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81.協力

「申し訳ありません。お待たせしてしまいました」


ダリアは謝った後、失礼しますと言いながらセオドアの前のソファに腰かけた。


「セオドア様。わたくしの方で昨日の内に二、三人は声を掛けてみました。もちろん信頼できる方たちですわ」


ダリアは自信ありげに頷いて見せた。


「今日も何人か当たってみます。人は多い方がいいでしょう? 同時に女子寮内で赤毛の女性も探してみますわね」


「・・・」


「セオドア様の方はどうでしょうか? 協力してくれそうな方はいらっしゃいましたか?」


「・・・」


「セオドア様?」


困惑しているような顔で何も言わず黙っているセオドアに、ダリアは首を傾げた。


「セオドア様? どうしました?」


「ダリア嬢・・・」


セオドアの低く呟くような声にダリアはハッと息を呑んだ。いつものように「あんた」とか「おたく」とは呼ばず、姿勢を正し、紳士的な態度の彼に、今までのようなどことなく不良じみた感じは消えてしまっている。ダリアはサーッと血の気が引いていくのが分かった。


「もしかして・・・、セオドア様・・・」


青い顔でセオドアを見た。


「記憶が・・・戻ったのですか・・・?」


セオドアは無言で頷いた。


「・・・そう・・・ですか・・・」


ダリアは呆然とセオドアを見ながら呟いた。


「ダリア嬢・・・」


「申し訳ありません・・・。記憶が戻ったのは喜ばしいことですわね。良かったですわ」


ダリアはゆっくりと頭を振ると、


「記憶が戻ったとしても・・・、わたくしたちとの約束は守って下さるのですか・・・?」


祈るようにセオドアに尋ねた。


「約束・・・?」


「オフィーリア様やわたくしたちの無実を一緒に証明するという約束です」


ダリアはジッとセオドアを見つめた。それに耐えきれなかったのか、セオドアは俯いてしまった。


「すまない・・・ダリア嬢・・・。記憶が無かった時の自分の行動は一切覚えていないんだ・・・」


「そん・・・な・・・」


微かな望みが断たれ、ダリアはガックリと肩を落とした。


「・・・」


暫くの間、ダリアにとっては失望の、セオドアにとっては気まずい沈黙が流れた。

だが、ダリアは思い直したかのように背筋を正すと、真っ直ぐセオドアと向き合った。


「覚えていないということは分かりました。でも、わたくしはセオドア様に頼まれましたの。もしセオドア様の記憶が戻った時、今までのようにオリビア様の虜になってしまったら―――言い方は良くないかもしれませんが―――無実の証拠を自分に突き付けてくれって」


そう言うとソファから立ち上がった。


「記憶がお戻りになった今、やはり卑劣な虐めの犯人をオフィーリア様やわたくしたちと思っていらっしゃると思います。ですから、しっかりと証拠を集めてみせますわ。それでは失礼します」


「待ってくれ! ダリア嬢!」


立ち去ろうとするダリアをセオドアは慌てて引き留めた。


「俺もオフィーリアを信じてる!」


「え?」


ダリアは驚いて振り返った。セオドアは立ち上がって真剣な顔をしている。


「俺もオフィーリアがそんな卑劣なことをする人ではないと思ってる。だから、俺にも協力させてほしい。いいや、どうか協力して欲しい、ダリア嬢。俺もオフィーリアの無実を証明したい」


セオドアはシャツの胸ポケットから小さく折り畳まれた紙を取り出すと、まだ信じられないように目を丸めているダリアに見せた。


「自分の部屋の机に置いてあった・・・。君と柳・・・俺が調査したメモだろう?」


彼女の目の前でその紙を広げて見る。それはオフィーリアの仕業とされている虐めの数々が箇条書きにされたメモだった。



☆彡



「ここに書かれている嫌がらせの内容は、俺も直接オリビアから聞いた事と同じだ。でも、君らは一つもしていないんだろう?」


ローテーブルの真ん中にメモを置き、セオドアとダリアはソファに向かい合って座って打合せをしていた。


「そうですわ。一つも・・・。それにしても、いろいろとメモ書きが追加されてますわね・・・。これを書き込んだことも覚えていませんの?」


メモの余白に柳の考えがあちこちに乱暴に書きなぐられていた。ダリアは少し呆れ気味にセオドアを見た。

覚えているもいないもない。柳が書いたのだから。セオドアは肩を竦めるしかできない。


改めて柳の殴り書きに目を落とす。


右上に小さく今日のダリアとの打ち合わせ場所と時間が書いてあった。だから、セオドアは今日ここでダリアと落ち合えたのだ。

まあ、それはいいとして、それ以外のメモ書きはというと・・・。


・泥水をかける  → いつ? アリバイ探せ

・足を引っかけて転ばす → セコすぎ。ホントか? 自分で転んでじゃねーの?

・物置に閉じ込める → 最悪 いつ? アリバイ探せ

・トイレに閉じ込める → 悪質 いつ? ホントはこもってたとか 下痢か?

・ノートや教科書を捨てる → やってねー 

・ノートや教科書に落書きする → それ以前にオリビアの物は触りたくないらしい

・配布物を渡さない → そもそもオフィーリアの係じゃねーし

・移動教室の場所を教えない → ↑に同じ。オフィーリアの管轄外 教える義理無し


箇条書きに付け加えられるように書かれている。

それ以外にも、


オフィーリアが関係ねー事まで なんでオフィーリアのせいになってる?

ここ(矢印表記) 係の奴に確認する

つーか プリント オフィーリアに配らなかったの おめーじゃん

アホジャック

セオドア、チョロすぎ

卒業式までになんとかする!                   


などなど、紙の上や横などの余白の至る所に殴り書きがある。

極めつけは、


『とにかく オフィーリアはシロ! セオドアは アホ!』


大きめな文字で書かれていた上に、下に二重線が引かれていた。


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