迫りくる危機【Cパート】
「これは危険でござるな。」
阿虎が腕を組んで語った。
「危険って、何がですか?
高いレベルの守護霊が狙われているんですよね?」
健悟が尋ねた。
「ぎゃ、逆なんですよ、健悟さ、ん。」
舞亜が説明に入った。
「さ、先程、瑞希さんが言いましたよ、ね。
レ、レベル15未満の守護霊は、に、人間界には通常いないんで、す。」
「えーと‥‥つまり、超激レアって事ですか!?」
「飯綱さん、もし守護霊ハンターの目的が高レベルの守護霊を倒す事ではなく、単純に道具のコレクションだとしたら、今、日本で一番危ないのはあなたたち二人なのです。」
瑞希が危機を伝えた。
「なんてこった! ちんたらモグラやオケラなんかと戦ってる場合じゃなかったんだ!」
パニくって喚く真雨に対し、更に瑞希は言葉を続ける。
「この間、あなたに守護霊の免許を与えた教員にお会いして、何故レベル1の者に資格を与えたのか聞きました。」
「げげっ、あの先公に会いに行ったのかよ!?」
蒼ざめた顔の真雨。
「それで、その理由ってのは?」
真雨を押しのけ、健悟が瑞希に質問を投げ掛けた。
「ああいうタイプは実地研修を積ませるのが一番の薬だと思った。守護される人間には気の毒だが。
――だそうです。」
育とうが育つまいが我関せずといったところか。要は投げっ放しである。
(訊くんじゃなかった‥‥。)
がっくりと首を落とす健悟。
「くっそ、レベルアップしようにも、今のアタシは健悟の体内に入れねぇから悪縁の一本も断ち切れねぇ!
手っ取り早くレベル15まで上げるにはどうしたらいいんだ!?」
苛立つ真雨。
以前、香代の体内には入れたのだから健悟の体内にも入れそうなものだが、そうはいかないのは瑞希が施した術式が大きく関わっているのだろう。
「ひとつだけ方法があるぞ、真雨。」
「なんだ健悟、その方法って?」
次の瞬間、健悟は瑞希に土下座を敢行した。
角度、姿勢、額の付き具合、どれをとっても完璧な土下座だった。
「鷹端先生、守護霊チェンジを十八万六千円でお願い出来ませんでしょうか!
真雨が強制転生しないフォロー込み込みで!」
「健悟‥‥。」
真雨も土下座を敢行した。
これもまた完璧な、それはそれは見事な土下座じゃったそうな。
「ダメです。びた一文負けません。」
が、戒め神の一貫したポリシーが二人の最後の手段を木っ端微塵に打ち砕いた。
「なんか不憫でござるな‥‥。」
阿虎が同情する。
「隊長ッ、誰か一名、こいつらに同行するってのはどうでありますかッ!?」
対華が阿虎に進言した。
「ふぅむぅ‥‥。
芽楼の件は単独行動が起因しておった。
彼らに護衛を付けるのであれば二名としよう。」
阿虎は深く考えた末に決断を下した。
「んじゃあ、私と舞亜でいいんじゃね?」
絵麗が名乗りを上げた。
「むう、確かに。
絵麗の異能力の精神感応通信を聴けるのは対華の道具の一つ、トランシーバーのみ。
舞亜の集団防御壁があれば、我らが貴緒音の集団高速移動で到着するまで持ち堪えられよう。」
要は、こうだ。
①・真雨を狙って守護霊ハンターが現れる。
②・舞亜の集団防御壁(つまり大きなバリア)で防御に徹する。
③・絵麗の精神感応通信で対華のトランシーバーに連絡。
④・貴緒音の集団高速移動(つまりワープの廉価版)で合流。
⑤・全員集まったところで守護霊ハンターをフルボッコ。
「ちょっと待ってください。
阿虎さんたちの所に現れたら俺たち駆けつけられませんよ?」
心配そうな健悟の顔を見た阿虎は思わず吹いた。
「はっはっは、この隊の上位レベル三名が揃ってる以上、万が一にもやられはせんて。」
阿虎は豪快に笑い飛ばした。
● ● ●
その後、診察、会計を済ませ、阿虎たちと別れた健悟は、一旦、アパートへ戻る事にした。
「‥‥なんか俺、さっきからジロジロ見られてる気がするんだけど。」
「ああ、私ら高レベル過ぎて人間の肉眼でも見えるからだったりするかもねん。」
絵麗がしれっと答えた。
「なにーっ!? 見えたり聞こえたりしてんは俺だけじゃねぇのか!?」
健悟は驚いた。
当たり前だ、アラ還男の両脇に変な髪型をした昭和体育ジャージ姿の女性と卒業袴の矢絣を着た女性が歩いているのだから。
「残念ながら、お触りは出来ないけどねー。」
「触らねぇし!
――つか、俺だけに見えるようにはならねぇのか?」
「で、出来ます、よ?」
「出来んのかよ! なら、そうしてくれ。」
「ここで?」
人通りのある駅前、ここで急に人が消えたら大事件だ。
「‥‥すまん、俺が悪かった。やるのはアパートの前にしてくれ。」
健悟は大鎧と白拍子と軍服のトリオが護衛ではなくて心底よかったと思った。
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