91.謝罪
「何を言ってるんだ・・・? オリビア・・・」
オリビアの思いもよらない提案に、セオドアは本気で自分の耳がおかしくなってしまったのかと疑った。
「だって、そうじゃない! 私たちの間を割いたのは紛れもないオフィーリア様でしょう? 私たちは幼馴染でずっと一緒で、私の方が先にセオドアを好きになったのに! 私たちはこれからもずっと一緒だったはずなのに! 途中で邪魔をしたのは彼女の方よ!」
オリビアはヒステリックに叫んだ。
ああ・・・、本当にその通りだ。自分たちは幼馴染でずっと一緒で・・・その中でオリビアに恋をして・・・。それを親同士が決めた婚約者に邪魔をされたのだ・・・。
でも、今、目の前にいる女は誰だ?
「婚約だって解消するって言っていたじゃない! 私のために! あれは嘘だったの?」
「嘘じゃない。解消したよ」
セオドアは力なく答えた。
「え・・・」
「オフィーリアとの婚約は既に解消済みだ」
「なんだ・・・そうだったの・・・、なら何も問題はないのね・・・」
突然の告白に拍子抜けしたのか、オリビアはホッと安堵した表情を浮かべた。
「だが、君との未来はもうない」
「え・・・? 何で・・・?」
「何でだって? ここまでオフィーリアに対して卑劣な真似をして、さらに俺たちを騙しておいて、そんなことがよく言えるな?! そんな君をこの先信用できるとでも!?」
セオドアの怒りの形相に、オリビアは言い争いの根本的な部分を思い出したようだ。キッとセオドアを睨みつけると、
「だったら謝らない!!」
再びヒステリックに叫んだ。
「分かった。なら、俺も君を許さないまでだ」
セオドアは真っ直ぐにオリビアを見た。はっきりとした口調と決意が込められた表情を見て、オリビアは本能的にまずいと感じた。さっきから何度も怒らせているが、それでも何とか涙と我儘な態度で切り抜けられると思っていたのだ。
「オフィーリアに謝罪したところで、君との関係を続けるつもりは無い。それでも友人ではありたいと思っていた。俺たちは幼馴染で本当に長い付き合いだったのだから・・・」
「ま、待って・・・」
オリビアは焦った。早く挽回しなければ・・・。本当に捨てられてしまう!
しかし、もう遅すぎた。
「だが、それだって所詮無理な話だな。今の君を見ていると友人ですらいたいと思わない」
セオドアの冷たい言葉と視線がザックリとオリビアの胸に突き刺さった。
「そ、そんな・・・、セオドア・・・」
オリビアは震える手を伸ばした。
「謝るわ・・・、謝るから・・・! 許して!」
「触らないでくれ」
縋ろうとしたその手はあっさりと払われてしまった。
「もう謝らなくていい。謝罪は不要だ。いいや、謝罪は受け付けない」
セオドアはきっぱりと拒絶した。
「明日の卒業パーティーで君をエスコートすることもなければダンスに誘うこともない。ああ、でも、足を捻ったんだったな。どのみち踊れないから心配することはないな。なんなら大事を取ってパーティーも欠席した方がいいんじゃないか?」
まるで自分を虫けらのように見つめる目。それは記憶を無くしていた時のセオドアよりも数倍冷たい視線だ。
オリビアはその絶対零度の視線に凍り付いてしまった。
「話は終わった。俺たちは戻るよ。みんな、卒業式前日の貴重な時間を割いてもらって申し訳なかった。協力ありがとう。さあ、戻ろう!」
セオドアは努めて明るく言うと、オリビア以外の皆に部屋から出るように促した。
伸びをしながら歩くラリーの後をダリアが続き、部屋を出て行った。
ジャックはその場に佇んで動かない。
「ジャック・・・」
オリビアは縋るようにジャックを見つめた。ジャックは無言のまま、オリビアを見つめている。
「ジャック・・・、ジャックは残ってくれるの・・・?」
オリビアは感動したように目を輝かせた。
「ジャックは信じてくれると思ってた・・・! やっぱり、ジャックだけよ! 私には!」
そう言うとジャックに手を伸ばした。ジャックも手を伸ばす。
しかし、ジャックが取ったのはオリビアの手ではなかった。
「行こう、リリアナ」
リリアナは驚いたように瞬きしてジャックを見た。
「さっきは乱暴に放って本当にすまなかった」
「な、な、な・・・」
オリビアはジャックの行動に真っ赤になってワナワナ震えている。
リリアナはこのままジャックに付いて行っていいのか、主人のもとに残った方がいいのか迷っているようだ。困ったように二人の顔を交互に見た。
「ここにいたら、オリビアに八つ当たりされるかもしれない。危険だ」
それを聞いてリリアナは震え上がった。慌てて頷くと、
「リリアナ! 待ちなさい!!」
オリビアが叫んだ。その声にリリアナは飛び上がった。
「ジャックもよ! リリアナは私の使用人よ! 勝手に連れて行かないで!!」
「この女なんて知らないんじゃなかったのか?」
「!!」
「それに、俺とリリアナはグルなんだろう? だったら俺が連れて行くのは当たり前だ」
「そ、それは・・・」
「じゃあな、オリビア。行こう、リリアナ」
ジャックはリリアナの手を引いて歩き出した。部屋の扉の前にはセオドアが立って二人を待っている。
二人が廊下に出ると、セオドアはオリビアに向かって、
「オリビア、さようなら。卒業後は会うことはないだろう。足首をお大事に。恐らく怪我なんてしていないんだろうけど」
そう言い放つと自分も廊下に出た。そして、ゆっくりと扉を閉めた。




