狙われた男【Bパート】
「何だよ、超いい事って?」
健悟は真雨に訊き返した。
「今のお前は守護霊不在の状態だ。
つまり、守護霊に見放されたのと同じ状態なんだよ、わかるか?」
人差し指を突き出して真雨が説明する。
「だ、だから何なんだよ?」
「そんな状態の人間が死んだらどうなる、か?
ああ、どうなる、どうなる?
どうなっちゃうんだろうなぁ~?」
「‥‥どうなるんだよ?」
「じゃあ言うかんな。
耳の穴かっぽじって、よぉく聞けよ?」
「早く言え。」
「やっぱ強制転生の対象になんだよ! ひゃっひゃっひゃっひゃっ。
しかも事故死や自殺だけじゃなく、寿命死も含めたあらゆる死に適用されんだよ!」
「なっ!? なにぃーっ!?」
未来永劫ナメクジに生まれ変わり続けるのは嫌だ。
「つ・ま・りぃ、アタシらは一蓮托生なんだよ。けけけ。」
「なんてこった‥‥。」
ハンパない絶望感が健悟に押し寄せる。
が――
「うん、早く百万貯めて守護霊をチェンジしてもらおう。」
健悟は度重なる不運で打たれ強くなっていた。
「ちょーっと待てぃ!
二十六万貯めて、アタシを守護霊に復帰させる方が難易度が低いぞ!」
焦る真雨が説得する。
「悪縁を断ち切れない守護霊なんて、いりませーん。」
「ぐぬぬぬ‥‥。」
痛い所を突かれ肩を震わせる真雨。
だが、悪知恵なら真雨も負けない。
「ここのバイト代から税金と国民健康保険、家賃、光熱費、通信料、食事代、雑費、そして鷹端瑞希神療内科での診察料のローンを引くと、いくら残るでしょうーか?」
ニマッと笑って出された真雨のクイズは健悟に嫌な汗をかかせた。
「質素倹約しても八千円‥‥くらい?」
「ひゃっひゃっひゃっひゃっ、百万貯める前に物価が上がって貯蓄ゼロになるに決まってるぞ。」
「そ、そうなったら賃上げ交渉してだな‥‥。」
「グロスのアニメ会社にか?」
「う‥‥。」
健悟はぐぅの音も出ない。
「だから言ったろ、ここは悪縁だからやめておけって。」
「だって、深夜のバイトなら給料もいいと思ったし、クリエイティブな仕事の手伝いにも魅力を感じたし‥‥。それに他の選択肢が介護職しかなかったし‥‥。」
健悟は言い訳を始めた。
「ああ、あの特別養護老人ホームな。
――言っとくけど、あそこも悪縁だから。」
真雨の言葉に更なる絶望感に打ちのめされる健悟。
「俺の選べる選択肢はハズレしか出てこねぇのかよ‥‥。」
「もしアタシが悪縁を全部断ち切っちまったら、健悟の就職先はなかったかもねぇ。」
落ちこぼれの元守護霊は更にダメ押しした。
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