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76.サロン

共用サロンには椿の想像以上に自由時間を楽しんでいる生徒が多かった。その賑やかさに思わず入るのに躊躇してしまったほどだ。

普通におしゃべりを楽しんでいる生徒もいれば、カードゲームやボードゲームを楽しんでいる生徒もいる。ちょっとした社交場だ。


さて、サロンに来たはいいが、柳とどうやって落ち合おう? 誰かに呼び出してもらうしかないか?


椿が頭を悩ませていると、


「あ! あそこにいるのはセオドア様じゃありません? チェスをしている殿方」


クラリスが一つの集団を指差した。

そこには二人の生徒がチェスをしていた。その周りを数人が取り囲んでいる。


「よっしゃっ! チェックメイト!!」

「セオドア、強いな! 三連勝だ」

「じゃあ、次は僕と! セオドア!」

「ワハハ! かかって来いや! 返り討ちにしてくれようぞ! カモン!!」


そんな会話が聞こえる。


(うくっ・・・、リア充集団・・・)


そこは喪女にはとっても近寄り難い明るい雰囲気が流れている。

さすが柳。ここでも遺憾なく陽キャラを炸裂させていた。


「ふふふ、賑やかですわね。さあ、行ってらっしゃい、オフィーリア様!」


アニーが優しく背中を押す。

仕方がなく恐る恐るその集団に近寄った。しかし、声を掛ける勇気が出ない。

どうしたもんだかと冷や汗をかいていると、有難いことに柳の方が椿に気が付いてくれた。


「お! オフィーリア!」


柳が椿に向かって手を挙げた。傍にいた男子生徒達が一斉に椿に振り向く。


「ひっ!」


椿は肩を竦めた。


わりっ! 俺抜けるわ!」


柳は立ち上がると、座っていた椅子の肘掛に足を掛け、周りの生徒達の間を跳び越すようにピョンっと集団の外に飛び出した。紳士らしからぬ乱暴な席の外し方に生徒達も目を見張ったが、柳はそんなことは気にも留めない。


「どした? 何かあった?」


柳は椿に近寄ると心配そうに顔を覗き込んだ。


「えっと、その・・・」


椿はビクビクしながら周りを見渡した。今の柳の奇行に注目が集まっていた。それに気が付いた柳が周りに睨みを利かすと、自分たちに集まっていた視線がサーっと逸れていった。


「すご・・・」


椿は目を見張った。


「まあ、ここも何だし、ちょっと隅に行こうぜ」


柳は親し気に椿の肩を抱くと、サロンの隅の方に誘導した。

いきなり肩を抱かれ、椿はビックリして飛び上がりそうになった。助けを求めるようにアニーとクラリスの方に振り向いた。彼女たちはにこやかな微笑みを浮かべると、手を振ってサロンから出て行ってしまった。


「や、や、柳君ってチェスもできるんですね! 凄いですっ!」


緊張のあまり頭が真っ白になり報告案件が吹っ飛んでしまった。

何とか話題を振ろうと、今し方彼がやっていたチェスを持ち出した。


「まあな~。俺、ちょっとだけ将棋できるんだ。じいちゃんに教えてもらってさ」


「将棋?」


「おう。チェスって将棋と似てるし。それに将棋より駒が少ねーからチェスの方が簡単かもな」


柳の顔が若干ドヤ顔になる。


「今でもよくじいちゃんとゲームしてんだ、オンラインで」


「お祖父さんと・・・オンライン・・・」


「普段は友達とゲームばっかしてると母ちゃんがすげーうるせーんだけど、将棋ゲームで相手がじいちゃんの時は何も言わねーんだぜ」


「だって、お祖父さんですもんね」


「でもさ、それって忖度ってヤツじゃね? 政治家かっ!」


「あはっ!」


柳の冗談に椿は堪らず噴き出した。

そんな椿を柳は満足そうに見つめた。



☆彡



「それより、どうしたんだよ? 俺に会いに来たんだろ? 何かあったのか?」


柳の問いかけに椿は本来の目的を思い出した。椿はパンと両手を叩くと、興奮気味に柳を見上げた。


「そうだ! そうです! 柳君、今日のお出かけでとんでもない経験をしました!」


「とんでもない経験?」


「はい! 有り得ないことです! 見てください、このミサンガ!」


椿は左手首を柳の顔の前に付き付けた。


「ん? これがどした?」


柳は不思議そうに首を傾げる。


「よく見てくださいよ! 糸が切れているでしょう?! しかも二色も! あと黄色だけです、残ってるの」


「おう、そうだな。んで?」


「このミサンガ、山田も付けてるんですよ! 山田とオフィーリア様の共通の物なんです!」


「おー、そういや、そうだったな・・・って、え? 共通? それ、山田が向こうから持ってきたわけじゃ・・・ねーか、ねーよなあ! そうだよなあ! うわあ、今更気が付いた! 何かスゲーことじゃねーの? それって」


「はい! そうなんです!」


やっと事態を飲み込めた柳も興奮して声が大きくなった。


「今日、皆さんと行ったマーケットで不思議なお婆さんに会いました。オフィーリア様は以前にそのお婆さんからこのミサンガを買ったみたいなんです!」


「おう! それで?」


「そのお婆さんが言うには、このミサンガの糸が切れたらオフィーリア様の願いが叶うって! きっともう少しで叶うんだろうって!」


椿は両手の拳を握りしめた。希望を込めた目で柳を見つめる。


「オフィーリア様の願いが叶ったら、一緒に山田の願いも叶うって! もちろん、山田の願いは柳君と一緒に元の世界に帰ることです!!」


その時、ポトッと何かが床に落ちた。

下を見ると、二人の足元にミサンガが落ちていた。



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