第六話 新しい生活
その後、俺は他の新人隊員と共に基礎訓練に励む日々を送ることになった。魔法が使えない俺にとって、魔法を駆使した戦闘や捜査の訓練は想像以上に過酷なものだったが、持ち前の体力と吸収力で何とか食らいついていった。
数日後、俺は訓練を終え、再び山本課長の執務室に呼ばれた。山本課長は机の上に真新しい身分証を置いていた。
「斉藤君、基礎訓練はどうだったかな? 魔法に関するもの以外はトップ成績とはさすが元空軍特殊部隊といったところか」
「いえ、冗談抜きできつかったですよ。魔法がこれほど戦術的に重要なものだとは…」
俺は促されるまま身分証を手に取り、確認する。そこには確かに、「公安対魔法犯罪課 特務官 斉藤一郎」の文字が刻まれていた。
「君は今日から正式に、公安対魔法犯罪課の一員だ。これは君の身分証だ。これにより、君は我々の組織の一員として活動する権利と義務を持つことになる」
「特務官……つまり、俺はこの世界で公安の一員として働くということですね」
「ああ、そうだ。そして君には中尉相当の地位と権限が与えられる。魔法犯罪に対する捜査権限、必要があれば他の警察機関や国防軍との連携も可能だ。もちろん、我々の装備や施設も自由に使うことができる」
「なるほど、かなりの権限ですね」
「そうだ。君には、我々の組織内で特別な役割を期待している。君の異世界からの知識と経験は、我々にとって非常に貴重なものだ。その力を、最大限に活かしてほしい」
山本課長はそう言うと、次に封筒を差し出した。中を確認すると、キャッシュカードが入っていた。
「これは君に支給される準備金だ。2000万円だ。住民登録を済ませ、生活基盤を整えるために使ってくれ」
「2000万……ずいぶんと大盤振る舞いですね」
「君がこの異世界でしっかりと活動できるようにするためだ。住居の確保や生活用品の購入、その他必要な手続きを行うために使ってほしい」
俺は金額の大きさに驚きながらも、真剣な表情で頷いた。
「了解しました。この資金は有効に使わせていただきます」
「また、住民登録や各種手続きについては、宮田美咲がサポートしてくれる。彼女に相談すれば、スムーズに進められるはずだ」
数日後、俺は公安の寮を後にして、役所で住民登録などの手続きを済ませた。それから、宮田美咲に紹介してもらった不動産屋を訪れた。
案内されたのは、都内の便利な場所にあるマンションだった。近代的な建物で、セキュリティシステムもしっかりしている。部屋は広々としており、大きな窓からは都心の景色を一望できた。設備も充実していて、快適な生活を送れそうだ。
「ここに決めます。契約をお願いします」
即決して契約を済ませると、俺は次に家具や家電、生活必需品を揃えるために大型ショッピングモールへと向かった。
新居に戻り、買ってきた食材で簡単な夕食を作りながら、ふと美月のことを思い出した。
「美月も元気にやっているといいな…」
夕食を終え、リビングのソファーに腰を下ろしてテレビをつけると、ニュース番組が流れていた。異世界から来た自分が、この世界でどう役に立てるのかを考えながら、静かな時間を過ごす。
翌朝、俺は早朝のランニングを兼ねて東京の街を散策することにした。朝の空気は爽やかで、街はまだ静けさを保っている。公園や商店街、そして大通りを走り抜けると、この街の新たな一面が見えてくるようだ。
ある広場では、子供たちが魔法を使って遊んでいた。空中に浮かぶ光の玉を追いかけたり、魔法で作ったシャボン玉を飛ばしたりしている光景に、自然と笑みがこぼれる。
東京の街を見渡しながら、これからの生活に思いを馳せた。任務も生活も、俺にとっては新しい挑戦となるだろう。それでも俺は、この世界で自分の力を発揮し、平和を守るために全力を尽くすつもりだ。
新しい住居と日用品を揃え、東京の街を散策することで、俺は少しずつこの異世界の生活に馴染んでいった。まだまだ未知のことばかりだが、一歩一歩着実に前に進んでいこう。
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