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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
九話目 a Sleeping Time
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1 2-26 もう一人の

「なんなんだよお前はっ」

 手を引かれ、後ろを共に走る怪盗が抗議の声を上げる。

「言った通り。私は只の一般人。役人でもその駒でもない。お前を捕まえる理由もないのだから、その逆になってやろうとな」

「はあ?」

「怪盗、なんてな。解りやすいではないか」

 走りながら、怪訝な顔をする怪盗。だけどもまあ、それがまた面白い。

「お前はまあ、悪人なんだろう。だが、真っすぐな悪人だ」

「っ……」

「捻じ曲がった善人よりも、ずっといい」

「お前は……」

「さてな。私は事が面白ければなんでもいい」

 そうして言うなら、多分これは捻じ曲がった常人、とでも言うか。

「それよりも、一つ質問がある」

「……なんだよ」

「お前、“あいつの顔に見覚えが”?」

 ……。

 考え込む。沈黙が答えとして返って来た。

「思い詰まるというなら、ない事もないらしい」

「いや、まさか」

 背後を見やる。追手が居ない事を確認し、ゆっくりと足を止めた。

「お前に繋がる者が居るのなら、それはあいつだ」

 少し、驚くような顔をして、そしてまた考え込む。

「……カンナ」

「どうやら、見当違いでもなかったか」

 カンナ、と言った。それが誰とかはどうでもいい。

“あいつ”を知っている、そこだ。そこが問題。

「とにかく身を隠す。あいつは私の思考を予測出来るから、お前に連れていって貰う事になるが――」

 ……いやそれもまずいか。もしもこのナツバナ ミミコが言っていたカンナという者が、サキと同様の変態的能力を持っていたとしたら。

 それは、このミミコの思考も予測出来るという事だ。どこに逃げるか、どこに身を隠すか、なんて事も読み切れてしまうに決まっている。その二つが合わさったとしたなら、それは厄介極まりないな。

 ……どうしようかね。せめてどこぞの物陰に身を隠して、少しでも考える余地を――。

「……誰か来るぜ」

 とんとん――とん。

 ――建物の、壁を叩く音が。もう来たか。速過ぎる。

「こんばんは、だなあ。ミミコよ」

 聞き覚えのある声。

 だがその口調が、全くの別人に思えた。

「サキに聞いた通りだぜ。“初めまして”だなあ、アサカエ エン」

「……“初めまして”だな。サキ以外の“お前”を見るのは初めてだ」

 きひひ。

「随分と冷静じゃねえか。ぎりぎり思い至ったってとこか?」

「だな。お前が完璧主義で良かった」

 そう、その通り。そいつは完璧、そうしていた。だから私がここで会ったそいつは“ツヅカ サキ”になったそいつでなくて、“ツヅカ サキ”の物真似をしていたそいつだった。そう見えた。

 だから違うと思ったのだ。これが、“サキ”のままで、全く異なる思惑を持っていた、となればまんまと引っ掛かっていたかも知れん。

「成程成程、騙そうってのも浅はかだったな。だったら、これからどんな展開になるかも、大体想像付いたかい?」

 ――きひひ、と笑う。それは凶悪な笑顔だった。

 その顔は、やはり見覚えがあった。私の小屋にて、昨日の夜に。

「あたしはサキじゃねえ。あいつはてめえにぞっこんみてえだが、あたしにゃそんなの関係ねえ。邪魔されても困るんだ」

 まったく、本当に多重人格かい。本物と相まみえるのは初めてだぞ。

「黙って見てなよアサカエ エン」

「そうはいかないなあサキよ」

「あたしはキリュウ カンナだ。間違えて貰っちゃあ困るな」

 だろうな。こいつは仕事には完璧に対する性質だ。故にその点においては非常に厄介な相手となろう。

 だが、こいつには、サキとの接点がある。見た目が同じならば――。

「お前がサキの知り合いならば、一つ言伝を頼みたいんだが」

 にや、と笑みを浮かべて、言う。

「“私はサキを、愛している”とな」

「なっ――!」

 掛かった。駆け出す。動揺した今の内にねじ伏せる!

「――なんてな」

 げ。

 どかり。とそいつの蹴りが腹部に。

「ぐは――」

「精神的動揺ってか? その手にゃ乗らねえ」

 うぐう……きつい蹴り。衝撃の強さで、その場でうずくまってしまう。対するサキ――いやカンナと言ったか、そいつがまた、きひひと笑う。攻撃的というか。体の動きまで他人になっていないか? ……或いはこれが、こいつの本気だったりするのかも。

「今はもうてめえに用はねえ。黙って見てろや」

 ……そうだ。

 こいつはそう仕込まれたんだ。その点においては完璧だ。

 そうとも確かに完璧だ。どちらの意味においても。

 だが、付け入る隙がそこにあるとすれば。

「サキぃっ!! どうせそこらで見ているんだろう!!」

「っ!?」

 私の大声に、キリュウ カンナは少なからずの動揺を見せた。

「姿を見せろ!」

 符を飛ばす。

 爆音を仕込んだ音の符。

 それを真っすぐ、“あいつ”に向けて、飛ばす。

 そいつは身を守ろうとするが、音はそれでも貫通する。

 どおん! と衝撃が。

 そしてカンナの体が、ふらつく。

 だが弱い。いや敢えて弱くした。強過ぎては困る。完全に気絶して貰ってはいけない。

 ……。

「……力技過ぎるね。エン君」

 声。

 弱々しいものだったが、あいつのいつも通りの声が。

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