表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
154/287

-2-9 出口の門

 何やら化物の密度が濃くなっている気がする。

 少し前までは二体編成だった。だが今では三、四体の化物が闊歩している。

 いや、只歩き回っているのとは違う。

 連中――三体の化物、狼と虎と熊は、その奥にあった如何にも何事かありそうな小さな祠、そこへ行き着く道を注視しているようなそぶりを見せていた。

「……行けるか、イスク」

「やらいでかよ」

 二人見合って、頷く。シズホの方は魔法と法術の酷使で大分疲れが来ている。あの祠に何かあるとするなら、突破して道を作るのは私達しか居ないよなあ。

「シズホは無理しないで。あそこに行ければ勝ちが見えるかもだ」

「こんな事もあろうかと、だぜ。俺らが温存して来たのはよお」

 二人同時に、草むらから跳び出して、それぞれ化物の方に駆ける。

 目指すは祠への道の確保。三人共に祠に入り込めさえ出来れば、それがいい。

「振動、実行っ」

 必殺、詠唱を短縮した、二言単位での法術発現。それを両手にそれぞれ現す。その右手を、まず巨体を持つ熊に向かって触れるようにぶち当てる。びくんと体が痙攣するように動いたけど、ふらふらながらまだ立っている。

 だけど、今ならこちらに攻撃する余裕はない筈。今度はその場で跳び上がって、背の高い熊の頭に直接左手を触れさせる。

 幾ら凶悪な化物だろうと、思考を司る脳を直接揺らされれば、ぶっ倒れる。当たり前の話だ。一応生き物であるならば。

 という事で、熊は撃破。残るは狼と虎だけど。

「うどらあっ!」

 イスクを見ると、その右腕に仕込まれた弓、そこから狼の喉元に何本も矢を突き刺していて、

「爆散じゃあ!」

 その矢が連鎖爆発を起こす。狼は喉元が消えて頭と体に分かれて動かなくなった。

 宜しい。狼を倒してくれれば、一番の脅威は消える。遠吠えなんぞされて仲間を呼ばれたりしたら最悪だからだ。あとは虎を仕留めれば、ひとまず安心。祠に向かって三人で駆けるのみ。

 その虎がこちらに向かって走る。狙いをこちらに絞ったのか。あと一、二歩程度で私に爪を突き立てるつもりなんだろう。

「く――」

 とっさに、腰の小刀を向ける。爪はそれで防げる――としても、虎にはまだ牙がある。

 まずい。そこまで防ぐ手がない。なんとか退く手段を――。

「俺様を忘れんなっての」

 イスクの放った矢が顔に突き刺さり、痛みにもがく虎。

 そんな隙、見逃すものか。

「振動、実行!」「爆散!」

 小刀に、術力を与える。そのまま刃の部分を虎にぶち当てる。そうして虎は、振動と爆発を同時に喰らって倒れ伏した。

 ……倒せた。なんとか。

「ありがとうイスク」

「へっ。貸し借りはなしだぜ」

「シズホも。今のうちに行こう」

 草むらにひそんでいるシズホを呼ぶ。シズホは腰を上げて、小走りで私達の所に来る。

「……」

 沈黙するシズホ。

「どうした?」

「……強い」

 お褒めの言葉か? それ。

「いやいやおだてるなっての」

 笑いながら、イスクが有頂天に。

「違う。こいつらが」

 すぐさま否定。イスクがそのまま固まった。

「観察で解った。こいつらは連携が取れている。勝てたのは奇襲が成功したから」

「うーん……」

 たまたま勝てたって言いたいのか。正面切ってだと不利なんだと。

「とにかく、今のうちにそこに」

 そう、目的地はすぐそこにある。その如何にも出口です、と言っているような小さな祠に、私達三人は入っていく。

「ここが――」

 出口。ここから戻れば、法術師としての試験は完了か。

「感は当たったかな、シズホ」

 しかも一番乗り。周りには私達以外に誰も居ない。エンは一人で最速の記録を以て試験を終えたらしいけど、これで私も――。

 ゆっくりと、門の方に向かっていく。門は黒く、閉ざされている感じだけど、ここを開けば終わる。

 ……筈。

「……出口の筈、だよなここ」

 なのに、その出口の反応がない。門を押しても引いても動きやしない。

「何か、術力で動くとかか?」

 その線も考えた、これは本来法術師としての力量を見る試験だ。ならば術力を与えれば動く鍵になるのかと思ったんだけど、門に直接術力を伝えたところで何も反応がない。

 ある筈の術力の流れが、全くないんだ。

「……なんにも反応しない」

 シズホが眼鏡も外して見てみても、同じ結果だ。

 おかしい。これを作動させる何かが足りないのか。だけど只の法術師が見ても解らず、魔法使いであるシズホの眼で見ても何も解らない。

 そんなおかしな事があるか。術力が流れていないという事は、これは只の置物に等しい。封印が掛かっている、と聞いてはいたけど、それでも術力を感知出来ないなんて事もおかしな話。術による封印が掛かっているなら、その封印に何かしらの術力があって然りなんだから。

「偽物の出口か?」

 イスクの言う通り、そういう結論が出せればどれ程良かったかと思うんだけど。

「……そういう訳でもなさそうだけどな」

 外を見てみると、他の候補生も幾人かここにやって来ている。となると、更に疑わしい。

 正確な人数は忘れたけど、大体二十人くらいだった筈。それらがみんなこちらに向かっているという事は、それぞれが手に入れた情報は正しいという事だ。まさか正しい情報が一つしかなくて、たまたまそれを手に入れた奴だけが法術師になれる? そんな運任せの試験な訳がない。みんなそれぞれ困難な状況を乗り越えて来た筈なんだからな。

「じゃあどうして」

「解らん」

 イスクの言葉に即答する。

 門の隅々まで見ても、鍵穴のようなものがある訳でもなし、そもそも術力が通っていないブツだ。何か他の条件があるとすれば――。

「お、おいみんな、外っ」

 他の候補生達が、一斉に祠に駆け込んで来る。気付けば見覚えのある顔が幾つか、この祠の中に居た。

「なんなんだよ一体」

 イスクを含め、何人かが、外を見ようとそちらに向かう。

「……やべえ」

 一人がそう呟いた。

 どうやら只事でない事が起こっているらしい。見に行ってみると、祠の外をたくさんの化物が包囲していた。

 こんな所にまで攻めて来るか、あの化物共は。

「ああもう! 空気の読めない連中だよな!」

 イスクが悪態付いたところで状況は変わらない。幸いな事に、祠を壊してまで襲って来る化物は居ないようで。だけど逃げ道である出口の門は動いてくれない。なら、

「とにかく戦うしかないだろう。逃げ道はないし、ここを潰されたら終わりだ」

「あんな化物全部相手にするの!?」

 女子の一人が悲鳴のように声を上げる。

「やらなきゃ死ぬだけだろうがよ!」

 その誰かさんの意見には同意。どのみちあいつらがこの中にまで来るのは時間の問題だ。

「やるしかないだろう。試験だって事ならな」

 小刀を持ち、外へと歩んでいく。そう、出口がないのなら、こうするしか――。

「イスク! シズホ!」

 うん、と二人が頷く。言わずとも、意思は伝わっているようで。

「手の空いている奴も! あとは門を見ていて。動くか解らないけど、一応色々試してみて」

 役割をはっきりさせる。戦える者は前に。戦えない者は後ろで。

「行くぞ」

 ここを守れなければ、多分駄目なんだ。化物達の侵入を、出来る限り止めてやる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