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2.事故

目が覚めた時、椿は部屋のベッドに寝かされていた。椿以外誰もいない。ゆっくりと起き上がると部屋を見渡した。

やはりここは都内の某所にある自宅の自分の部屋ではない。勉強机や本棚が置いてあるが木造の立派な重厚感漂うもので、椿の部屋の物と趣が異なる。並んでいる書物も背表紙を見る限り、装丁が立派な本ばかり。マンガだらけの椿の本棚とは全然違う。

椿はパタン仰向けにベッドに倒れると、天井を見上げて現状を整理してみた。


ここ来る直前。私は何をしていたっけ?


お昼休みの鐘が鳴ると同時に、お弁当を持っていつもぼっち飯をしている校舎の隅の階段に向かった。食後はいつもの通り読書を楽しんでいたわけだが・・・。


そうだ。そこに事件が起きたのだ。いいや、正確には事故が。


読書をしている椿の背後からガヤガヤと声が聞こえた。

滅多に人が通らない場所なのに、数人の男子がふざけ合いながら歩いてくるではないか。

しかも、廊下だというのに何故かサッカーボールを軽くチョコチョコと蹴っている。


サッカーボールにもやや身の危険を感じたが、何より陽キャの空気が椿には神々しくて耐えきれず、急いでその場から退散しようとした。

立ち上がったその時だ。


「あっ、やべっ!」

「馬鹿! 何やってんだよ!」


という、とてつもなく嫌な予感がする会話が聞こえた。

恐る恐るチラッと振り向くと、ボールがこちらに向かってくる。


「危ねーーっ!」


そのボールが飛んでくる瞬間、自分の前に誰かの手が差し伸べられたが、時はすでに遅し。

ボールはしっかりと椿の顔面にミートし、体が傾いた。


そこまでは記憶がある。

きっと、あの後、階段を落ちてしまったのだろう。


「もしかして・・・、私、死んじゃったのかな・・・?」


椿は独り言を呟いた。


顔の前に両手を広げてみる。手のひらと甲を交互にしげしげと見つめた。白くほっそりとした手。指も美しく細く長い。自分のモチっとした丸い手となんという違い。


あの時、自分は死んでしまい、このオフィーリアの体に憑依してしまったのか?

たまたま読んでいた本の世界の中に入り込んでしまったということか? そんなの、それこそ漫画かライトノベルそのものじゃないか、異世界転生物の!!


しかも! しかもだ! 選りによってオフィーリア!

彼女はこの物語のヒロインであるオリビアをひたすら虐めるご令嬢。


ヒロインだって冗談じゃないが、せめてそこはその他大勢のモブでありたかった!

そのモブですら、喪女の椿には荷が重いというのに! 脇役とは言え、オフィーリアは主人公と対峙する重要な役。そんな役どころ任せられても困る! 担えるわけがない!


「無理です~! 無理!」


想像するだけでもう一度気を失いそうだ。


「誰か、これは夢だって言ってください~!」


椿は両手で顔を覆って一人悶えていた。

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