あの日食べたきゅうりの味が忘れられない
忘れもしないあのきゅうりの味。
忘れた日付。
あの日、私たちはバーベキューをしていた。
叔父家族も住んでいる祖父母宅の庭で、15人ほどで集まってワイワイやっていた。
安い肉にこっそり文句を言ったり、高級肉に舌鼓を打ったり、変な味のドレッシングで盛り上がったりしながら楽しい時間を過ごしていた。
やがて肉もなくなり、残った野菜をちまちま食べていた頃に「それ」はやってきた。
従姉が家の中からきゅうりの一本漬け(割り箸が刺さっている)を人数分持ってきたのである。
この時の我々招待客の盛り上がりは尋常ではなかった。一本漬けはアガるのだ。15本も一本漬けを用意してくれた従姉に礼を言い、それぞれ1本ずつ手に取った。
そして、皆に行き渡ったことを確認した従姉がきゅうりを掲げ、音頭をとった。
「我ら生まれた日は違えども!」
「「死す時は同じ日同じ時を願わん!!」」
誓いを立て、各々がきゅうりを口へ運ぶ。
その時だった。
「みんなちょっと待ってこれダメだ!!!」
とんでもない顔をした従姉が叫んだ。塩辛かったのだ。
しかし、そんな従姉の言葉も間に合わず、ひと口齧った者たちは次々と悲鳴を上げ始め、会場は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。
無論、私も口にしていた。
冗談抜きで死ぬかと思った。
これまで生きてきた中でダントツの塩辛さだった。明らかにこの世の食べ物ではなかった。1番つらい地獄で食べさせられる拷問食のようであった。
そしてなぜか、塩よりも塩辛かった。
塩分の含有量がきゅうりの重さの6倍はあるのではないかと思ってしまうほどだった。
ペヤング獄激辛Finalと同等かそれ以上の衝撃だった。ペヤングは1本でも悶えるほど辛く、体が危険信号を出すのだが、摂取出来ないかと言うとそうでもなかった。
それに対し、このきゅうりの時は体が「死」信号を発していた。飲み込むと100%死ぬという確証があったため、齧った全員が吐き出した。
参加者が飲み物を飲んで落ち着いている中、従姉は1人あごに手を当てて首を傾げていた。
「ん!? まちがったかな⋯」
アミバもとい従姉になにを間違えたのか聞いてみたところ、使う塩を間違えたのだという。
ふざけんなと思った。