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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
八話目 神に仕えた者の子
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1 2-16 郷に入っては

 そうして、計四人分の甘味と茶が届いて、四人並んで外の椅子に座り、食い物飲み物を頂いていた。

「みたらしは一つ返して貰うぞ」

 言って、隣に居るサキの皿からみたらしを一つ奪う。

「こういう所は几帳面だね君」

「当たり前だ。なんの為に注文を増やしたと思っている」

 勿論それは、サキが取ったみたらしを取り返す為でもあるのだが。甘い物二つと茶の分量が丁度いいから、帳尻を合わせないと気が済まんのだ。

 取り返したみたらしを、早速口の中に入れる。甘い味が口いっぱいに広がっていって、そのあと、ずず……と茶をすする。渋めの茶とみたらしの組み合わせは、なんとも言えない程に美味い。

「ふう……」

 酒以外で言うならば、これ以上に美味い飲み物を私は知らない。幸福というのは、こんな些細なものでいいのかもなあ。他の面子も、皆同じように食って、飲んでで深い息を吐いていた。

 うむ、このゆったり感が私の好み。寒くない日であったなら、このゆったり感のままどこぞの草原などで寝転んでいるのも悪くはないなあ。

「はっ。まあそこそこ腹は膨れたな」

 言って、マノクズコが手に持っていた串――刺さっているものがなくなったゴミを、目の前に放り捨てた。

「店先にゴミを捨てちゃあ駄目だよ。行儀が悪いからさ」

「関係ねえな。人間サマなんかの倫理なんてな」

 クオンの言葉にも、マノクズコは耳を貸さない。常識知らずというか、或いは悪ぶりたい心持ちなのかねえ。確かに、鬼という種族に人の倫理を説いたところで通じるとは思えんが。

「要らないものは要らないでいいがな、物はちゃんと祓っておかないと祟られるぞ」

 マノクズコが放り捨てた串を拾い上げる。そしてそれを私の皿の上に乗せた。

「付喪神かい?」

 そこに、私の隣に居たサキが口を入れる。

「寧ろ信仰だな」

「ああ、神社の子だからねえ、君」

「……そうだったな」

 そういった知識が、なんとなく頭の中に浮かんで出て来た訳なんだがな。

 ……確かに、そういう事を学んだ記憶はない。ないのに知っている。これはいかに。あの時迷いを解いて貰ってから、知識量が増大したという自覚はあるが。

「ちょっと疑問なんだが、君ってお祓いとか出来るのかな?」

「……、なぜ?」

「そんな感じの仕事があるんだよ丁度。良ければ君に任せたいとも思っているんだけれどね」

「お祓い? 霊絡みか?」

「そっちの方がまだ楽だったかも知れないけれどね」

 サキが含みを持たせて言う。

「霊の方がまし……」

 ならば悪霊、怨霊? 私の手に負える相手なのか、見てみないと解らん事ではあるが。

「祓うのは、幽霊でも妖怪でもない。ある種の怪物さ」

 ……怪物退治だ? まあ、そんなもの慣れていない訳ではない事であるが。もったいぶって言う程の事かと。

「……まあ話を聞いてやってもいいが」

 そう言うと、サキは待っていましたと如く、にやりと笑みを漏らした。そうして私の真ん前に動いて、話しを始める。

「標的は西方の国にある、教会の関係者さ。いわゆる狂信者という奴でね、異なる教えとなればその全てを破壊しようとする危険人物だよ」

「異なる教え?」

「うん。いわゆる異教徒は全て敵、という考えさ。この国の者では理解の出来ない考え方だよ。この国の根っこでは、神とは全て柱として信仰される立ち位置にある。神職の血を引く君なら解るだろうが、ここではどんな神も等しく柱と扱われるんだ。上下関係はあろうと、神様は神様だとね。だが唯一絶対の神を崇める奴らとしては、それは許されざる事だろうね。唯一絶対、即ち完全なる神は一柱のみだと。故に神の名の下に異なる考えを断罪しようとする。理屈としてはおかしくない流れになるだろうさ」

 充分におかしいが。己の意識の押し付けではないか。

「どうしてそんな奴がこの国に?」

 確かにこの町には西からの文化が大きく入り込んでいる。だがそれはそれ、危険人物を入れさせる理由にはならない筈だ。

「答えは簡単。そいつは西方の教えに染まったエクスキューショナーだからさ」

「えくす……?」

 聞き慣れない言葉で言われても。まるで意味が通じんのだが。エクスと来れば私には別の言葉がくっ付いて来ると想像するんだが。

「断罪人、という奴さ。人の殺しに長けている。勿論、建前上は合法的にね。そいつがこちらへの船に潜り込んだんだ。一般人を装ってね。奴には神社も寺も、場合によっては教会も関係ない。東の教えに染まった教会も、異教に染まったと思い取られて襲われる事は明白なんだよ」

 また面倒な奴が現れたものだな。お奉行の裁きでもあるまいし、関係のない奴に殺しを合法的になんて理屈が通る訳がなかろうに。

「それで、私か」

「その通りさ。殺しに長けている者の相手は、殺されない事に長けている君しか居ないとね」

「そいつは、一人で来たのか?」

「うん。現状確認出来ているのはそいつ一人さ。だが故に厄介と捉える事も出来るね。一人でこの国の教えを潰そうと動いているのだから」

「随分な自信家だな」

 たった一人で戦争でも始めるつもりか。幾らなんでも無茶が過ぎるぞ。だがサキの言葉通りならば、それだけの戦闘能力があるのだろうとは察する事は出来よう。

「そいつの居場所は?」

「監視に出していた間者がやられてね。幸いにして命は拾ったんだけどさ」

「解らないのか?」

 だとするとお手上げだぞ。私には人探しの才はないらしいのだからな。

「最後に確認された辺りから洗い出しを行なっているよ。どうせ奴の標的は、宗教に絡む所に間違いないんだからさ」

 宗教争いか。西方の国では様々な宗教が、それこそ縄張り争いを繰り返しているとは聞いた事があるが。

 そして、その強さを決めるのも信仰という名の力なのだと。

「血生臭い歴史か。どこの国にでもあるものなんだろうが」

 それは多分、形や思考を変えて。結局人間は、何が切っ掛けで争いを起こすか解らないのだから。

「相手は一応異国人さ。こちらの文化に馴染む事はないだろう」

「だろうな。郷に入っては郷に従えという言葉を知らないのだろうな」

「自分の郷が全てなのさ、そいつには」

 サキが、いつの間にか食い切ったみたらしの皿を私の皿の隣に置いた。サキの準ずるこの国には、正当に神の血を継ぐ帝様がいらっしゃる。故にそういう意味での争い事など、歴史を辿っても殆ど聞いた事がない。

 ……外の国の教えが入るまでは。

「そろそろ間者から連絡も入る頃だろう。どうかな? 受けてくれるなら案内はするが」

「……さて、どうするかね」

 受ける受けない、という問題ではない。色々と思考を巡らせて、それらの問題をどうしたものかと考えていた。

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