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4.早速ピンチ

この先のビジョンは見えた。

しかし、問題は山のようにある。


まずこの場所。

この女子寮の部屋は物語の中ではほとんど登場しない舞台裏だ。

先ほど自分の面倒を見てくれたのはきっとオフィーリアお付のメイドだろう。上位階級の貴族令嬢は寮生活とは言え一人メイドの付帯を許される。しかし、舞台裏故に物語には登場しないメイドの名前など知らないのだ。


(彼女の名前をどう聞き出せばいいの? 自然に聞き出すだけの話術なんて無い!)


それに貴族社会のマナーやルール。そんなことご都合主義のライトノベルに事細かに描かれてはいないのでさっぱり分からない。


(とりあえず、住処が自宅じゃなくて寮というだけでもよかった・・・。オフィーリアの両親の前には間違っても出られない)


そしてもう一つ、大きな問題が・・・。

断罪されるための一番大切なミッション。


ヒロインへの虐め。


椿は喪女である。それも万年教室の空気状態、どれほどのクラスメイトが自分の名前を知っているかすら謎であるほどの喪女、陽キャに虐めの対象にもならないほど存在感ゼロの女である椿にそんな芸当が出来るのか?


「全然出来る気がしない・・・」


椿は自分(椿)の姿でヒロインを虐めている姿を想像してみた。

小デブで地味子な椿が、派手なフリフリドレスを着て床に泣き崩れているヒロインの背中を踏みしめ、ホホホと高笑いをしている姿。


「シュール過ぎて地獄絵図・・・」


想像しただけでゾゾゾと背中に悪寒が走る。


しかし、実際の姿はオフィーリアなわけだから、もう少し美しい図になるか・・・?

ふっと美しいオフィーリアが黒いボンテージファッション網タイツ姿で鞭を持っている姿が浮かんだ。


椿はブルブルと頭を振る。


「無理無理無理。虐めなんてそんなことしなくてもきっと大丈夫! セオドアとオリビアは上手くいくはずだから!」


頭の中に物語のセオドア・グレイ侯爵令息を呼び起こした。


彼はオフィーリアという婚約者がいながらヒロインに気持ちが傾く浮気者。

とは言っても、二人は政略結婚なわけで、セオドアは元々オフィーリアが苦手という設定であるのだから致し方がない。好きでもない女が自分の彼女を虐めるのだ、そりゃあ、どんどん嫌いになるだろう。


とにかく、現状を把握しなければ! 

一体今は物語のどの辺なのだろう? そこのところはっきりさせないといけない。中盤辺りなら既にヒロイン虐めで嫌われているはずだ。それならば、もう何もしなくて傍観でいいだろう。後半辺りなら尚良し。もはや断罪を待つのみ!


しかし、もしも序盤なら・・・。


「それは困ります! ヒロインと絡むなんて絶対無理! ハードル高過ぎ!」


頭を抱え、一人喚いているところに部屋のドアがノックされた。

一人の少女がそーっと入って来る。その恰好はメイド。さっきの人だ。


(ああ! どうしよう! 名前が分からない~~~)


いきなりのメイド登場に椿は頭を抱えたまま固まった。


「オ、オフィーリアお嬢様、大丈夫ですか!? 頭が痛いのですか?! お医者様をお呼びしましたから、安心してください!」


驚いたように駆け寄るメイドの後ろには白衣を着たお爺さんが立っていた。その医者もメイドに続いて部屋に入ってきた。


「急に意識を失ったと聞きましたが、ご気分はいかがですかな?」


お爺さん医師のにっこりと笑った顔に、椿は少しホッとした。


「もう気分は大丈夫です。ちょっと眩暈がしただけでして」


椿は急いでベッドから半身を起こした。医者はそんな椿の手を取ると脈を図りだした。


「うん、特に問題はなさそうですな」


「は、はい。ぜ、ぜんぜん問題は無いです」


椿はペコリと頭を下げた。


「先ほど頭を押さえてましたな。念のため、頭痛薬を置いていきましょう。ではお大事に」


「ありがとうございます! お忙しいのにご足労頂き申し訳ありませんっ。すいませんでしたっ」


帰って行く老医者に向かってペコペコ頭を下げていると、妙な視線を感じる。ハッとしてメイドを見た。メイドが驚愕の顔をして椿を見ている。


しまった! 今の自分は貴族令嬢。こんなにペコペコ頭を下げてはいけなかったかもしれない。

ましてや自分はオフィーリア! 確か彼女は人一倍傲慢だ。使用人たちへの態度はとても酷かったと小説に書かれていたようないないような・・・。まあ、書かれていなくてもそういう人物像だったはず。


椿は青くなった。

ああ、早速ピンチだ。



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