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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
九話目 a Sleeping Time
128/277

1 2-27 カンナとサキ

「目が覚めたか」

「僕としては、君をこれ以上傷付けるのは、本意ではないからね」

 ふらふらとしたまま、“ツヅカ サキ”は私の言葉に応える。

「それは良かった。お前が元に戻らないとなれば、これ以上の力技に打って出るしかなかったぞ」

「それは怖いなあ。一応これも僕の体なんだけど」

 くつくつ、と笑いを零すサキ。うむ確かにこの物言いや笑い声はサキのものと考えていいだろう。

「では、今のうちに解説して貰おうか。お前達の絡繰りはどうなっている?」

「手短に話そうか。キリュウ カンナはそこの怪盗、ナツバナ ミミコに対する者として作られた人格だよ」

「対する者?」

「追い駆け、捕らえる者という意味さ。だから所属も役人側に居る。思考の方もね。今現在、僕の中での優先順位はミミコを捕らえる事にある。カンナの意識が戻れば、この場に現れるのはカンナの方だ」

 二重人格が、どういう理屈となっているかは解らないが。

 当人の言葉を信じるなら、今はあのキリュウ カンナの意識が弱く、その代わりとして意識の強いサキが表に出て来られている、という事。

 ではもし、カンナの意識が強く戻れば。

 そこで優先順位が逆転するという事か。

「今なら僕も抵抗する事はない。僕を簀巻きにでもしておけば、カンナもそこから動けないよ」

「――成程。ではそれは却下だ」

「ん? なぜだいエン君?」

「優先順位で、キリュウ カンナが上なら、いつそれが出て来てもおかしくない。お前には近寄りたくないな」

「……へえ?」

「お前を観察して、サキである限りはここで休めて策も練れる。お前はそこで黙って見ていろ」

 ――っははは!!

「――流石はエン君。やっぱり君は最高だ。そこまで頭が回るなら、僕がとやかく言うべきではないね。

 いいだろう。可能な限り、僕はここから動かない。動いたなら、それは僕ではなくキリュウ カンナだ」

 約束だ。“こいつ”なら、そこは絶対変える事はない。

「もっとも、そこまで時間を与えられたら、カンナは絶対に君には勝てないだろうね。で――頭は冷えたかよ? アサカエ エン?」

 声色が変わった。同じ姿なのに、雰囲気がまるで違うものになる。

「……早過ぎるぞ、キリュウ カンナ」

「てめえのが弱過ぎたんだよ。元が同じだってんなら、サキがまともならあたしもまともって事だ」

 それはそうか。同じ体に居る訳なのだから。先程サキが表に出て来れたのは、カンナの時に弱らせる一撃を与えたから、と考えればいいのか。

「その割には、素直に代わってくれたな」

「あいつは筋金入りの変態だからな。あたしも敵にはしたくねえ」

「言っている事が違う気がするが……」

 サキは決してまともな奴ではないぞ。即ち根っこを同じくするこいつも。

「自覚はあるんだな。私は変態好みではないんだが」

「へえ。なんならいっそ、あたしと代わるか? 担当」

「それは困るな」

「へえ?」

「変人がいきなり別のまともなのになったら、対応に戸惑う」

 ――っきひひ!!

「最高の褒め言葉だぜあいつにゃあ!」

 狂ったように笑い出す“カンナ”。まったく、これで同一人物だとは思えんな。サキがまともではないのは充分承知しているが、見ている限りこいつも大概ではないか。

「ならあたしとは敵同士って事だな。あたしはサキ程優しくねえぜえ?」

 それも充分承知の事。こいつの素自体がまともでないのなら、誰に変わろうがまともにはなるまい。

「行くぜえ?」

 そしてカンナは、両手の中に私と同じような小刀を現す。

 戦わざるを得ないか。一応知り合いの身なのだから、派手な傷など付けたくはないが、向こうはお構いなしの様子。

 私と対する、両手に小刀を抜き出して迫るカンナ。その身を、低く構えて、

「うらあっ!」

 飛んで来るような急接近。私の小刀も、カンナの得物をはじくようにぶつけるが。

「く――」

 それでもサキとは動きが違う。いや正確にはサキよりも速い。

 通常の対処は厳しい。ならば、

 爆音――、

「実行!」

 音の衝撃を飛ばし、カンナにぶつける。

「来ると思ったぜ」

 その、見えない筈の爆音の弾を、カンナは小刀ではじいてみせる。どおん! と爆音はしたが、

「てめえの術は、見切ってんだよ。“サキ”の時からな」

 爆音の術が、効かない。いや二度も同じ手は通じないというべきか。カンナに直接当たった訳ではない。ならばそれは只のでかい音だ。指向性を持たせているとはいえ、良くても耳鳴りがするとか、その程度の事だろう。

