第13話 カフェ
ゴーレム暴走事件から数日が経ち、学園内では未だにその話題が絶えない。事件の現場で魔法が使えないにもかかわらず、特殊な拳銃でゴーレムを撃退したことで、俺の存在が注目されるようになった。しかし、その注目は必ずしも好意的なものばかりではなかった。
一条院零を筆頭に、魔法師の名家出身の生徒たちは冷めた視線を投げかけ、陰口を叩いているのが明らかだ。彼らは俺の素性を疑い、敵意を露わにする。
そんな中、美月から「お礼がしたい」と連絡が来る。放課後、美月と待ち合わせたカフェに向かう。学園から少し離れた静かな場所にあり、歩いて行くには少し遠いため、俺はバイクで行くことにした。
このバイクは公安からもらった『支度金』で購入したものだ。もちろんいざという時の機動力や素顔を隠すのにヘルメットをしていても違和感がないというのが理由だが半分自分の趣味でもある。
しばらくバイクを走らすと待ち合わせのカフェへと到着した。木々に囲まれた落ち着いた雰囲気だ。店内に入ると、美月が笑顔で迎えてくれた。
「斉藤さん、来てくれてありがとう。」
「いや、美月が誘ってくれたからな。それに、お礼なんて気にしなくていいさ。」
「そんなことないよ。斉藤さんがいなかったら、学園にも入学できてなかったどころか生きてたかも怪しいし、お父さんも感謝してるんだから。」
注文を済ませた後、美月は真剣な表情で俺に話しかけてきた。
「斉藤さん、本当にありがとう。私、どうしても感謝の気持ちを伝えたくて。」
「だから、お礼なんて大袈裟だって。それに、俺はあの場でただやるべきことをしただけさ。」
「でも、あの日のことは本当に忘れられないの。斉藤さんが私を守ってくれたこと、ずっと心に残ってる。」
美月の目は潤んでいて、感謝の気持ちが伝わってきた。俺は少し照れくさくなり、視線を逸らした。
「それより、美月の方は大丈夫か?この間怪しい集団を見かけたと言っていたが、何か変わったことはほかにないか?」
「うん、大丈夫。みんなも落ち着いてるし、先生たちもすごく対応してくれてる。でも……」
美月は少し言葉を詰まらせた。その表情には、不安の影が見えた。
「どうしたんだ?」
「実は……この間の事故のゴーレム召喚、一般の生徒ができることじゃないって先生たちが話してたの。高等魔法だから偶然で発動するはずははないから、何か裏があるんじゃないかって。」
俺もそのことには違和感を感じていた。ゴーレム召喚は高度な魔法であり、普通の生徒が扱えるものではない。
「確かに、あれは一般の生徒がやるには無理がある。何か裏があるかもしれないな。」
その時、注文したドリンクとデザートが運ばれてきた。美月は笑顔に戻り、スイーツを一口食べた。
「ここのスイーツ、本当に美味しいの。斉藤さんも食べてみて!」
美月の楽しそうな様子に、俺も少しリラックスすることができた。しばらくの間、二人で楽しい時間を過ごした。しかし、カフェを出る頃になると、美月はなぜか少し緊張した表情をしていた。
「斉藤さん、私、本当に感謝してる。それに……」
「ん?」
「斉藤さんのこと、もっと知りたいなって思ってるの。」
俺は少し驚いた。美月が何を言おうとしているのか、全く予想がつかなかった。
「えっと、俺のことを知りたいって、どういう意味だ?」
「その……斉藤さんって、どんな人なのか……もっと、知りたくて……」
美月は顔を赤らめながら、恥ずかしそうに言葉を続けた。その姿が少し可愛く見えた。
「俺のことか……まあ、そんなに特別なことはないけど、もし聞きたいことがあれば何でも答えるよ。」
「本当?じゃあ、次はもっと斉藤さんの話を聞かせてね!」
美月の笑顔に、心が温かくなるのを感じた。しかし、彼女の目にはまだ疑念が残っているように見えた。あの日、俺がテロリストたちを殺害した場面を目撃している美月にとって、俺が普通の学生ではないことは明白だろう。
「斉藤さん……一つだけ聞いてもいい?」
「何だ?」
「斉藤さんって、本当にただの学生なの?」
少し考え込んだ後、答えた。
「美月、詳しいことは話せないけれど、僕は君の味方だ。それだけは信じてほしい。」
「わかった。斉藤さんが何者であっても、私は信じるよ。」
美月の言葉に、少しホッとした。この異世界での生活はまだ始まったばかりだが、美月との絆が少しずつ深まっていくのを感じながら、彼女の隣を歩いてカフェを後にした。
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