第14話 怪しい影
美月とカフェに行った翌日、放課後に教室を出ようとすると、学園の校長である紫苑雅先生から声をかけられた。
「斉藤君、少しお時間をいただけますか?」
「もちろんです、校長先生。」
紫苑先生の後を追って校長室に入ると、彼は真剣な表情で俺に話しかけてきた。
「斉藤君、君の活躍は聞いているよ。ゴーレム暴走事件での迅速な対応には感謝している。まずはお礼を言わせてもらうよ。それで話は変わるんだが、学園の警備に関して少し問題が起きていてね。人手が足りないんだ。」
「人手不足......」
「そうなんだ。学園の警備は学園が経営している警備会社に任せているのだが、常に人手不足でね。最近、不審者や怪しい団体の侵入が相次いでいて、警備の強化が課題なのだ。そこで当校の優秀な生徒にアルバイトをお願いしようと考えてね。」
「学校の警備を生徒がですか?」
確かにこの学校には将来、警察や軍人を志望するような学生も多く、すでに現役顔負けの戦闘力を持つ魔法士も多いが……。
「もちろん、学業には影響しないようにお願いをするつもりだし、生半可な生徒には頼まないから十分警備の強化になると思うよ。君含めてね。」
「それで自分が呼ばれたわけですね。」
「そうだ。君は優れた戦闘能力を持っているし、この学園の子を思って行動しようとする信頼できる人物だと判断した。学園の警備を補佐するアルバイトとして、しばらくの間協力してもらえないだろうか?」
予想外の提案に少し驚きつつも、俺は一瞬考え込んだ。公安としての任務もあるが、警備員としての役割は学園内での捜査がしやすくなるというメリットがあった。
「わかりました。お受けします。」
紫苑先生は満足げに微笑んだ。
「ありがとう、斉藤君。具体的な仕事内容やシフトについては後ほど説明するので、今晩またここに来てくれ。」
その日の夜、俺は再び校長室に向かった。紫苑先生の指示に従い、学園警備会社の担当者と面談することになった。担当者は中年の男性で、経験豊富な警備員だった。
「斉藤君、君のことは聞いている。君のような若者が我々のチームに加わってくれることは大変心強い。これが君のIDカードと腕章だ。」
腕章を受け取り、IDカードを首にかける。
「まずは夜間のパトロールから始めてもらう。学生寮の就寝時間まで学園内の各施設を見回り、不審な人物や異常がないかを確認するんだ。」
「了解しました。」
その夜、俺は学園内を巡回することになった。広大なキャンパスを歩き回り、警備体制を確認しながら、学園の安全を守るという新たな任務に臨んだ。
巡回を続けていると、不意に物音が聞こえた。振り返ると、何やら人影が動いているのが見えた。不審な動きの人物は暗くて顔は見えないが、この学園の制服姿だった。
気づかれないよう追跡すると、普段はほとんど使われることのない予備教室へと入っていった。
(何かある……)
慎重に教室に近づき、ドアの隙間から中の様子を伺うと、複数の男たちが何かを話し合っているのが見えた。その中に、この間のゴーレム暴走事件でゴーレムを召喚した生徒の姿があった。彼は部外者らしき男と何か言い争いをしているようだった。
「僕はただ、魔力が強化されると聞いてあの薬をもらったんだ。あんなことになるなんて聞いてない!」
「ゴーレムの暴走は君の技量不足さ。実際、薬がなければ君の魔力量では到底召喚できなかっただろう。」
(魔力を強化する薬……)
男の顔を確認したいが、フードを深くかぶっておりここからではよく見えない。
俺はその場を抑えようとドアを開けようとした瞬間、
「斉藤君、そんなところで何をしているんだい。もう時間だ。」
先ほどの中年の警備員がこちらへ向かってくる。
するとそれに気が付いた教室の二人は窓からあわてて逃げ出した。
「ありゃ、誰かいたのかい?ここの予備教室はいたずらに入る生徒も多いからなぁ。」
(フードの男は正体がわからずじまいだが、例の生徒の所在はわかっているし、課長に報告しておくか)
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