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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
155/287

-2-10 救われ

 候補生とはいえ、ここには法術師が十人程も居る。その中で、門を見ているのが三人程。

 なら今居る七人、それぞれが遠距離から法術をぶっ放せばいい。その間に向こうも消耗する筈。

「一番いいのは、全部倒せばいい」

 そう言って、シズホが眼鏡を外す。魔法使いとしてのシズホの能力、それはまさに、離れた所から直接法術を発現出来るというもの。近付く必要も、狙う必要もない。視た所に何かがあれば、そこから法術を現す事が出来る。

 ……全部倒す、それが最善だと解るけど。

 相手が一斉に襲って来たら、どうすればいいか。法術の迎撃も間に合わなくなったら、その時は――。

 ええい考えるな。今は取り敢えず防ぐ事、そして数を減らす事、これに全力で当たればいい。

「おらおら失せやがれえっ!」

 イスクが右腕の側に仕込んでいる矢を放つ。化物がぎゅうぎゅうに詰めて来ているものだから、適当に撃ったとしてもまず当たってくれる。だけど相手は頑丈だ。小型の矢が刺さった程度じゃあ少し怯む程度にしかならない。

 普通には倒せない。なら普通でないものがその矢に仕込まれていたなら。

「おら爆発しろ!」

 と、イスクが命令を下す。すると矢に仕込まれていた日光の術力が爆ぜる。体内からの攻撃となれば、流石にその衝撃は大きい筈。

「……任せて」

 シズホの方も、術の詠唱が終わり、そして地面の方をじっと見る。シズホの操る魔法、その力は、

「そこ」

 雷の法術。その青白い光が全く離れた所から、草木が生えるようにいきなり湧いて出た。

 シズホはその眼で視たものに、術の発動権を与える。簡単な話、シズホが視た石ころや木々、葉っぱなど、周りにある“何か”から法術を発現させられる。

 ――そして、湧き出た雷が、周囲の化物を襲い食らう。化物自身を中心とした、範囲攻撃。これもまた化物が密集している故に有効な攻撃となっていた。

 離れている敵なら、二人でも充分。問題は、

「う、うわあっ」

 悲鳴が上がる。二人で倒し切れなく、迫って来る化物に関しては、

「振動っ!」

 詠唱を短縮して、即座に迎撃する。手のひらを相手の体に押し当てて、その体全体を衝撃で揺るがす。

 一瞬呻いて、化物はぶっ倒れる。私の場合は、寧ろ相手が近くに居た時の方が優位に動ける。

「あ、ありがとう」

 そいつが礼を言う。だけど、

「そんな暇ない!」

 更に来る。二人が倒し損ねた相手を、振動で迎撃していく。

 だけど、次第に数に押されて来ている。確か、試験の前に言っていたよな。化物の数は百匹は居るって。

「くそ……」

 悪態付いても、現状に変化が起きるとは思わないけど。

 みんなで協力して、化物を何匹も倒したのに、全然数が減っているように思えない。今倒したのが何匹目か、そんな事を数える余裕もない。

 もしかして、この異界の全部の化物がここに集まっている?

 そんな馬鹿な。もう術力も底を付いて、得物の小刀も限界だ。傷みが激しくて、大分切れ味も悪くなっている。イスクの矢も尽きて来ていて、シズホの術力ももう少ししかないだろう。

 なのに化物は休む間もなくやって来る。負傷した者も多く、もう正面切って戦うのもきついのに――。

「――まだまだ!」

 足を踏ん張る。もう後ろには下がれない。戦えない連中が何人も居るんだから。

「はあっ!」

 小刀を突き出す。最早突き刺す事も難しいその刀は、エンのように相手の攻撃をいなす事くらいにしか使えなくて。

 虎が跳び掛かって来る。それに合わせた虚御の型、偽。本家の技の五分程度の動き、見様見真似で使うそれが、目の前の虎の化物の前足を弾く。

 隙は出来た。そこから追撃を、

「ユエン横っ!」

 突然の誰かの声。しまった、目の前の奴に構い過ぎた。

「ひ――」

 駄目だ。真横から熊の化物が迫っている。小刀で対応しようとするけど、遅い。

 化物の爪が、私の直前に――。


「どっせーい!!」

 ごう! という轟音と共に、化物は突然に消えた。

 ――訳が解らなかった。だけど現実、化物や、それが振るった爪とかも消えていて、

「待たせた! ごめんね!」

 エンの、声。夢かと思った。

 だけど、目の前には見覚えのある背中があって、私達と化物の間を遮っている。先程の熊の化物は吹っ飛ばされていて、砂煙を上げながら転がったあと、仰向けに倒れて動かなくなっていた。

