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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
九話目 a Sleeping Time
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1 2-25 怪盗の美学

 ――そうして、しばらく詰め所の中で待っている。

 怪盗とは夜に来るのが定番という。だとしても、いつ来るか解らん時点で暇で暇で。茶をすすって眠気を覚まそうとはしているが、サキとのやり取りを見ていた他の役人からは腫物を触るような扱いを受けているし。会話さえもない状態で、サキも忙しいとなると、本当どうしてこんな所でぼーっとしているのか解らなくなって来る。いっそ仮眠でも取れればいいのだがな。

 そうだ事が起きなければ私も動きようがない。という訳で来るまでに眠らせて貰おうかと手近な奴に声を掛けようと――。

 どごん!!

「なあっ!」

 爆発!?

「あいつだ! 急げ!」

 本当予告通りに来たのか。

 しかしまあ、派手だな。お陰で役人は大騒ぎで出ていって――。

 ――いや。

「……爆発を起こすだと?」

 何故、そんな目立つ事をする?

 わざわざ犯行予告を出す。

 予告通りに事を仕掛ける。

 そこで何か、予告以外の異常が起これば、人員を裂かざるを得ない。当たり前だ、世を乱す騒動を黙って見逃す役人が居てはいけない。法を守る皆の為にあるべき役人は、民の為、等しく働かねばならない。

 では本命は?

 ……これは典型的な撹乱ではないか。

 そこへ向かったとしても何もあるまい。只爆発の痕跡を見るだけだ。勿論、皆の為に危険を排する必要はあろう。だが肝心の主犯がそこに居るというのか? いや居ないだろう。当たり前だ。わざわざ意味のない所に居続けるものか。

 猶予はまだある。今この場、この町において、怪盗が狙いたい所とはなんだ。勿論それは――。

 空想しろ空想しろ。派手に仕掛けながら、それでも目的はそれ一つの筈。

 撹乱し、手薄にし、少数が居たとしても、対応出来ずに狙えるものが、ここにあるなら、

 ――。

 ――来るよな。

 どごん!!

 また爆発が。

 ――。

 ……狙いは定かだ。何も変わらない。

 どこで何が起きようとも、

 狙った獲物に変わりはない――。

 ……考えて、走る。

「お、おいお前! 待ちなさい!」

 役人の静止の声が後ろから掛かるが、だがそんなものは無視だ。

 目当ての物があり、そして、今現在無事な所。

 目的の者はそこに居る――いやそこにしか居ない筈。


 教会。女神像。

 役人達が分散して行動している、今以上の狙い時はない。

 爆発が起きて、そうして役人の動きを分散させ、尚かつ爆発から離れた場にある、教会。

 ばたん。とその教会の入口の扉を開ける。

 ――はあ、と全力疾走の疲れによる息を吐く。

「――初めまして、ナツバナ ミミコ。或いはナイトナイトよ」

 空想の結果。私はここに行く。

 暗い聖堂の中、そこに怪盗の姿は居た。

「……へえ、やっと見付かったか」

 見付けたのは小柄な人影。手に銀の女神像を持つ、暗闇に溶け込んでいるように暗い服を着て佇む女だ。

「役人か、治安隊か、お前みたいなの見掛けてねえけどな」

 怪盗らしいのからしくないのか、見目は好いのに乱暴的な口調で怪盗は問うた。

「神社の息子。単なる一般人だよ」

「っははっ! なんだなんだ。役人ってのもだらしないなあ。なんでもない小僧に出し抜かれるか」

「言ってやるな。そもそも目的が違う故な」

 私の目的は、只の一つなのだ。ナツバナ ミミコという怪盗を捕まえる、それだけの事。それ以外に意味などない。どこで何が起ころうが、目的が変わる訳でもない。故に要らない陽動などに惑わされなかった、故に今こうして怪盗の前に居る。

「それに、役割も次々変わる」

「はあ?」

 と、ミミコが怪訝な声を漏らす。

 ……、来る、よな。

 私がここまで辿り着いたなら、

 私の思考を読み切れるというあいつは、

 ――こんこん――こん。

 開いたままの、扉を叩く音が。聞き慣れた、最後の一回は間を開けての音。

 そう、私がここに居るならば、サキは絶対にここに来る。怪盗の所でなく、私の居る所に。

「――奇遇だね。エン君」

 彼らに、怪盗は見付けられなかった。

 だが、怪盗を追う私は見付けられる。

「奇遇と言うには都合のいい話だな」

 目的はそこにある。サキめ、そっくりそのまま、私を利用してくれやがった。

 ……だがおかしいな。

 サキも役人側に居る筈なのに、私と同じ結論に至らない訳がない。サキの目的も怪盗ならば、もっと早くに事件は解決していても――。

 そう、今更この引っ掛かりに疑問を抱く。サキも馬鹿ではない。私など利用せずとも、怪盗に辿り着くのは時間の問題だった筈。なのに。

 そう思って、サキと怪盗を観察してみると。

 ……怪盗の方におかしな様子が見て取れた。

 こいつは、サキを見て、

 何か訝しげな表情を。

 ……。

 まさか、

「さあ、そいつを捕まえて行こう。それで事件は解決だ」

 違う。こんな解り切ったお膳立てがあるか。

 ない。“この話には裏がある”。

「ツヅカ サキよ」

 怪盗に駆け寄り、ぐい、と怪盗の手を掴む。

「んわ!?」

「いつから私はお前の駒になった?」

 だっと、走る。

 怪盗の手を掴んだままで。

「うわあっ!」




 ――っふふふ、

 逃げるのかいエン君。

 そうとも、それでこそ面白い。

 ――きひひ――!!

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