表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二重季節 -Alignment Minds  作者: 真代あと
一話目 一色世界
10/279

1 1-7 冗談のような

 何が冗談か。

 私の予想は殆どが当たりであって。

 僅かに外れた予想が、完全に理解の範疇になかった。

 ……冗談。と女と逃げながら思う。

 幾ら術符で、力や詠唱を補った所で、あんな破壊力が、普通の人間の手に余るものか。

 誰だあの札を渡した馬鹿者は。あんな馬鹿者にあんな馬鹿力を。

「ちょっと! なんとかしてくれるんじゃないの!?」

 後ろから、手を引っ張られている女がわめいて来る。

「馬鹿。あんなものに対抗出来るかっ」

「って、あんた法術師なんでしょなんとかしてよ」

「万能みたいに言うな。出来が悪かったんだ私は」

「ああー使えないーっ!」

 逃げる。その間こいつは無茶苦茶に文句を言っていたが、買い被ってくれるな。助かりたいと本気で思うならば、相手をよく見てからにして欲しい。私はそちらの専門ではないのだ。

 そうして追って来る連中から身を隠す為に、また茂みの中に隠れる事に。

「ちょいと仕掛けを置いたからな。少しは時間が稼げるだろう」

 生き延びる為に逃げる。それは至極真っ当なやり方であって。

 私はそれに特化している。通った道に簡単な罠を仕掛けておいたのだ。引っ掛かれば連中は混乱をして、上手く行けば私達を見失ってくれるかも知れん。

「ああもう……センナだったらあんなの簡単になんとかしてくれるのに」

「そいつに頼め」

 立ち去る。

「置いてかないでよっ。見付かったら終わりでしょっ」

 服の袖を引っ張られて、怒鳴られた。

「あまり騒ぐな。見付かるだろう」

「あんたが騒がせてるんでしょ……」

 それは言い掛かりだと思うぞ。私の言動にことごとく突っ込みを入れてくれる奴め。

「私はその、お前の友達のように出来た者ではない。お前よりは出来た者だろうが」

「なあっ、それどういう意味だよっ」

 学んでいたからだよ。ちゃんとした法術師にな。

「取り敢えずだ、解ったのは、あいつらは法術師ではない」

 理由は二つ。奴らはあの符を使って、四言単位程度の間で雷撃を放った。四言単位――即ち、“何が”“どんな形で”“動く”という、最低限の定義に、“実行”を加えた四つの意味。これは、一般に法術師が行う、最小限の詠唱とされる。……分に合わない。奴らは道具を使っている。あの符には術式が記されている筈なのだから、その分の定義は短縮されて然る。筈なのだ。その過程が短縮されていない、という事は、奴らにそれだけの知識がない事を意味している。

 それと、それだけの法術を必殺としなかった事。隠匿の厳しい術師の世界では、余程の事がない限りは、必殺となり得る法術など出しはしない。学問なのだから、本来それは研究用なのだ。一度見切られ、更に解析出来るだけの時間を与えてしまっては、法術師としては死んだも同じ。本人のみが知り得る法を、相手に晒してしまったのだから。

