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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
152/287

-2-7 殺戮者

 殺人と人殺しの違いはなんだと思う?

 結果としての意味は同じだがね、その意味する定義はまるで違うんだ。


 人の命を奪うという事は、二つの要素から恐れられる。

 一つは、意思のある命を奪う要素が、その場に存在していた現実。その要素はまかり間違えば自分を、或いはその場に存在した第三者の命を脅かしていたかも知れない。死という現実に最も近い場に居るという恐れ。

 もう一つは、命を奪った者が、人を殺す事を覚えた証明だ。理由はどうあれ、その存在は人を殺す事、人の生を止めるやり方を覚えてしまった。死とは、終わりの極致でもあるからな。そんな終わりの知識を得た存在が、果たして自分と同じ立場に存在出来るのか。自分よりもそれに慣れた者は、自分よりももっと上手く“死”を扱えてしまう。死に直接触れた者が、より大きく死を現すのではないかという恐れ。この二つの要素から、人は人を殺す行為を最大に恐れ、厳しく罰する。

 だが、第三者が思う殺人と、当人が思う殺人の定義は異なるものだ。第三者が思う殺人は、二つの要素からなる恐れを、それを行なったものに罪として押し付けるもの。つまりは人殺し、だよ。対して当人が思う殺人は、二つの要素とはまた違う。命を奪った現実を自身の罪として受け入れるものだ。

 それが殺人と人殺しの違いだ。殺人とは社会的な罪を問う言葉であり、人殺しは倫理的な罪を問う言葉になる。戦争なんかだと解りやすいだろう? 敵を殺す事に殺人と言う定義は当て嵌まらない。国が社会的な罪を問わないからだ。人殺しなら当て嵌まる場合もあるだろうがね、まれに捻くれた者も居るから、それも確実とは言えないな。


 だからこそ。それを行なった当人がそれを罪として受け入れなければ、それは完全な殺人とは呼べない。単に××したと言う結果を残しただけだよ。


 だが殺意は簡単に生み出せる。空腹を覚えたからものを食う。そのくらいにはな。人は理性でその衝動を押さえ込めるが、逆に言えば人は理性しか殺意を抑えるすべを持たないんだよ。たった一つの抑止機構。実に頼りないと思うだろう? 人を殺すのは良くない事だ、だから殺すのはやめましょう。精々その程度の抑止だ。少し高度になれば、罪人として裁かれるから。悪い事をすると天国に行けないから。そんなもの幼子への言い付けと変わらない。これなら実際世界に殺人などがなくならないのも頷けるだろう。理性を持たない“蟲”は殺意の塊だ。


 だからねユエン。やろうと思えば、三日以内にお前を殺人者に仕立て上げる事も出来るぞ。勿論お前の意思によってな。




 轟音。それに気付いた時、自分の真後ろの方向にある管理棟の端っこから、火の手が上がっていた。

「なに――」

 爆発だ。管理棟の方で、絶対良くない事が起こっている。

 すぐにでも戻らないと。だけど今、二人の怪しい子供から挟撃を食らっている。両側を壁に挟まれて、逃げられない――というか逃がしてくれない位置に居た。

 ……子供を使っての足止めか。攻撃をためらわせるつもりか? くだらない真似をしてくれる。

 その子供達、法術師――でもなさそうだ。懐から符を抜き出して、私にそれを向けて攻撃をするつもりなんだろうけど。

「一緒に来てくれませんか」

「一緒に来てくれませんか」

 同じ言葉を言いながら、迫って来る子供二人。完全に操られている雰囲気満々な状態だけど。

 詰めが甘いよなあ。こんなの「黒幕が居ます」って白状してるのと同じなんだもん。

 勿論、「一緒に来て」と言われた通りに動いたとして、事が全て丸く収まる訳がない。嫌な予感しか湧いて来ない。

 ――二人の符から、法術が放たれる。氷の術と、風の術。多分、風で私の動きを制限して、氷で動きを封じて捕らえる――そういう思惑なんだろう。

「現るるは、水の壁っ」

 地面に手を付き、詠唱。自分の周囲に、水の源素による壁を現す。水とは源素の中で、強い柔軟性と大きな質量を兼ね備えている、珍しい属性だ。氷も風も防いでやる、これは取り敢えずの時間稼ぎだ。

