ」

 肩を貸している負傷者を、他の奴に任せる。そして私は、入口とは反対に走っていく。

「おいユエン!」

 後ろからのイスクの声。だけど構っていられない。

「……頼むぞエン」

 走っていく。私が行って、助けになるのかどうかは解らないけれど。

 思う。今一番危ない位置に居るのは、エンなんだと。

「おーい!」

 後ろから、声が。

「え?」

 見ると、イスクとシズホが揃って私を追い駆けて来ていた。

「な、なんで」

「あとでちゃんと説明しろよな」

「……私にも」

 頼むって言ったのに……付いて来てくれるのか。私も完全には確証を持っている訳じゃないのに。

「ああもう詮無いな!」

 今ここに居るのなら、それが現実。二人が私に付いて来てくれるなら、これはとても頼もしい。

「なら行くぞ。エンを助けに」

「応よ!」

 ……こくり。

 ……その言葉、その頷きに、どれ程救われたか。

 試験への合格、その流れを蹴ってまで、私に――。

 いや、ここでの感動はまだ早過ぎる。エンも一緒に、みんなが揃ってここから出られればそれが一番いい。


 だけど、

「なに!?」

 突然、地面が柔らかく思えた。ぬかるみにでも入ったように。

 だけど違う。踏み込んだ地面が、足を飲み込むように――、

「っておいユエン!」

 手を差し出すイスクとシズホ。だけどそれだと一緒に――。



「――ほう。気付いたのか」

 その黒衣の女は、遠見の水晶を覗き見ながら、一人呟く。

 アサカエ ユエンとあと二人。彼らが他の候補生から別行動を取っている。出口の門に向かっている姿が見える。

「予定通りだが、少し面倒だな」

 人数が増えた。だがそれも修正の範疇にある。第一の目的に変更はない。他の連中も、全て泥の底に閉じ込めればいい。

「まあいい。アサカエ シエン、その力貰い受ける」

 全ては順調。全くの順調に進んでいた。




 傍で鈍い音が聞こえた。

 そう認識した時には、既に違和感が自身の中を支配していた。

 反射的にそちらを振り向く、ふと右肩に男の手が置かれているのが見えた。

 そこからゆっくりと何かが伝い、床に落ちる。

 赤い水が。流れるように。

 その一瞬を見た時に、違和感は違和感でなくなった。

 それは、

 男の手が肩に置かれているのではなく、

 男の手が肩から出ているのだと。

 理解した男の顔が歪む。

 冷たい道場内に、呻くような悲鳴が響いた。




 貴方は未来に歩んでゆく。そしていつか過去を悔やむ。

 貴方は過去に歩んでゆく。そしていつか未来を嘆く。

 貴方達は通り過ぎる。そしてどちらも、全てに泣く。


 或いは嗤う。

 歪んで笑いながら、やはり泣く。


 見届けられるのは、貴方だけ。

 求めるのなら、私だけ。

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