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狙われた男【Aパート】

この作品は『時代に取り残された』と感じている全ての方々に捧げます。

飯綱(いづな)さん、大川(おおかわ)さんの上がりが出たんで作監修正を回収した後、スタジオいえろーにこの動画を入れて来てください。」


 二十一時から早朝五時の時間帯、アニメ制作のドライバーとして株式会社プロップにバイトとして雇われた健悟(けんご)は、自分よりも二十歳年下の制作進行の左右田(そうだ)秀雪(ひでゆき)に仕事を頼まれた。


「はい。

 ――大川さんは北入曽(きたいりそ)でしたっけ。」


「そうそう。で、いえろーは三鷹(みたか)ね。」


「いえろーさんは初めて行くんで‥‥。」


 今夜回るリストに健悟は二件の追加業務を書き込むと、アニメ会社や原画マンの家へのルートマップやカット袋の置き場所などが印刷された紙が五十音順にまとめられた青色のバインダーを開く。

 そんな中、健悟の元守護霊の真雨(まさめ)が腕を頭の後ろに組んだポーズでボヤく。


「なあ、健悟ぉ。

 言ったよなぁ、アタシ? この会社、かなりの悪縁(ブラック)だってよ。」


 他人には真雨の姿は見えないし声も聞こえない。

 元とは言え守護霊の能力は消えていないので良縁か悪縁かは一目でわかるらしい。


「(‥‥仕方ねぇだろ、良縁の会社はみんな面接まで辿(たど)り着けなかったんだから。)」


 健悟は小声で真雨に返す。

 思った事が伝わるテレパシー機能がないので、意思(いし)疎通(そつう)は口に出すしかなかった。この辺り、なかなか不便である。


「年齢、学歴、職歴、この辺りがネックなんだよなぁ。

 ブラック一筋三十ン年じゃあ、キャリアもイタリアもあったもんじゃねぇよなぁ、けけけ。」


「(うっさい、少し黙ってろ。)」


「あんだよ、人‥‥じゃなかった、元守護霊様がせっかく話し掛けてやってんのによぉ。」


 むくれる真雨だが、守護霊でなくなった現在となってはただのおしゃべりな背後霊だ。


「‥‥‥‥。」


 制作ルームにはまだ左右田が残っているので、独り言がバレないように健悟はだんまりを決め込んだ。


「ああっ、テメェ、アタシを無視してんなぁ!?」


 怒り心頭の真雨を無視して健悟は左右田に、


「じゃあ、行ってきます。

 戻りは三時くらいになるかと思いますので、中国の互助会便出しにも行けると思います。」


 と告げた。


「ああ、俺、中国便担当じゃないから、それは今、外を回っている車藤(しゃとう)さんに伝えて。」


 グロス会社の制作進行は自分の担当している作品以外は『知ったこっちゃない』だった。

 この辺り、健悟が以前に観ていたアニメ業界を題材にしたアニメ作品とはだいぶイメージが違っていた。

 おそらくあのアニメは『元請(もとう)け』と呼ばれる制作会社が舞台だったに違いない。


「‥‥わかりました。戻ってきたら伝えます。」


 そう言うと健悟はホワイトボードにぶら下げられていた会社の車のキーを取り、戻りの予定時間を黒マジックで書き込んだ。



 運転席に座った健悟、助手席に座る真雨。


「お前、そこに座んなよ。リストが見えねぇじゃねぇか。」


「なら、ドアポケットに突っ込んどけよ。

 喋り相手がいた方が眠気覚ましになって便利だろ?」


「ラジオ聴くから喋り相手なんていらねーし。」


「あ~っ、もうっ! 勘の(にび)ぃヤツだな!

 アタシは健悟に死なれると困んだよっ!」


「なんで?」


 健悟は質問をしながらリストをドアポケットに入れると、キーを回した。

 掛かるエンジン音。


「事故死や自殺をされると、守護霊は大きなペナルティを課せられんだよ。」


「お前、もう守護霊じゃねぇじゃん。」


 健悟の言葉を聞いた真雨は頭を抱え込むとガタガタと震え出した。


「そうなんだよ、だから余計にダメなんだよ。

 守護霊の座を外されたアタシの場合、守護すべき人間のあらゆる死が強制転生の対象になんだからよぉ‥‥。」


「ああ、ずーっとナメクジに転生し続けるんだっけ?

 ははっ、いいじゃねぇか、ナメクジ。」


他人事(ひとごと)だと思って適当な事、言いやがって!」


「はいはい、そうです。だって他人事(ひとごと)だもーん♪」


 プチッ。

 真雨のこめかみに血管が浮き出る。


「ほう‥‥なら一つ、超いい事教えてやろう。」


 真雨はずいっと身体(からだ)を乗り出して健悟の鼓膜(こまく)を刺激した。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 真雨と健悟の軽妙なやり取りがいいですね。
[良い点] 健悟と真雨のやり取りが軽妙でいいですね。
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