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88.誰を信じるのか

「セオドア・・・、私は・・・、本当にこんな人なんて・・・」


「知らないって? なら、ジャックが嘘を付いているということになる。どうなんだ、ジャック?」


セオドアはジャックに振り向いた。ジャックは怒りでフルフルと震えている。


「ねえ、ジャック! きっと見間違いよ! 我が家は男爵家の割には裕福だから使用人が多いでしょ? だから違う下女よ! 勘違いよ!」


オリビアはジャックに向かって必死に訴えた。しかし、ジャックの顔は怒りでどんどん目が吊り上がるばかりだ。


「見間違いだって? いいや、俺は彼女の名前だって知っている。彼女の名前はリリアナだ。そうだろ? リリアナ」


女子生徒の格好をした下女は無言で頷いた。


「あらあら、名前までご存じとは・・・」


ダリアは呆れたように呟く。もちろん誰も聞いてない。


「ジャックは嘘を付いていないようだ、オリビア」


セオドアは再びオリビアに振り向く。その瞳は氷のように冷たい。その冷たい眼差しにオリビアは完全に取り乱した。


「な、なら、二人は知り合いなのかもしれない! でも、私はこの女なんて知らない! そ、そうだわ! ジャックとこの女はグルなのよ! 私を貶めようとしているんだわ! 私がセオドアを選んだから、私を恨んでいるんだわ!!」


「な、なんだと・・・?!」


オリビアの思いもよらない発言にジャックは目を剥いた。

ダリアは呆れかえって口がアングリと開いている。


「そうよ! きっとそうよ! ね?! セオドア!」


オリビアはセオドアの両手を握りしめ、縋るように見つめた。しかし、セオドアからは冷ややかな視線が返ってくるだけだ。手もダラリと力無く、ただ取られているだけ。握り返してこない。


「オリビア・・・、ジャックは本気で君を心配していたんだ。犯人の下女を取り押さえたのは彼だ。君が階段から落ちたところを目撃してね。必死になって彼女を追いかけて捕まえたんだよ」


「・・・」


「そんな彼に対して、そんなことを言うのか・・・?」


「わ、私は・・・」


その言葉にセオドアの両手を掴んでいるオリビアの手が緩んだ。


「それと、ジャックに常に君を守るように頼んだのは俺だ。『赤髪の女』から。彼は最後までそれはオフィーリアだと信じて疑っていなかったけれど」


「・・・ジャ・・・ックに・・・?」


「ああ、俺だけが君の傍にいたわけじゃない」


オリビアの手がさらに緩む。それでもセオドアは握り返してこない。


「オリビア。もういい加減に認めないか? 彼女が君の家の使用人だと。これらはみんな君が・・・、君が仕組んだことなんだと。もう既に彼女から事情は聞いている。主人である君の指示だったとね」


オリビアはもう一度セオドアの両手をギュッと握りしめた。


「セオドアは私よりもこの女を信じるの?! この私より? 何で?! 何でよ?!」


喚くような言葉にセオドアは怒りよりも虚しさの方が大きくなった。


「ああ、そうだね。彼女の証言の方を信じる」


セオドアはオリビアの目をじっと見つめて答えた。


「彼女を信じるというよりも、ジャックを・・・、俺はジャックの君への想いが本物だったことを知っているんだ。そんな彼が嘘を付くわけがない。俺はジャックを信じているんだ」


そう言うと小さくため息を付いて、


「それに、君の家に確認すれば彼女が使用人かどうかはすぐに分かることじゃないか。それとも、俺がわざわざそこまでするわけがないとでも高を括っているのか?」


今度は諭すようにオリビアに話しかけた。まるで小さな子供にでも話しているかのように。

オリビアはそれでも首を横に振った。


「私は・・・私は・・・」


「彼女以外にも証言はある。例えばこの傷・・・」


セオドアはオリビアに握られていた手を動かした。そして改めて彼女の手を取り直すと、手のひらを上にした。以前に怪我をしたと思われる傷が微かに残っている。


「自分で転んだって言っていたね。本当に単純に転んだんだと思う。でも、これもオフィーリアのせいにするつもりだったんだろう?」


「な・・・!」


「だが、オフィーリアのせいにするには彼女のアリバイが多過ぎて無理だった。だから諦めた」


「ち、ちが・・・!」


オリビアは必死に手を引っ張った。しかし、今度はセオドアがしっかり握って離さない。


「そうだろう? ダリア嬢」


「ええ」


セオドアに同意を求められて、ダリアは大きく頷いた。


「えーっと、確かコゼット様だったわね。女子寮内でオリビア様がオフィーリア様に足を掛けられて転んでしまったって泣きつかれたって。でも、コゼット様はその少し前まで全然違う場所でオフィーリア様を見かけていたのでそれをお伝えしたら、慌てて勘違いだったと言って去って行ってしまったっておっしゃっていましたわ。同じようなことをカトリーヌ様もおっしゃっていました」


淡々と話すダリア。その間中、オリビアは必死にセオドアから手を抜こうと藻搔いていた。


「そうそう、何より、エレン様は段差に躓いて一人転んでいるオリビア様を見たと」


オリビアはピタリと藻搔くのを止めた。


「助け起こそうと思ったけれど、すぐに起き上がって行ってしまったって。手のひらを気にされていたようだから、その時にお怪我されたのでしょうともおっしゃっていました」


ダリアは支えていた偽女子生徒リリアナから手を離すと、一歩前に出た。


「そして、さらに!」


語気を強くし、オリビアをキッと睨む。。


「聞き間違いでなければ『ちょうどいいわ』という独り言が聞こえたと!」


オリビアは黙って俯いたまま動かなくなった。しかし、彼女の身体が微かに震えているのがセオドアに伝わってくる。


「どうなんだ? オリビア?」


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