縁【Cパート】
「あれ? 飯綱くん?」
「えっ、神井さん?」
カラオケボックスで受付をしていたのは香代だった。
「ここでバイトしてるの?」
「うん。子どもも働いているけど、私だってまだまだ働ける齢だもの。頑張らなくっちゃ。」
そう言うと香代はにっこり微笑んだ。
その笑顔にドクンと脈打つ健悟の心臓。
「俺も最近、この町で就職したんだ。
今日は事情があって休みだけどね。」
「そうなんだ。
――あ、今日はおひとり様でいいのかな?」
「人間はね。
元守護霊とフリーランスの守護霊がついて来てるけど、料金は掛からないよね?」
「あはは、まあね。
じゃあ、早速案内するけど、時間はどうする?」
「一時間半で。」
「うん、わかった。」
● ● ●
ルームに通された健悟たち。
「リモコンは真雨たちは持てないから俺が入力するとして、だ。
マイクはどうする? いらない?」
「心配は無用だ。
こんな事もあろうかと、霊でも持てるマイクを持っているさね。
更にこの道具を繋げると、あの得点を出す機械に判定させる事も可能だったりする。」
「さっすが姐御! 姐御に掛かっちゃ何でもアリだな。
どーよ、健悟。野望が打ち砕かれた気持ちは? えっ? ほら、何とか言ってみそ。」
「ま、みんなで楽しめるならその方がいいよ。」
屈託のない笑顔で健悟が答えると、真雨は少し肩すかし感を味わった。
そして健悟は続けざま問い掛ける。
「んじゃ、誰から歌う?」
「じゃあ、言い出しっぺの私から。
異存のあるヤツはその場で両手両足を同時に上げてくれ。」
「出来るかっ!」
健悟と真雨がユニゾンでツッコミを入れた。
「さあ、私の歌にむせぶがいい。」
「マリア、思いっきりハードル上がったけど、大丈夫か?」
「歌なら任せろ。
健悟、『あの夏の白い渚で』という曲を入力してくれ。」
「ああ、わかった。ええと‥‥あった、この曲だな。」
マリアの歌はやはり昭和歌謡だった。
「ふたりーで走った~♪ 白い渚の~♪」
その伸びやかな歌声は聴く者を魅了した。
余程、歌い込んだ曲なのだろう、その得点は百点だった。
「姐御の後じゃ歌いにきぃんだけど、次はアタシが行くぞ!
曲は『ビューティフル・スマイル100%』だ!」
真雨が選んだのは人気ドラマ(※観てないけど)の主題歌で、深夜・早朝のラジオでパワープレイされていた曲だ。
「見えないものを信じられますーかー♪ それは自分の可能ー性♪」
決して上手くはないが、真雨はパワフルに歌い切った。
そして、得点は――
「かあーっ、75点かよ~。また微妙な点数だなぁ。」
「よし、次は俺な。曲はっと‥‥これで!」
「『マキシマム・フィーバーG』!? やっぱアニソンじゃねぇか!
しかも曲、短けぇからマイナスされる要因が減るし! ずっりーぞ!」
「ふっふっふ、残念だったな、真雨。これはアニソンではない。特撮ソングだ。」
「同じようなモンじゃねぇか!」
文句を垂れる真雨を無視して健悟は歌い始める。
「地球が破滅しそうたぜー♪ 誰もが明日を諦めてるぜー♪
だけど俺が♪ だけど俺が♪ いっるかーぎりぃ~♪」
熱唱が終わった。そして、得点表示前のドラムロールが流れる。
――デーン!
「あっひゃっひゃっ、58点だと!
調子っ外れもここまでくりゃあ芸術だよ、けけけ。」
健悟の歌の得点に腹を抱えて笑う真雨。
「得点争いは俺の負けでいいよ。
だから、次っからは得点表示ナシで行かないか?」
「ああ、アタシもそれにゃあ賛成だ。
――いいだろ、姐御?」
「まあ、音を楽しむのが音楽。みんなが楽しいなら了解さね。」
こうして一時間半のカラオケ大会は更に一時間延長された後、お開きになった。
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