 ――だが今の対処で解った。カンナの動きには、僅かながらサキの動きが混じっているように見える。爆音を防いだのがその証明だ。

 そういう事ならば、組み伏せられる機会もあろうかというところだが。

「はっはあ!」

 笑い混じりに剣戟を迫らせるカンナ。――次第に押される。それは向こうが遠慮なく攻撃して来るのに、私はある程度加減をしながら戦っているが故に。

 その剣戟も激しいもので。尚且つ私の後ろにはミミコが居る。奴は狙いをミミコとしている故に、それをかばいながらだ。逃げ出す隙も見付からない。制約という意味で、対するにはつら過ぎる。

 それでもカンナの小刀をさばき、大きく跳び退く事で僅かながら間合いが出来た。

「参ったな。これでは千日手ではないか」

 こいつを無事に居させる、という点を守れば、こちらには制約があり過ぎる。

 かと言って加減を解けば、こいつは五体満足では居られなくなるぞ。一応知り合いなのだから、あとに引きずるような真似は避けたい。

「なら――」

 ならばこちらも、奥の手を。

「逝ねやアサカエ!」

 ――冗談。私は――、

 そう簡単には、くたばるたちではないのだと。解っている筈だ、“サキ”を知っているならば。

 剣戟を受け止める。やはり思った以上に重みがあるが、その程度だ。

 こいつを、止める手段はもうこれしか。

「サキぃ!」

 切札の名を呼ぶ。二度も効くものかと思っていたが、その名に反応してか、

「ぐっ――」

 カンナの体が、僅かながら止まる。内側からの抵抗か、一秒にもならない程の隙だったが、

 その一秒、貰った。勢いのままカンナに突っ込み、抱き付くような格好に。

「てめ――」

「私の術を、見切ったと言ったな」

 密着状態だ。勿論私は小刀を使うつもりはない。だが、

「これでもか?」

 耳元に、ふうっと息を吹き掛けるように。

 ただしそれは――、

「ぎぁっ!!」

 カンナの体が、びくんと跳ねて、そしてその身がぐったりとなる。

 息に交えて、爆音の種を仕込みまくったものだ。

 それを耳元で聞かされたのだから、それは堪ったものではなかろう。

「さて」

 カンナは倒した。一応は傷を付けずに。あとは――。

「出て来るがいいぞ。ナツバナ ミミコよ」

 私の後ろ、聖堂の隅の方で身を隠していたミミコを呼ぶ。

「――終わったのかよ」

「ああ。こいつはしばらく起きんだろうよ。お前はどうする?」

「どうするも何も。あんた、あたしを捕まえに来たんじゃないのかよ」

「別に役人に売り渡そうなど考えていないぞ。それで得られる得もない」

「いいのかよ」

「うむ。お前はお前の信じた事をするがいい。私もそれを止めるつもりはないしな。ああ一つ訊きたい事があってな」

「訊きたい事だ?」

「お前、昨日の夜に山のある森の方に行かなかったか」

「は?」

「怪しい人物が行ったと聞いてな。それをお前と疑っていたのだが」

「んな暇なんてなかったよ。あたしは獲物を吟味するのに忙しかったからな」

 ……やはりか。義賊とはいえ盗人、犯罪者の言葉を簡単に信じるのはいかがかとは思うが――。

「だとさ。どうなのかねサキ、いやカンナよ」

 そちらの方を見ないまま、私は彼女に呼び掛ける。

「……、はあ」

 ゆっくりと、背後で人が動き出す気配がする。

「気付いていたんだねエン君」

 そうだ。あの夜の時の不審者、あれはミミコでもこいつでもない。こいつが擬態したカ

ンナだったのだと。あの笑いを見て、合致したに過ぎないが。

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