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97.久しぶりの我が家

家に帰ると、母親がニコニコしながら迎えてくれた。


「お帰り、フィーちゃん。どうだった? 柳君とのデートは?」


「はい!? デート?!」


久々の再会だというのに、母の言葉に感動よりも衝撃の方が大きく、素っ頓狂な声を上げてしまった。


「だって、家まで迎えに来てくれて~。いい子じゃない! でも、帰りは送ってくれなかったのね~。折角だから上がってもらってお茶でもって思ってたのに」


(家まで迎えに・・・? そこは待ち合わせにして欲しかった・・・セオドア様・・・)


さすが、良いところ育ちの侯爵家のお坊ちゃま。紳士的と褒めるところなのだろうが、この世界のザ・中年オバサンの恐ろしさを考慮すべきであった。

ホクホクニヤニヤしている母を見て、椿は柳に対して猛烈な罪悪感が生まれてくる。


「違うから、お母さん! デートでも何でもない! 勘違いしないで!」


「え~~、またまた~~!」


「それより、はい、これ、お母さん。一日早いけど母の日のプレゼント!」


話を遮ろうと、椿は玄関に上がる前に、母に向かって花束を渡した。


「あら~~! 可愛い!! 嬉しい! ありがとう!」


母はパチパチと手を叩いて喜ぶと、嬉しそうに花束を受け取った。


「選んだのはオフィーリア様だよ」


「え・・・?」


「気が付いたら既に持っていたの、()が。きっとオフィーリア様がお母さんのために選んでくれたんだよ」


「え? え? あんた・・・椿・・・? え? も、もしかして、記憶が戻ったの・・・?」


椿は大きく頷いた。


「ただいま! お母さん!!」


「お帰りーーー!! 椿っ!!」


母は椿を力いっぱい抱きしめた。



☆彡



その日の夜はお祝いムード一色で、父も母も上機嫌だった。

記憶障害と信じている二人は、椿とオフィーリアの二つの人格が入れ替わったということをイマイチ理解できないようだ。椿も異世界の話などしても到底信じてもらえないどころか、ますます混乱させてしまうと思い、完全に理解してもらうことは諦めた。


食卓には豪勢にうな重を出前し、宅配ピザまで取った。

久々に母の手料理を食べられると思っていた椿にとっては大誤算だったが、それでも、うなぎもピザも大好物な椿はしっかりと平らげた。


豪勢な食事を終え、現代の画期的な風呂とシャワーで汗と疲れを取り、フリルブリブリのネグリジェではなく花柄パジャマに袖を通し、自分部屋のベッドに大の字に寝転んだ。


「帰ってきた・・・」


天井を見つめながら一人呟く。ゆっくり顔を動かし部屋を眺めた。

びっちりと漫画とライトノベルが並んでいる安そうな本棚。そして同じく安物のタンス。小学校から使っている勉強机に椅子。向こうの世界の重厚感漂う木製家具とはまるで違う。

それでも、このライトな感じの家具が自分にはとてもしっくりくる。


机の上には一輪挿しの花瓶が置いてある。それには柳から貰った黄色いガーベラが活けられていた。


椿はベッドから起き上がると机に近づいた。

しげしげとガーベラを見る。机の上にはガーベラを巻いてあったペーパーと花に付いていたタグが置いてある。どちらも可愛らしくて捨てるのが惜しかったのだ。

椿はそのタグを手に取った。


『一本のガーベラの花言葉:あなたは運命の人』


可愛らしいタッチで書かれているタグ。椿はその文字を優しく指でなぞった。

黄色が「友情」という意味があるのは知っていたが、本数にも意味があることは知らなかった。セオドアはこれを分かった上で買ったのだろうか?


「でも、三本でも四本でもないし・・・。特別な友情という意味なのかな・・・」


椿はタグを撫でながら呟いた。

本数に意味があると知り、ネットで調べてみたら「愛しています」という意味を示す本数は三本、四本以上だ。そして40本になれば「永遠の愛の誓い」、さらに100本までいくと「結婚してください」とプロポーズという最高級の意味にまで到達してしまう。


「オフィーリア様はこのタグに気が付いたかな? 読んでいればいいけど」


セオドアがどこまでガーベラの花言葉を知っていたのか分からない。柳の言う通り、深く考え無しに買ったのかもしれない。それでも、ガーベラの花言葉は前向きで元気で愛情に関係する言葉が多いのは、偶然だったとしても嬉しい。


「ふふふ、夜の10時に会えるかな? そうしたら教えてあげなくっちゃ。それと、謝らないと! 結局、私が貰っちゃったんだから」


椿は一人ニヤニヤしながらガーベラを見つめた。

早くオフィーリアに報告したくて夜の10時前から鏡の前で待っていたが、鏡は二度と向こうの世界を映すことはなかった。


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