第一話 - 異世界に舞い降りた少女
「あれ...ここはどこ...?」
ヒトミが目を覚ますと、そこは聞いたこともない鳥のさえずりと、見たこともない色鮮やかな花々に囲まれた世界だった。
まるで絵本の中に迷い込んだような、不思議な景色。ヒトミは自分がどうしてここにいるのか、全く思い出せずにいた。
ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。遠くの方に、小さな村らしきものが見える。とりあえずあの村に行ってみようか、とヒトミは一人歩き始めた。
歩いているうちに、ヒトミは違和感を覚えた。自分の体が妙に小さく感じるのだ。手を見ると、それは幼い子供の手。池に映った自分の姿は、まさしく10歳くらいの少女そのもの。
「え...?私、子供に戻っちゃったの...?」
混乱するヒトミ。しかし、嘆いていても仕方がない。とにかく村を目指して歩みを進めた。
村が近づいてきた頃、不思議な光が目の前に現れた。その光の中から、一人の美しい女性が姿を現す。
「ようこそ、ヒトミ。あなたを待っていました」
女性は微笑みながら、ヒトミに語りかける。自分は女神で、この異世界に平和をもたらすために、ヒトミを選んだのだと。
「えっ...私に何ができるっていうの...?」と尋ねるヒトミに、女神はこう答えた。
「あなたが日本で学んだマーケティングと自動化の知識を活かせば、必ずやこの世界を良い方向に変えられます。私はあなたの可能性を信じているのです」
戸惑いながらも、ヒトミは女神の言葉に勇気をもらった気がした。小さな体に宿った使命感。ヒトミは心の中で決意する。
「私、がんばってみる。せっかく異世界に来たんだもの。ここで自分にしかできないことを、精一杯やってみよう」
女神はヒトミの決意を嬉しそうに頷くと、光となって消えていった。
こうして、ヒトミの異世界での冒険が幕を開けた。まずは目の前の村へ。一歩一歩、前に進んでいこう。
ヒトミは村の入り口に佇んだ。そこには「ウェルカム」と書かれた素朴な看板が立てかけてある。「ここの人たちは、きっと優しい人ばかりなんだろうな」そんな風にヒトミは想像した。
村に一歩足を踏み入れた時、ヒトミの鼻をいい匂いが襲った。お腹が思わず鳴ってしまう。
すると、一軒の家から女性が顔を出した。
「あら、あんた見ない顔ね。うちによってってば。今ちょうどスープができたとこなんだ」
そう言って女性はヒトミを家へと招き入れてくれた。まるで迷子の子犬を拾うかのような優しさで。
女性の家でスープをご馳走になり、この村のことを色々と教えてもらった。
村の名前は「ルーエン村」。この辺りでは一番小さな村だという。村人たちは皆、貧しいながらも助け合って暮らしているのだと話してくれた。
「そういえば、あんたはどこから来たの?」
ふと、女性がそう尋ねる。とっさに何と答えればいいのか分からず、ヒトミは言葉に詰まった。
「じ、実は...異世界から来たんです。女神様に、この世界を良くしてほしいって頼まれて...」
「異世界?女神様?」
女性は目を丸くする。しかし、信じられないような話だというのに、嘘をついているようには見えない。
「そう...なんだ。じゃあ、あんたはこの村を救ってくれるのかい?」
「はい、頑張ってみます。私にできることを精一杯やります」
ヒトミは力強く頷いた。自分でも何ができるのか分からない。でも、少しでもこの村の役に立ちたい。そう心から思った。
女性はそんなヒトミの姿を見て、微笑んだ。
「なら、しばらくうちに泊まりなさい。あんたの力、借りることにするよ」
こうして、ヒトミのルーエン村での暮らしが始まった。わくわくするような、そして想像以上に大変な日々が彼女を待ち受けていた。
