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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
十一話目 見染められた者
139/287

1 2-38 妖精&妖怪

「うきゅう……」

 結果は瞬殺。思い切り突っ込んで来た妖精を、先生は一蹴するだけで倒してしまった。結果、地面に倒れ伏す妖精と、それを見下ろす先生の図が。

「他愛のない。だがまあ、目覚めの運動程度にはなったな」

 腰に両手を当て、大きく背を反らすと共に伸びをする先生。

 そう、実際先生は強い。ここいらに居る妖怪や妖精など、襲って来るものを大抵簡単に倒してしまえるくらいには。もっとも先生曰く、ここいらの妖怪妖精なんてものはそう強くはない、住処を追われた故に行き付いた弱々しいもの、という程度らしいのだけど。

「どれ、とっとと起きないか。そんな所で倒れたままでは気になってしまうではないか」

 先生が、妖精の所に歩み寄る。肩を揺さぶっていると、やがて妖精が目を覚ました。

「な、何よ。あたしをどうするつもり?」

 警戒する妖精。体を起こして、先生から身を引かせる。

「そう構えるな。お前は腹を空かせている。そうだな?」

「……そうよ。あんたらだって食べられるくらいにはね」

「その時はあと腐れなく浄化させてやるが」

 う……と妖精の表情に苦みが。力の差が解っているのなら、そりゃあ。

「まあ、折角来たのだからな。クオンよ」

「あ、はい」

 突然、先生が僕に話を振った。……なんとなく妙な予感はしたけれど。

「朝餉の量は充分にあるかね」

 やっぱり。そういう方向になるか。そういう人なんだ先生は。

「一応まあ、作り足す事も出来ますけど」

「宜しい。ならば妖精よ、半分の半分程度なら食っていくがいい」

「なにそれ、いいの?」

「悪ければ言うものか。で、どうするかね」

 うーん、と妖精は考え込む。まあ食の細い先生の事、少し量が減ったとしても問題ないんだろうけれど。

「ふ、ふん。別にあんたの為に食べてあげる訳じゃないんだからね」

 つっけんどんな態度。だけど否定をするでもなく、妖精は鍋の前に陣取る。

 鍋の中。火の通った汁物は充分に暖かくなっていて、味も保障出来る筈だ。

 だけど、まさか妖精を交えて食事するなんて、聞いた事がないんだけど……。

「どうだ。味の方は」

「ふ、ふん。人間の作ったものにしてはまあまあね」

 と言いつつ、お椀を口に付け、ぐいぐいと汁物を口に運んでいく妖精。

「それはいい。クオンは料理が上手く出来る」

 それって、料理以外は駄目駄目と言われているような。

「僕はそれくらいしか」

「料理だけではないぞクオンよ。お前は大抵の事はそつなくこなせるではないか」

 ……それは買い被り過ぎだ。僕には――。

「……僕は、何事も上手く出来る自信がないんです」

「解らんな。はたから見れば私よりも色々器用にこなしているように見えるが。――まあいい」

 ずずっと、先生がお椀の中身を飲み込む。

「では折角だ。クオンよ、そこの妖精と戦ってみるがいい」

「えっ、そんな」「嫌よあたしは! 今日はもう食べられないわ!」

 突然の危険察知に、汁物の入っていたお椀を放り投げ、妖精は脱兎飛んで逃げていった。

「っはは、どうやらふられてしまったようだな」

 いいや、助かったんだ。だって僕が、誰かを倒すだなんて事出来る筈がないんだから。

“けっ、つまんねえな”

