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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
マイナス二話目 季節周期 -Dark of Memory
149/287

-2-4 道中

 寺院へ向かう、その途中。

「よう! ユエン!」

 突然声を掛けられ、振り返ると男女が二人、こちらに向かって来る。

 それは寺院での親友。イスク・エジナトとイクヤ シズホ。二人とは寺院で知り合い、今では最も仲の良い仲間だった。

「いやおはようおはよう。今日は宜しく頼むぜ」

 親指を突き立てて、元気の良い、軽い感じで語り掛けるイスク。

「シエンさん……今回は宜しくお願いします」

 その隣、表情を変えずに抑揚のない静かな声でエンに挨拶するシズホ。

「こちらこそ、弟をしっかりこき使ってやってね」

「私は物か……」

「ふてくされないの。いい意味で言ってんだから」

 イスクとシズホは、今まで一緒に学び、腕を磨き合い、最も信頼出来る仲間だった。

「勿論です! 精一杯こき使ってやります!」

 イスクがいつものような、調子のいい発言を。

「朝から煩い」

 がすっと。

 背後から、イスクの尻に強烈な蹴りが飛んだ。

「がふっ!」

 痛みからか、イスクが崩れ落ちる。その後ろには、シズホの綺麗な蹴りの形が。

 ……試験前から自滅してどうするのかね。


「……いややっぱ、いつ見てもお前の姉さんいいよなあ」

 私の隣を歩くイスクが、私にしか聞こえない小さな声で言った。

 因みにその時、エンはシズホに何やら話し掛け、シズホは少し俯いて顔を僅かに赤くしていた。また何かからかわれているのだろう。

「いいって……何が?」

「何がって、美人、性格いい、その上強い、三つも揃った言う事なしの完璧じゃないかよ」

「それは……」

 確かに、私が言うのもなんだが、その三つは当て嵌まると思う。

 顔立ちは良いし体形も良い(私と同じで少々小柄だが)。

 性格は……悪くはないだろう、いつも明るくお茶目に振る舞っている(少々過激な面もあるけど)。

 そして確かに強い。もしかすると父さんよりも強いのではないかと常々思うし。

 私とイスクとシズホ、今この場に居る三人で掛かったとしても勝てる気がしない。これで加減を覚えてくれれば確かに言う事はないだろうけど。

「完璧は言い過ぎだろう。欠点なんて幾らでも出て来る。お前が見ていないだけだよ」

「そうか? もし俺の姉ちゃんにそんな人が居たら、俺は全てを捨ててでも神様に感謝するぞ。なんで俺には居ないのか……まったく羨ましい、いや憎たらしいぞ畜生が」

 微妙に声を低くして、背中に拳をぐりぐり突き立てて来る。

 ……痛い。やけに力が篭っている。

「痛いぞイスク」

「当たり前だ。痛いようにやってんだからな」

 堂々と言うか。

「いいか、あの人は我らの姉様だ。それを独り占めたあお前、ほんとなら半殺しにしても足りんっ。一時の痛みなど安いと思え。それで俺はまだ収めてやれるんだからな。他の奴らが何しでかすか、俺は知らんが精々気を配っとけよ」

 そこまで恨まれる事をした覚えはない。全く。

 それにしても“我らの姉様”と来たか。知らないだけで私は一体どれだけの敵を作っていたんだろう。只、弟なだけなのに。

 勿論こんな事で敵視されるなんて、筋違いもいいところだ。

「そんな事で恨まれる筋合いはないぞ。恨むなら姉を作らなかった親を恨んでくれ」

「馬鹿、ほんとの姉なんていいもんじゃないぞ。よその姉だからいいんじゃないか」

 言っている事が無茶苦茶だ。そう言えばイスクの家は大家族だったか。姉がどう言うものか知り尽くしているのだろう。そうして他人の想像する姉が如何に現実と離れているかも。

「そう? それは嬉しい事だねえ」

「だろ? やっぱお前もそう思……ってシエンさんっ!」

 気が付けば、真横で耳をそばだてて私達の話をエンが聞いていた。イスクが思い切り飛びずさる。

「き、聞いてたんですか」

「うんしっかり。でもいつの間に私はそんなに人気者になったんだろうね。まだまだいけるのか私も、うん」

 何か納得したように、一人でうんうん頷く。

「……ああところでエン、一つ聞き捨てならないから聞いておくけど。私のどこが欠点だらけなのか、よーっく聞きたいんだけどねえ」

 いつもより微妙に低い言葉が私に向けられた。

「っおい待て! 欠点だらけなんて言っていないだろう。私は世の中に完璧なものはないって事で言って」

「へえ……やっぱり私は完璧じゃないんだ。出来の良くない不満満載の?」

「いや、ちょっ……」

 エンの目が、少し恐い。

「……自業自得」

 小さく、シズホが呟いたのが聞こえた。


 酷い目に遭いそうになりながら(流石に試練前と言う事で、お仕置きはあとにお預けとなった)町にまで来た時、

「ふふん」

 突然、エンが含んだ様な笑みを浮かべた。

「……なんだよ」

「いやね、普段だらけてばっかりだったエンもこんなに慕われるなんて、我が弟ながら大したもんだわ。うん」

「って、そんな事ない……」

「照れるな照れるな胸張る事でしょう。信じられてるんだからちゃんと自信持って応えてやりなさい。

 あんた達、試験突破の為に、我が弟を心行くまでこき使ってやってね。そうだ、駄目だったら次回の為に毎日死ぬまでしごいてやろう」

「は、はあ……」

「ちょっと待てエンっ!」

 二人共若干引いているじゃないか。みんなの前で弟を遊び道具みたいに言うんじゃない。

「っはは! まあ、そうならないようにしっかりやりなさいね。若い内から過労死なんて嫌でしょう? なら今苦労する方がずっといいわ、うん」

 何も考えていないような、しかし、元気付けてくれている……という事は解って来る。

 これが、エンの性格。

 試験官という立場であるエンなりの、精一杯のあと押しだった。

 そうして四人で歩いて、そろそろ町の形が近付いて見えた頃、

「ああ、今日も塔がよく見えるねえ」

 先頭を行くエンの言う通り、まるでそれが目印にでもなっているかのように、その塔はよく見えるものだった。

 ――町の外れには古い塔がある。

 その町の歴史には似つかわしくない、石造りの、西方風の塔。上層部は殆ど崩れてしまって、塔という割にはそう高くはない。

 そして、目立ってはいるのに、誰も入る事が許されていない場所。

 だけどそれが、この町に法術師達が居る理由だと、先生は言っていた。

 塔には厳重な封印がある。誰も入れず、誰も出られず。それが一体何を守っているのか、そんなもの私達が知るよしもなかった。

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