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33.侯爵令嬢として

その日の夜、椿は緊張ぎみに壁に掛かっている鏡の前に立っていた。

果たしてオフィーリアは『麗しのオリビア』を読んでくれただろうか?

読んで傷ついていないだろうか? 泣いていないだろうか?

不安で仕方がない。


夜の10時になるのが怖くてならないと思う反面、早くオフィーリアと会って落ち込んでいたら慰めてあげたい。一緒に打開策を考えていると伝えたい。

そんな祈るような思いで夜の10時を待っていた。


時間になり歪んだ鏡から浮かび上がったオフィーリアの表情は、椿が想像していた以上に酷いものだった。


泣き腫らした目は腫れ、その目の下は酷い隈。もともと丸い顔は益々浮腫みやたら腫れぼったい。

泣いた後の自分の顔はこんなにも醜くなるのだと知って、椿は改めて驚愕してしまった。

だが、冷静に自分の姿を見ることが出来たのも一瞬だ。すぐに、そこまでショックを受けたオフィーリアに対し、後悔と罪悪感でいっぱいになってしまった。


「こんばんは、椿様」


自分の顔がどれだけ酷いか分かっているのいないのか。オフィーリアはいつものように優雅に椿に挨拶をしてくる。気丈に振舞う様に椿は胸を打たれてしまった。


「こんばんは・・・。オフィーリア様・・・。本を読んでくれたんですね・・・」


「ええ。最後まで読みました。非常に興味深い、そしてとても腹の立つお話でしたわ」


オフィーリアはツンっとそっぽを向いた。


「とんでもない悪女ですのね、わたくしって。驚きましたわ」


「すいません・・・」


椿は居たたまれなくなって俯いてしまった。


「なぜ椿様が謝るのです? 椿様が作者ならいざ知らず、そうではないのに謝るのはおかしいですわ」


「そ、そうですけど・・・」


「むしろ感謝しております。椿様の要領を得ない話よりもよっぽど分かり易かったですから」


ツンとした態度を崩さないオフィーリア。強気の態度が逆に見ていて辛くなる。


「ですが、わたくしの名誉のために言っておきますが、物や人を害す行為は一切していません。小説でも『オフィーリア』と断定はしていませんでしたけど。でも、わたくしだと匂わす表現。まったくお上手でしたわ」


「・・・すいません・・・」


責任を感じて俯いたままの椿に、オフィーリアは少し呆れ気味に小さな溜息を付いた。


「椿様・・・」


オフィーリアは椿の方に向き直った。しかし、その目線は椿に向けられておらず、少し遠くを見ていた。


「わたくしは本当に婚約破棄されるのですね、セオドア様に。そんな不安が無かったわけではないですが・・・。とは言え、侯爵家同志が決めた婚約でしたから杞憂だと自分に言い聞かせていたのですわ。それでも、やはり婚約破棄・・・。その上、修道院送りだなんて・・・」


オフィーリアはギュッと拳を握った。


「婚約破棄はもう仕方がないでしょう。でも、修道院送りは困りますわ!」


そして今度はしっかりと椿の瞳を見つめた。


「修道院での生活が嫌なわけではありません! 苦しくても辛くても、その生活が恐ろしいわけではないし、決して蔑んではいません。むしろ、セオドア様と結婚できないなら修道院で暮らしてもいいと思っているくらいです! でも、それではいけないの!」


自分の胸に手を当て叫ぶように椿に訴えた。


「わたくしはラガン侯爵家の娘なのです。侯爵家の娘としてそれなりの家に嫁がなければ! 家のためにもそれが使命なの! 大切に育ててくれた両親の為にも、家を継ぐ兄のためにも!」


その瞳の淵にはキラリと光るものがある。椿は息を呑んだ。


「婚約破棄をされた娘など、グレイ家ほどの良縁には恵まれないことは分かっています。後妻でも構わない。貴族の家ならば・・・」


椿はオフィーリアの言葉に絶句してしまった。

同じ年頃の女の子のはずなのに・・・、ましてや自分の姿なのに全く別人、尚且つとても大人びて見える。

それだけ背中に背負っているものが自分とは違うのだ。椿では背負いきれないほどの荷を彼女は背負っている。そしてその決心と自覚が十分にある。

自分とはなんという違いなのか・・・。椿は彼女の強さに絶句してしまったのだ。


「・・・オフィーリア嬢・・・」


椿は絞り出すようにオフィーリアの名を呼んだ。

その声にオフィーリアは寂しそうに微笑むと、俯いてしまった。


「愛のない結婚なんてわたくし達の世界では当たり前ですわ・・・。それなのに・・・わたくしはセオドア様に恋をしてしまったの・・・。愚かね・・・。好きにならなければ、きっと平常心を保てて、オリビア様に冷たい態度なんて取らなかったはずなのに・・・」


既に泣き腫らした瞳から再び涙が流れた。


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