 そういう台詞、表に出て言っちゃ駄目だからねマノクズコ。




 食い物を奪わんとする妖精が現れた、数日後。

 今日も今日とて暇だ。茶をすすりながらまったりとしている。クオンには課題を与えているが、そのくらい簡単に片付けてしまえるだろう。

 あいつは、ある意味才能特化型だ。得意分野と不得意なものの差が大き過ぎるのだ。故に出来る事となれば、特に強い才能を発揮する。

 問題なのは、自分の能力に自信がないと思っている節がある事くらいで。

「……ふう」

 茶をすすり、一息吐く。こうもやる事がないと、気の緩みもそうだが、体の方もなまってしまうようで、少し心配してしまう。

 どんどんどん! とその時戸を何度も叩く音が。

「こらあ! ここに居る奴出て来なさい!」

 ……。

「ふう……」

 どうやら暇は潰れそうな感じではあるな。

 茶の残りを飲み干し、卓の上に湯呑を置く。

「せ、先生?」

 クオンが心配そうな顔をして、未だどんどん鳴っている戸の方と私を交互に見やる。

「案ずるな。お前はいつも通りにしていていいぞ」

 多分、あれの目的は私の方にありそうだからな。何者なのかは知らないが。

 そして寝床に置いてある短刀を持ち、戸を開けようと、そこに手を掛けて――。

「どっせらー!」

 顔面に、小さな拳が、

 見えた時には、もう守りに入る猶予もなくて。

 ごがん!

「ぐはっ」

 綺麗に顔面に一撃が入った。おまけに馬鹿力のお陰で、卓まで巻き込んで吹っ飛ばされる。

「うわっ!」

 卓の傍に居たクオンが悲鳴を。がしゃんと大きな音を立てて、その時には私は冷たい小屋の床に倒れ込む格好で。

「……ぐう」

 不意打ちとは卑劣な。体の所々が痛む。起き上がろうと床に手を付くが、

「ぐふっ」

 力が入らず倒れ伏す。

「あれ、勝っちゃった」

「先生!」

 素っ頓狂な声と、クオンの叫び声が。

「あっははは――かたきは取ったわシウ!」

 シウ……あの時の、妖精の名か。

「なら次は――」

 妖怪の目が、クオンに向かう――。

「ひ――」

「あんたかなあ、食べて欲しそうな奴」

「させるか愚か者め」

 倒れたままで符を投げ飛ばす。爆音の符。当たれば音と衝撃で、しばらくまともな感覚で動けなくなる筈。

 なのに。

「ふっ」

 左手をぴんと伸ばして、その腕で符に触れる――いや止めたのか。

 爆音が腕の部分までで止まっている。これでは衝撃も、充分な効果を与えられない。意外に出来るぞこの妖怪。というか、なぜだか私の手の内を知っている?

「ふん、いいわ。あの巫女を倒す前に、あんたをまずぶち倒す!」

「……巫女?」

 私の、知っている巫女とは山のふもとに居を構える――。

「……そうか」

 それは、それは絶対に、

「ならお前は、浄化だ」

 許してはいけない事なのだ。だから立ち上がり、短刀を持った腕を、まっすぐに妖怪に向ける。

「あっははは、そんなちっこい刀で私を倒せるつもり?」

「さてな。やってみなければ解らんだろう?」

 ゆっくりと、歩み寄っていく。短刀をまっすぐ持って。

「そりゃあそうよ。だから――」

 妖怪が身を引く。広い所で私を待つつもりか。

 ……それとも、この技の強さを警戒している?

「っふふ、様子見」

 妖怪が、そう呟いた。

虚御うつみの型”。解っているから、近付かないというのなら――。

 私も外に出る。あの妖怪も只なんの考えもなしにここに来た訳ではあるまい。なんらかの目的を持ってここに居る筈だ、と思う。例えば妖精は比較的短絡思考を持って行動する事が多いが、妖怪の方が鮮明に自我を持っている。

 しかし。こんな頭の回る妖怪なんて、この辺りに居たのか?

「……一つ教えろ。お前はなぜにここに来た?」

 私の質問に、きょとんとした顔を見せる妖怪。

「なぜに、か。なぜにねえ」

 少し、考え込む仕草をする妖怪。

「まあ、ここはアレでしょう。“私に勝てたら教えてあげるわ”!」

 ……まあ短絡思考を持っている妖怪だって、居るのだろう。例えば今目の前に。

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