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63.褒め上手

「いいぞ! オフィーリア! そのまま真っ直ぐ漕ぐんだ!」


その日の放課後も約束通り、二人で公園にやって来た。

セオドアに自転車の後ろを押さえてもらい、前方の車輪をフラフラさせながらぎこちなく前に進んで行く。そんなオフィーリアの顔は歯を喰いしばり目は血走っている。真剣過ぎてまるで鬼の形相で前輪の前の道路を凝視している。肩には異様なほど力が入り二の腕はプルプル震えている。


「いいぞ! その調子、その調子!」


肩を怒らせ、フーッフーッと鼻息荒く、ゆっくり慎重にペダルを踏むオフィーリアに、セオドアは後ろからまるで小さい子供を褒めるように声を掛け続ける。


「スピードが遅過ぎると余計にふら付くから、もう少し速度を上げてみよう、オフィーリア」


「ぐぬ・・・、ス、スピード・・・ね、スピード・・・スピー・・・」


歯を喰いしばりながら言われたことを素直に復唱する。頭で分かっていても足が思うように動かない。集中力を欠き、視点をちょっとでも逸らすと前輪がグラグラ揺れる。


「ドって、わわわわわっ! 倒れるっ倒れる!」

「大丈夫! オフィーリア! 押さえてるから!」

「だ、だめ! 無理!」


そう言って倒れる前に足を着いてしまう。


そんなことをずっと繰り返しているが、セオドアは嫌な顔一つせずに付き合ってくれていた。それどころか、


「少しずつ乗れる距離が伸びているぞ。もう一息だ!」


そう笑って褒めてくれる。


(この人って、褒めて伸ばすタイプ??)


オフィーリアですら自分で自分に呆れているのに、セオドアが呆れていないわけがない。それなのにそんな様子をおくびにも出さず、元気付けてくれる。


「さあ、もう一回!」


「はい!」


セオドアに促され、気合を入れ直し、右足をペダルに足を掛けた。


この後、何度も挑戦するが、この日も一人で自転車に乗れることはなく、日も傾きかけてきたので、帰ることにした。


セオドアは自転車を引いて歩きながらオフィーリアに話しかけた。


「オフィーリア、明日は土曜日で学校が休みだし、もっと大きい公園で練習しないか?」


「え!? 明日も?」


オフィーリアは瞬きしながらセオドアを見た。


「ああ。折角コツを掴みかけているんだ。間を空けない方がいいと思う。それとも、明日は予定があるのか?」


セオドアの顔は真剣だ。何としてもオフィーリアに自転車を乗れるようにさせたいと使命感に燃えているのか?

彼の熱意と責任感に感服すると同時に、そこまで申し出てくれる彼に感謝とそれに報いたいという思いが湧き上がる。


「いいえ、予定はありませんわ!」


オフィーリアはブンブンと顔を横に振った。


「是非ご指導をお願いします!」


何より、自転車に乗れるようになりたいと思っているのも事実だ。

オフィーリアは素直に頭を下げた。



☆彡



翌日の昼過ぎ。セオドアは椿の家までオフィーリアを迎えに来てくれた。

二人揃って向かったのは土手に沿った河川敷の公園だ。学校近くの街中の公園よりもずっと広大で見晴らしがいい。ここなら伸び伸びと練習できそうだ。


更に、今日は制服ではない。スニーカーにズボンと完全防備! どんとこいだ!


本来なら殿方の前でズボン姿なんてオフィーリアの世界では有り得ないのだが、椿はスカートを持っていないのだから仕方がない。こんな格好でセオドアの前に出るのは恥ずかしかろうがなんだろうがどうにもならないのだ。


それに、今日は転倒する恐れのある自転車の練習。足を守るためにも丁度いいのだ! みっともないと笑われても結構! もう、どんとこいなのだ! 


自転車を前にフンスッと鼻息荒く気合を入れる。


「今日こそ乗れるようになって見せますわ!!」


「あはは! その意気だ! 頑張ろう、オフィーリア!」


セオドアに後押しされて、意気込んで自転車にまたがる。


「離さないでくださいませ、セオドア様・・・!」


「ああ! 離さないから! 大丈夫!」


オフィーリアは右足をペダルにかけると、力いっぱい踏み込んだ。


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