 だけどこれからどうするか。

 止めるのは簡単だ。こいつらをぶっ倒す、その手は幾らでもある。

 でも、この子らに罪はない。両側から挟まれている状態で、さてどうやってこの子らを傷付けずに乗り切るか。そう考えるのも甘いと思うし、相手をしている暇なんてない事も解り切っている。手っ取り早く、どちらかをぶっ飛ばしてエン達を助けに行く。それが最善な事だと、解っているのに。

「――ああもう」

 せめて操りを解きたい。この子らが何を仕込まれたのか解らないけど、

 ……時間さえあれば。

 動きを止め、術式を読み取った上での解呪。

 本人の意思で動いていない以上、そうしてやりたいのはやまやまだ。

 序でに、どこから操られているか、どこから術力が送られているか、逆探知が出来れば黒幕に近付く事も出来るだろう。

「く……」

 悩ましい難題のよう。どちらが最善だ。黒幕に近付くか、門に戻って候補生を助けるか。

 解っている。答えなんて選ぶ余地はない、筈。

 こいつらを――。


 おーほほほほほほ!!

 ――どこからともなく響く、お馬鹿な笑い声。

 ばっ。くるくる。すたっ。

 宙を跳び、回転しながらそれが私の傍の地に着地する。

「リリムラ クグルミ……参上ですわ」

 毎度毎度めんどくさい現れ方するなあこの子。

「貴方……ロロメラっ!」

「リ、リ、ム、ラ! ですわっ! 最後の一文字しか合ってませんでしょうが!」

 無茶苦茶に強い突っ込みを入れるロロ――じゃなかった、リリムラだ。毎度毎度こうやって剥きになってくれるから面白いんだけどなあ。

「……何しに来たんだよ。まさかここでまた決闘だ、なんて言いやしないだろうな」

 あいにくだけどそんな暇はないぞ。やるとしたら、それこそ瞬殺するつもりで相手してやるけど。

 私の言葉に、っふふ、とリリムラが小さく笑った。

「決闘、確かに。これがわたくしのお膳立て通りならば、そう言っていたかも知れませんですけれど」

 自分は、こんな事に関与していないと。

 まあ確かにこんな小細工、こいつが好き好んでやる筈はないな。

「こんなつまらない事態に居る貴方を倒しても面白くありませんわ。貴方は貴方の仕事を優先させなさいませ。まあ、わたくしが相手をするには役不足なお子様達ではありますが」

 ふぁさっと、彼女はその長い髪を後ろでかき上げる。自信満々さがそこにはあった。助けてくれるか。それは僥倖。

「よし、ここは任せて先に行く」

「こ、こらああっさりし過ぎですわぁー……」

 ……遠くなる声を聞きながら、私は駆けていって、思う。

 ……杞憂? これって本当に単なる試験妨害か?

 だとしたら本当、舐められたものだと思うんだけど。

 全国で活動する法術師には、その活躍に比例して妙な敵も多いと言える。その法術師を増やそうとする試験なのだから、それを妨害しようとする不届き者も居る訳で。それに対処するのも私達の仕事だ。

 しかし、思えば始まりから何まで詰めが甘い。子供を操ってまで私に接触して何が得られるというのか。私を捕らえるのが目的? だとしたらさっきの爆発は――。

 考えられるのは、警告か、人質――。

 だとすると、元凶は既に試験の内部にまで入り込んでいる可能性もある。もしも候補生に干渉されたとするなら、それはかなり厄介な事になっている筈。

 取り敢えず優先すべきは現状の把握。今解っている事は、私が狙われた事と、管理棟から爆発が起こった、それだけだ。

 門から離れるべきじゃなかったか。いや、反省も後悔もするには早過ぎる。

 すぐにでも管理棟に行くべきだ。先生が居たなら、既にあらゆる手は打っているだろうけど、だからと言って傍観する気はない。私が守るべき者は、何も知らないまま二重の危機に晒されてるんだ。

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