村人たちはみなヒトミを歓迎してくれた。しかし、彼女が異世界から来たことを信じてくれたのは、最初に出会った女性だけだった。
「私、本当は25歳のOLなんですよ」
そう言ってみたものの、子供の姿をしたヒトミの言葉を真に受ける人はいない。
「はいはい、そうだね。じゃあお姉ちゃんは今日から村のお手伝いだからね」
あまり深く聞き入れてもらえないまま、ヒトミは村の手伝いをすることになった。
厄介なのは、体が子供に戻ってしまったこと。力仕事はおろか、大人の体だったら簡単にできたことも、なかなか思うようにいかない。
薪を割ろうとして、まさかの空振り。手にマメができてしまった。
川で洗濯をしていたら、バランスを崩して川に落ちてずぶ濡れに。
家事や農作業の大変さを身をもって知る日々。現代日本で便利な暮らしをしていた自分を恥ずかしく思う。
それでも、ヒトミは頑張った。失敗しては学び、少しずつ成長していく。時には涙を流して落ち込むこともあったが、優しい村人たちに支えられていた。
ある日、村長の家を訪ねると、そこには同い年くらいの男の子がいた。村長の息子のタクミくんだ。
最初は人見知りするタクミくんだったが、ヒトミが異世界から来たことを知ると、興味津々な様子を見せた。
「ヒトミちゃんは、向こうの世界ではどんな暮らしをしてたの?」
タクミくんの質問攻めに、ヒトミは現代日本のことを一生懸命説明した。便利な家電製品や、自動化されたシステムの数々。
「もしかしたら、そういうのをこの村にも取り入れられたら、みんなの暮らしがもっと楽になるかも」
ヒトミがそう呟くと、タクミくんの目が一気に輝いた。
「じゃあ、二人で村をもっと良くするための方法を考えよう!」
その日を境に、ヒトミとタクミくんは意気投合した。
ヒトミの知識と、タクミくんの行動力。二人は村のために色々とアイデアを出し合った。
水くみを楽にする仕組みを考えたり、もっと効率的に作物を育てる方法を試したり。
失敗の連続だったが、それでも二人で頭をひねり、試行錯誤の日々が続く。
そんなある日、村に一人の剣士が訪れた。
「オークの群れが近くにいる。気をつけるように」
剣士はそう忠告すると、すぐに村を後にした。その名前は、ケン。村人たちの間で話題になっていた、オーク討伐の旅を続ける若き剣士だ。
ヒトミは、ケンの言葉に不安を覚えた。このままでは、村が襲われてしまうかもしれない。
だが今の自分には、オークと戦う力はない。まだまだ子供の体では、剣一本満足に振れないのだ。
それでも、このピンチをチャンスに変えたい。そう感じたヒトミは、ケンを追いかけることにした。
「私も、強くなりたい。村を守れるくらい、強い人間になりたいんです」
森の中で追いついたケンに、ヒトミは必死に頼み込む。
「俺について来ても、命の保証はしないぞ。それでもいいのか?」
鋭い目つきで見下ろすケンに、ヒトミは畏れを感じつつも頷いた。
「私には、守りたいものがあるんです。だから、お願いします。弟子にしてください」
その真剣な眼差しに、ケンは思わず苦笑した。
「覚悟は認めてやる。だが、修行は厳しいぞ。ついてこられるか?」
「はい、なんでもします!」
燃える心を胸に、ヒトミの新たな旅が始まった。
村人たちに別れを告げ、タクミくんと再会の約束を交わし、ヒトミは村を後にした。
強くなって、絶対にこの村を守ってみせる。そして、自分なりの方法で、この異世界を良くしていく。
ヒトミの心の中で、かすかな希望の炎がゆらゆらと揺れていた。
これは、小さな少女が異世界で成長していく物語。
これから彼女が見るもの、感じるもの、乗り越えていくもの。
長く、厳しい道のりになるだろう。
でも、ヒトミにはもう、立ち止まるわけにはいかない。
未知の世界への冒険に、彼女の心は高鳴っていた。
次回、『第二話 - 村での奮闘と剣士ケンの登場』。お楽しみに。