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二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
六話目 魔法使いの弟子
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1 2-4 いつもの注文

 さてと。

 館からは出たものの、もやもやした気分は消えないままでいる。

 ……庭に巻藁がある、とか言ったな先生は。

 そういえばあったな。庭には色々と訳の解らないものが。

 どうしたものか。

 先生の言い方では、それらは好きにしていいという事だろう。

 ……宜しい。

 せめて一つ、自己主張くらいは残しておこうか。

 周りを見回し、人の姿、気配がない事を確認してから、先程の報酬の刀を抜く。

「消えてなくなれ。外道っ」

 本心からの一撃。それによって巻藁は一刀両断。あまりに良過ぎた切れ味によって、ばっさりと二つに断ち切られた。いやつい勢いが余ってしまった。これはなかなかいい刀だ。単なる土産には勿体ない。

 言い訳終了。すっきりした余韻を得る事が出来た。ではさっさと出ていくか。




 さて先生の依頼を引き受けたはいいが。

 弟子となる者、それが向こうから来てくれるというのならば面倒が少なくていい。折角だ。わざわざ町まで来たのだから、茶屋に寄って茶葉でも仕入れていこうかね。

 町の端辺りにある、行きつけの茶屋にて。店に入る前から「いらっしゃいませー」と、茶色の柄の割烹着を着た、元気の良い看板娘の声が。

「いつもの茶をくれ。あと茶菓子と茶葉も」

 茶を飲む時というのは、なぜやら甘い菓子も一緒に食いたくなるものだ。

「はーい、エンさん毎度ありがとうございますー」

 商売人としての礼と共に、茶屋の中へと入り込んでいく看板娘。最早完全な顔見知りだよなあ。“いつもの”で何が所望か通じるし、名前だって覚えられているし。そういえば今更ながら、私はあの娘の名前を聞いていない事に気付く。

 うーむ、結構長く通っているというのに、それはいいのか。……まあいいか。知らなくとも会話は出来ているのだし。

 店の前にある木の長椅子に腰を下ろす。ここで飲む茶というのも、私は結構好きだ。

 待つ事少し。

「あの、済みません」

 おっと、これは珍しく見ない客の姿が。見た目は少年、だが中性的な声や顔立ちだから、少女かもだが。そしてどことなく淡々とした雰囲気を感じる。茶屋に入るには少し場違いな感じもしたが。

「人を探しているんですけど。ここによく顔を出すっていう人を」

「お待ちでーす。いつものご注文、お持ちしましたー」

 その時、看板娘が私の所望した三種のブツを持って来てくれた。

「うむ、ありがとう」

 それらを受け取り金銭を払い、早速茶と茶菓子――みたらし団子を一口頂く。茶葉の入った袋は懐に仕舞い込んだ。

「毎度ありでーす」

 と、看板娘の嬉しそうな声を聞く。

「で、君の要件はなんだったか」

「あの、人探しです。ここによく顔を出す人らしくて」

「ほう、人探しかね」

 なんとなく、その言葉を聞いて親近感が。私だって、先生を探して歩き回っていた過去がある故に。

「はい。“先生”からの紹介で、新しい師になる人を探しているんです」

 ん? 師? 私も似たようで真逆の依頼をされた覚えが。

「あの、心当たりは」「もしかして――」

 私と少年の言葉が被る。私は串の刺さったみたらし団子をもう一つ頂いて、

「私をお探しか」

 まだ団子が二つ刺さった木串を少年に向けて、直感を問い質す。

「え――もしかして、新しい師って……」

「うむ。多分だが私の事かな」

 団子を一つ、食いながら答える。絶句する少年。まあ気持ちとしては解らんでもないが。どう見ても背格好からして同い年に見えるような私が、師であるとは見え難かろうなあ。

 しかし、話を受けていきなり出会う事になろうとは。確かに先生は、明日の昼“まで”には着くと言っていたが、予定よりも一日くらい前倒しになったではないか。まあ確かに“まで”ではあったが。

 串にある最後のみたらし団子を頬張る。もぐもぐ食い切ってから、

「源法術師、リーレイア・クアウルの弟子。アサカエ エンと言う。君の師となる予定の法術師だ」

 湯呑を持ち、ずずっとすする。そして団子のなくなった串の先をぴっと少年に向ける。

「宜しく頼もう、ヒイラギ クオン君」

 にやりと笑む。するとクオンは、背筋をぴんと伸ばして。

「よ、宜しくお願いします。アサカエ エン先生」

 うむ、礼儀は良いようで。師になる身としては気持ちが良い。

「――にしても、あの女も悪い奴だよなあ。こういうのあれだ、“スケープゴート”って言うんだぜ」

 ――その時どこかから口の悪い女の声が。礼儀云々を思った直後にまあ。

「どういう意味だい、それ」

 クオンが、そのどこかからの声に問い掛ける。なんなのか。今の状況を把握出来ない身としては、密かに警戒せざるを得ない訳だが。

「身代わり、或いは生贄ってな。厄介事を押し付けられたんだよそいつはな」

 クオンと私の間に、小さな黒い点が現れた。それは渦を巻くように徐々に大きく、形になっていく。

「よお、あんたが新しい“先生”かい?」

 けっけっけ――と妙な笑い声をして、その姿がまるで幽霊のようにクオンの前に現れ、地に足を付けた。

 褐色の肌に、額には一つの角。着ている衣は質素で、上半身は胸元を覆うサラシと、下半身は袴をはいている。履物はなく、素足で立つ私よりも背の低い女。

 そうか。こいつが召喚され、使役されたという小鬼か。

「そうなるかね。では君が召喚された者という事かね」

「好きでなったんじゃねえけどな」

 うーむ何やら手強そうな匂いが。しかし話が通じる、加えてクオンに手を出さないでいるという事は、本当に使役の成功例という事なのか。

 成程納得。確かにこれは寺院に知られてはいけない案件だな。先生の言う通りならば、寺院のどこの誰に研究材料とされるか解ったものではない。

 ……関わりたくないが本音であるが、前報酬は貰ってしまった訳であるし、出会ってしまったのも事実。つまりもう依頼通りに動くしかなくなった訳だ。

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