 故に、奴らは本職ではあり得ない、まがい物の法術使いだ。法術まがいの事を、他人からの貰い物と思って軽く見ている。そんな事を解りやすく説明してやる。

「故に奴らは法術使い。どこからか金で符を買ったか、作ったか作らされたかした馬鹿者が連中の仲間に居るのだろう」

 現状思い至るのはそのくらい。とにかく、何やら面倒な者が関与している筈。私の予想としては、最初に法術をぶっ放した、あの顔を布で隠していたあいつが怪しいと思うが。

「なんだ……あんたってまるでへっぽこって訳じゃあないんだ」

 ……置き去りにしようかこいつ。

 だが、今ここで戦力を減らすのは得策ではない。仮にもこいつは賞金稼ぎを名乗っているのだ。ある程度の心得はあると見る。

「ところで一つ、訊きたい事がある」

「何よ?」

「なかなかいい足をしていたなお前」

「変態かおのれはっ!」

 怒られた。

「変態はあいつだけで充分なんだが……」

「言ってる意味が解らんわ」

「何か武術をしていたとかは?」

 ……沈黙後。

「……そうよ」

 肯定した。

「そうでもなかったらあんなの相手にしようって思わんわ。自慢じゃないけれど、先生にも筋がいいって褒められたもん」

 ……先生か。そう聞くと思わずあの人の事を思い浮かべてしまう。別人なんだろうとはいえな。

「一つだ、ここで情報交換をしてみないか」

 はい? と女は首を傾げる。

「私の法術で連中を止める。そしてお前が叩きのめす。上手く運べばお前の好きに出来るし私は逃げられる。いい事尽くめだが?」

「あんたは逃げる事前提なのね……」

「ここに居るのは拉致されたからなんだがな」

「違うっての助けて欲しかっただけよ」

「まあこの際そうした言い分は置いておいてやろう。手を組むのなら、いずれにしろ共に能力を知っている事に損はなかろうが?」

 女は少し考え込む。賞金の分け前の分担でも考えているのか、と思ったが、口にするのはやめた。

「……そうね。四の五の言ってる場合じゃないか」

 吹っ切れたらしい。流石に一人で勝てる相手ではないという事は、連中のやり口を見て解ろう。離れた位置からの強力な雷撃。近付けないとなれば殴り倒す事も出来まい。

「では、まずは名を聞こうか」

「名? 名前?」

「うむ。名を知る事は大切だ。意思疎通も円滑に、だな」

「……まあいいけどさ」

 そうして女は名乗った。「キセクラ ミズリよ」と。

 名乗られたので、私も名乗り返す。「アサカエ エンだ」と。

「アサカエ?」

 何やら、名乗った直後にまじまじと顔を見られる。

「何か? 確かにありふれた名前ではないだろうとは思うが」

「うーん……」

 キセクラはまだ何か考え込んでいるが……今の状況、あまり時間はない事と思うんだが。

「まあいいわ。取り敢えず疑問はあいつらをぶっ倒してからね」

 取り敢えずは保留か。うむその考えには賛成。今は間近にある脅威に対するのが最優先だ。

「で? お前はどうやってあいつらと戦うつもりなんだ」

 武術を使うとは聞いているが、それだけでは多人数を相手にするのには弱い。無勢を引っ繰り返す手段があるのか。或いは何かしらの異能を持っているか。

「まあ、あたしのはいわゆる“気合”ってやつよ。法術とかとはちょっと違う力ね」

 ……成程。確か、この国の隣にある国、“共和国”などには体内の“気”を操って力に変える武術があるとか。

 それに準ずる力を持っているというか。だから例えば一対一に持ち込むならばまず勝てるだろうと。……故に今までに幾らか無茶をやっていたという事か。

「で? あんたはどうやってあいつらの足を止められる訳?」

「私は振動を使う。強いぞ」

「振動? 揺らすだけ? 何か弱そう」

 ばっさりと言われた。

「考え方次第だからいいが……」

 これもまた、“揺らぎ”の一種だ。生き物を相手とするならば、ある意味どんな法術よりも使い勝手が良いものと考えている。……それくらいしか使えない、という事もあるが。

「舐めて掛かるとえらい目に遭うぞ」

「あたしが?」

「全員がだ」

 とにかく、その“振動”を使って相手の頭――脳を揺るがし、動きを止める事が出来れば、法術まがいの術など何も脅威にはならない。あとはキセクラが接近すれば、一方的な展開の始まりだ。

「う、うわあっ!」

 突然の叫び声。罠に掛ったか。

 重畳。仕掛けるなら今だ。

「さて、そろそろ仕掛けていこうか」

「おっけー」

 二人して、草葉の陰を通っていって、声のした方へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