第四話 新しい人生
「部長、外で公安の山本課長が来ております。斉藤一郎氏の身柄引き渡しを求めています。」
「なんだと?」
リーダーの表情が一瞬緩み、そして険しくなった。
「おいおい、ここは軍の管轄だ。公安が口を出すことじゃないだろう?」
兵士は少し戸惑いながらも続けた。
「は、はい! ただ…国防大臣の…サイン付きの書類を……」
リーダーはしばらく黙考した後、深いため息をついた。
「分かった、連れて来い。」
しばらくして、公安の山本と名乗る男が尋問室に入ってきた。彼は冷静な表情で軍人に向かって頭を軽く下げた。
「山本課長、これは我々の管轄だ。何故公安が関与する?」
山本は静かに答えた。「斉藤一郎氏は、我々の捜査にとって重要な証人であり、協力者です。身柄を引き渡していただきたい。」
「彼が本当に異世界から来たという証拠はあるのか?」
「我々の調査によると、彼の言動や持ち物、そして美月さんの証言から、斉藤氏が異世界から来た可能性は極めて高いです。また、テロリストのアジトに召喚魔法の痕跡が確認されました。これは通常のテロリストが使用するものではありません。」
リーダーはしばらく黙って山本を見つめていたが、やがてうなずいた。
「分かった。斉藤一郎氏を公安に引き渡す。ただし、わが軍に借りを作ったことを公開するなよ。」
「もちろんです。斉藤君、君には我々と共に来てもらう。」
俺は頷き、公安の指示に従うことにした。国防軍の監視下から解放され、公安の保護下に置かれることとなった。
その後、俺は公安の施設に移された。ここでも厳重な監視と取り調べが続いたが、少しずつ信頼関係が築かれていった。美月は公安の護衛という監視付きではあるが先に解放されたようだ。彼女の事情聴取の結果やテロリストのアジトに召喚魔法の痕跡があったことから、公安は俺が異世界から来た可能性があると判断していた。
後から知ったのだが、美月は橘重工株式会社という軍事産業のご令嬢だったようだ。軍とつながりの強い彼女の父が先日の軍人たちに誘拐された娘の捜索を依頼していたようだ。
ある日、山本課長が再び俺の前に現れた。
「斉藤君、君の話を詳しく調べた結果、どうやら君は本当に異世界から来たようだ。我々もその可能性を考慮していたが、君の話はともかく君の体の検査結果が信頼できる。」
「体の検査結果?」
「そうだ。君の身体を調べたところ、君には魔力回路が全く存在しないことが判明した。この世界に生きる者としては異常なことだ。おそらく魔法の類は一切使用できないだろう。」
「魔力回路!?なんじゃそりゃ!?」
俺は自分の腕を見つめながら、異世界に来てしまったことを改めて実感する。全てが現実離れしているが、これが現実だ。
「それで君は釈放された後に行く当てはあるのかね?」
俺は少し考えた後、首を横に振った。
「正直に言って、ない。元の世界にもあまり未練もないしな。」
山本課長は小さく頷き、何かを決心したように見えた。「そうか、ならば一つ提案がある。君の能力と経験を活かして、我々公安の特別任務に参加してもらいたい。君のような特殊なバックグラウンドを持つ人間は、我々にとって非常に貴重だ。」
「特別任務……?」
「そうだ。魔法犯罪や異世界の脅威に対抗するための特務班を新設する予定だ。君にはその一員として働いてもらいたい。もちろん、報酬も提供するし、特務官としての権利や地位も与える。」
俺は再び自分の腕を見つめた。異世界に来てしまった以上、ここで生きていくしかない。公安の特務班に参加することで、少なくともこの世界での目的が見つかるかもしれない。
「分かりました。やらせていただきます。」
山本課長は微笑み、手を差し出した。
「君の決断に感謝する。共にこの国を守っていこう。」
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