別離【Bパート】
「健悟、起きろっ! 死ぬんじゃねぇーっ!
このままじゃ、テメェもアタシも未来永劫ナメクジ人生だ!」
真雨は大きな瞳に涙を浮かべて叫ぶ。
しかし、ピクリとも動かない健悟。
と、その時。
「まいどー、石原昇天通販部です。
鷹端瑞希様でお間違いないでしょうか?」
着帽のまま繋ぎ姿の青年が細長い段ボール箱を一つ運んできた。
「はい、私が鷹端です。
――でも、一体、何か月待たせるつもりなの、お宅は?」
伝票にサインをしながら瑞希は文句を垂れた。
「どうもすみません。
何しろ完全受注生産品ですし、安全テストも念入りにしないといけない商品なので。」
「‥‥まあ、いいわ。ちょうど必要なタイミングだったし。」
瑞希はそう言うと段ボール箱を開け、中から充電式の掃除機のような物を取り出した。
「おい、先生! 今はそんな事をやってる場合じゃねぇだろが!」
貴緒音の百連突きを再び躱しながら真雨がツッコミを入れる。
「いえ、今がその時なんです。
――守護を放棄し、己の欲望を満たす為に守護霊狩りをしてきた者たちよ、戒め神の名のもとに汝らから守護霊の資格を直ちに剥奪し、『浄化』の刑に処する!」
瑞希はそう呪文を唱えてスイッチを入れる。
ズウォ――――。
病室に静かな音が流れる。
「なっ!? なんや!? か、身体が、吸い込まれよるーっ!」
「そ、それって‥‥もしかして回収業社のかにゃ!?」
貴緒音と絵麗が必死に吸い込まれまいと抵抗する。
「ご明察。回収業社の『アレ』の家庭用版。」
「や、やめておくんなはれ~っ! 改心しまっさかい、浄化だけはぁぁぁぁ~‥‥」
「ごっ、ごめんなさぁい! もうしませんから、ご勘弁をにゃあぁぁぁぁ~‥‥」
それぞれカッコ良さの欠片もない断末魔の言葉を残し、守護霊ハンターズは呆気なく浄化された。
● ● ●
五日後、健悟の右肺は瑞希の回復術式によって完全回復した。
「先生、ありがとうございます。命拾いしました。
――でも、治療費と入院費、きっと高いんでしょうね?」
健悟は正直ベースに尋ねてみた。
「元々はこちらが蒔いた種ですから、特別にタダにしますよ。」
「本当ですか?
もし一億円とか請求されたらどうしようかと思っていました。」
「私をぼったくりみたいに言わないでください。」
「実際、ぼったくりじゃねぇか。」
健悟のベッド脇の丸椅子に座っていた真雨がツッコミを入れた。
百連突きによる裂傷は、やはり瑞希による回復術式で完治していた。
「あなたたちを救ったあの掃除機の価格は三千八百八十万円もしたんですよ。
アレを買う為に私は心を鬼にして皆さんから高い医療費を取らなくてはいけなかったのです。」
瑞希は左拳を握り締めながら熱く語った。
「ええと‥‥じゃあ、目的は達成されましたし、俺のローンが少なくなるって事も?」
健悟の言葉を廊下で聞いたのか、受付の山田が病室に入ってくるなり、
「ちっちっちっ、それはありませんよ、飯綱さん。
まだまだ病院にはいろんな設備投資が必要ですし、あの掃除機だっていつ壊れるかわかりませんから。
もっともっと患者さんからぼったくらないと!」
事情を説明した。
(今、しれっと『ぼったくらないと』って言った‥‥。)
健悟と真雨は心の中でユニゾンした。
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