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アレ【Cパート】

「肉体を失ったが性欲は衰える事はなかった。」


 玄武(げんぶ)は切々と語り始めた。


「魂となった事で日本まで飛んで戻ったワシは初恋の人に逢いに行った。

 彼女は既に結婚していたが、それでも幸せそうな姿を見て満足だった。

 ――だが、性欲だけはどうにもならなかった。」


「それで、どうされたんですか?」


「最初は彼女の夜の営みを覗く事で欲望を満たしていたが、次第に彼女の下着へと興味は移っていった。」


「‥‥‥‥はぁ?」


 健悟(けんご)はこの辺りから置いてきぼり感が強くなり始めた。


「それはやがて性器を隠す下着から、下着を隠す衣服へと欲情はエスカレートしていった。

 ――わかるか?」


 玄武の問いに健悟は首を全力で横に振った。


「はあーっ、仕方ない‥‥。お前にわかり易く説明してやろう。

 要はパンツよりもブルマに欲情するようなものじゃ!」


 それならわかる気がする。

 ――が、わかってはいけないような気もする。


「ええ、まあ、何となくは‥‥はい。」


 健悟は作り笑いを浮かべて答えた。


「一度エスカレートした欲望は留まる事を知らなかった。

 気付いた時には年老いた彼女の衣服を(まと)う事で至高の(よろこ)びを感ずるようになっていた。

 また、ワシの姿も彼女に合わせて(とし)相応のものへと変貌していった。」


「え、えーと‥‥それで、その初恋の人は?」


「八十歳で成仏したよ。おそらくは天国で旦那と幸せに過ごしておるじゃろう。

 だから、ワシはこの世で未来永劫の片想いを貫く決心をした。

 『届けられなかった想い』というものは琥珀のように美しい。

 ワシが知る限り、それはこの世で一番尊いものじゃと思う。」


 玄武の目にはうっすらと涙が光る。


「でも、それと俺の身体(からだ)()りつく事とは違うような‥‥。」


「‥‥ワシは『アレ』から逃げるのに疲れたのじゃ。」


「アレとは?」


 その時だった。

 ビルを突き抜けて、超巨大な円盤状の何かが現れた。

 それは吸引音を立てて突き進む。

 例えて言うなら超巨大な空飛ぶルンバだ。


「あれが『アレ』じゃっ!」


 恐怖に満ち溢れた声を上げる玄武。


「もう一刻の猶予(ゆうよ)もない!

 とっとと合体するぞ!」


 が、玄武はあまりにも昔話に熱中し過ぎていた。

 その為、背後まで近付いてきていた真雨に気付けなかった。

 無論、残糸(ざんし)に鼻毛切り鋏がねちっこく入れられていた事さえも。


 そして、


 チョキン。


 まさに水の一念、遂に真雨は玄武の残糸(ざんし)を断ち切った。


「な、なんじゃとーっ!」


 バランスを失い、宙に身体(からだ)が浮き始める玄武。


「うぬっ、ぬおおおおおおおっ!」


 玄武は次の瞬間、超巨大なルンバに吸い込まれていった。



 超巨大なルンバは尚も直進し続け、やがて見えなくなった。


「何だったんだ、アレは?」


「正式名称は知らねぇが、アタシらは『回収業社』って呼んでたなぁ。」


「回収業社?」


「ああ、この世に定期的にやってくる。

 地縛霊やら、死んだ事を認めない霊やらを吸い込んで浄化させる掃除機だな。」


「浄化? 成仏とは違うのか?」


「成仏は時が経てば何らかの形で転生や守護霊なんかに復活出来るけど、浄化は完全な消滅だ。」


 真雨の説明に健悟は身震いした。


「‥‥寂しい話だな。」


「まっ、死んだら死んだって事を素直に受け入れるこったな。

 もっとも、強制転生で、ず~っとナメクジをやらされんのも救いがねぇけどさ。」


「違いねぇ。

 ――それにしても、お前‥‥思いっきりボコられて、だっせーな。」


 健悟がボロボロの真雨を見てクスリと笑った。


「う、うっせーなぁ、このバホマトン。

 アタシに助けられたテメェの方がだっせーだろが。」


「ははっ、どっちもどっちか。」


「――だな。

 取り敢えず、まだ夜の仕事までは時間があるし、身体(からだ)休ませねぇとな。」


 二人はアパートに向かって歩を進めた。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだかんだ仲良くなってきた健悟と真雨の会話がいい感じですね。
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