「エ――エン……?」

 どうやら、エンが空から飛んで来て、熊に体当たりを仕掛けたらしい。単純な考え、だけどそう考えるしか、今の状況は理解出来ない。

「そうよ。何? たった半日辺りでぼけちゃった?」

 こんな状況で、そんな軽い物言い、本物じゃないならなんなんだと。

「頑張ったねあんたら。しっかり生きてるじゃない。百点二重丸あげちゃうわ」

 化物を前にして、首だけを私達に向けて言う。

 どういう事。試験はまだ終わってない筈、なのに。

「どうして、ここに」

「んあ? こんな状況で、来ない方が良かった?」

 そんな訳がない。エンが居るとなったら、それこそ百人力だ。

「詳しくはあとっ。こいつら全員ぶっ倒してから!」

「出来るんですか、お姉さん」

 疲れ切ったイスクが口を挟むけど、それこそ無用な心配だ。だって――、

「大丈夫! このおねーさんがしっかりと守ってあげるわ!」

 だって、エンは約束を破った事がないんだもの。


 見た感じ、化物はまだ半分程度残っている。

 だけど、エンの力はそれよりもずっと強い。

「現るるは、暴風!」

 エンの法術、まさしく暴風が、化物達の更に半分程度を吹っ飛ばしていく。

 多数相手が不利なら、少数にしてしまえばいいという事か。

 そして、残った化物――狼や虎、熊などが一気に襲い掛かって来るけど、

「邪魔っ!」

 小刀を真正面に突き出し、虚御の型の姿勢を取る。

 飛び掛かって来る化物、それらの動きを小刀の先で軽くいなして、

「うどらあっ!」

 蹴り飛ばす。殴り倒す。貫き倒す。

 化物は次々襲って来るけど、その分エンはことごとく返り討ちにしていった。

 だけど、先程吹き飛ばした化物が戻って来る。数が減った気がしない。

「エンっ!」

 思わず叫ぶ。化物に囲まれてしまった。だけどそれさえも、

「現るるは、炎の壁!」

 自分の周囲に、火の壁を現して襲撃を防ぐ。

 だけど一体、火の壁の中に入り込んで来た化物が。

「ふ――」

 そいつをエンが見やる。熊のような化物がエンの間近に。

 だけどエンはそいつの首元、そこに右手を差し込んで、握り込む。熊は、やみくもに爪を振るおうとするけど、

「燃え――尽きろ!」

 そう言うと、握る熊の首から炎が立ち上がった。そしてそれは、すぐに熊の体全体を覆って、

「ふんっ!」

 真横へと、思い切り放り捨てる。その時には、熊はもう火を消そうと暴れる事さえ出来ずにいた。

 ……あれだけ苦戦した化物を、エンは一人で、次々倒していく。やがて、動かなくなった化物達の山が所々に出来ていて、

「これで、最後っ!」

 跳び上がって、体を捻りながらの、狼の顔面への横蹴り。それに怯んだ化物の前で一旦着地。そしてまた跳び掛かって、化物の顔面を左手で握り込んで押し倒す。

「現るるは、振動!」

 その化物は、思い切り脳を揺らされて、一瞬震えて動かなくなった。

「ふう……」

 エンが一息吐く。単純な一仕事を終えたかのように、前髪をかき上げて、そしてあとには静寂が。

 ……こんなの、ものが違う。二年の差があるだけで、こうまで圧倒的に強くなれるのか。

「さて、じゃあ今の状況を説明するね」

 本当、簡単な仕事を片付けたという感じで、エンは私達に向かう。

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