守護霊ハンター【Cパート】
「も、もう大丈夫、なの、貴緒音さん?」
健悟が休日を取った初日、神療内科のベッドで上半身を起こした貴緒音に舞亜が近付いて尋ねた。
「ええ、もう大丈夫や。
――みんなにはえらい心配掛けてもうたなぁ。」
「それで、守護霊ハンターというのはどのようなモノでしたか?」
瑞希が貴緒音に問う。
「‥‥それが‥‥あっという間に三人ともやられてもうて‥‥あまり印象として残ってはあらしまへんのや。」
貴緒音は両目を閉じて答えた。
「妖の類だとすっと、とんでもねぇレベルなんじゃねぇか?」
真雨はどこか強敵を楽しみにしているようにも見える。
こいつのメンタルだけはレベル四桁級だ。
「絵麗さん、今、どの辺に守護霊ハンターがいるか、わかりますか?」
健悟が先程から黙りこくっている絵麗に尋ねた。
「‥‥ハッキリとわかりますにゃ。」
「えっ!? それはどの辺なんですか!?」
健悟が改めて訊き直した。
「それが、実はこの病院の中だったりするんスよ。」
そう言うなり、断ち切り道具のチェーンソーを出現させ、臨戦態勢を取る絵麗。
「そんな莫迦な。
この病院には結界が張られていて、妖も無用な人間も入って来られないはず。」
さすがの瑞希も動揺を隠せない。
「ど、どこにいるん、です、か!?」
舞亜が断ち切り道具の戦斧を取り出した次の瞬間だった。
本来なら阿虎が所有しているはずの大太刀が舞亜の腹を貫いた。
「かはっ!」
予想だにしていなかった一撃に、舞亜は何も反応が出来なかった。
手からこぼれ落ちる戦斧。
「一丁上がりや。
うちの忠告、忘れはったん? 油断、禁物や言うたはずなんやけど。」
大太刀の持ち主は貴緒音だった。
「き、貴緒音さん‥‥どう、して‥‥?」
舞亜はそう問い掛ける。
「そんなん、うちが守護霊ハンターやからに決まってるやん。
――残糸、断ち切らわしてもらいま。」
大太刀が舞亜の左脇腹からサッと抜けると、彼女はその場で光の粒子となって消滅した。
「舞亜さん!
‥‥まさか、貴緒音さん、あなただったなんて!」
健悟が血相を変えながら丸椅子で防御姿勢を取る。
「阿虎はんには流石に手こずらされましたわ。
おかけで、うち、あない手負いにさせられましたし。」
「ふっざけんなっ!」
真雨がいつもの通り、無謀にも突っ掛かって行った。
「飛んで火に入る夏の虫やな。」
貴緒音が大太刀から対華の断ち切り道具の軍刀に切り替え、身構える。
「真雨――っ!!」
健悟は持っていた丸椅子を貴緒音に向けて投げつけた。
霊に対して物理攻撃が有効となるこの空間ならではの作戦だ。
スパッ!
しかし咄嗟の判断で丸椅子を真っ二つにする貴緒音。
「剣の達人言うんは、鉄の剣を以て鉄の兜を割るっちゅう――」
バキッ!
カッコいい台詞の途中で真雨のグーパンが貴緒音の顔面を捕らえた。
「ほえぶぁっ!」
無様な声を上げ倒れる貴緒音。
「おっしゃーっ、決まった! 作戦通り!」
「嘘つけっ、偶然じゃねぇか!」
真雨の台詞には健悟もツッコまざるを得なかった。
「いいんだよ、こーゆーのは結果オーライで。」
だが、貴緒音はすっくと立ち上がる。
「たかがグーパン一発、されどグーパン一発。
低レベルの分際で、うちの顔を殴るとは‥‥礼っちゅうもんを教えたらなあきまへんなぁ。」
「なぁにが礼だよ。
テメェ、今の状況わかってんのか? こっちは二人、そっちは一人。」
真雨の言葉に促されてか、絵麗が真雨に歩を進める。
が、貴緒音は口端を上げる。
「わかってへんのは、そっちの方や。」
次の瞬間、絵麗のチェーンソーが真雨に向かって勢いよく振り下ろされた。
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