縁【Bパート】
「なあ、健悟。あの社長、ケチくさくねぇか?
四億八千万ドルだぞ、四億八千万ドル!
――なのに日給八千円たぁ、どういうこった。」
アパートに戻った真雨が開口一番、思い出したかのように文句を垂れた。
「落札されたって言ったって、警察からアレが戻って来て、それをアメリカに送ってからの入金だぞ。
まだ手元には一銭も入ってきちゃいねぇんだ。
なのに、働かなくても日給八千円なら頑張ってる方だと思うぞ?」
「そんなもんかねぇ? テメェ、貧乏暮らしが続いたせいで、か・な・り金銭観感がおかしいぞ。
――なあ、姐御もそう思うよな?」
「そうさねぇ、健悟には欲ってモンが少~し足りないとは思うが‥‥そこが健悟らしいとこさね。」
そう言うと、マリアはハンチング帽を脱ぎ、窓辺にもたれて白いギターを弾き出した。
「ンなもんかねぇ。」
「今さらどんな幸せが来たって、今までのビハインドは取り戻せやしねぇよ。
若さってヤツは返ってこねぇからな。」
「おい、ちょっと待て。あんだよ、ビハインドって?
それって、アタシが役に立ってこなかった事に対しての当て付けか!?」
「へえー、自覚はあるんだ。」
健悟は目を細めて真雨を見つめた。
「ムキャキィーッ! どうせアタシは健悟みたいにダメダメなヤツだよ!」
「何だよ、その自爆テロ的な攻撃は!」
二人は睨み合った。
と、その時。
ジャン!
ギターを激しく鳴らすマリア。
「うるさいねぇ、喧嘩するなら外でやりな。作曲の邪魔さね。」
「‥‥作曲してたんだ、姐御。」
「悪かったよ、マリア。‥‥って、俺の部屋なんだけど。」
「あんたらはまだ強く繋がってんだよ。一定以上離れる事が出来ないのがその証拠さ。
言ってみれば二人用の手漕ぎボートさね。協力し合って寿命っていうゴールまで辿り着かにゃあならない。
――だから、とっとと仲直りしな。」
「姐御がああ言ってんだから、仲直りしてやんなくもねぇ。
(早く二十六万貯めてアタシを元に戻しやがれ、バホマトン。)」
「今日ンところはマリアの顔に免じて仲直りしてやるよ。
(百万貯めてチェンジするまでの間だけどな、この落ちこぼ霊。)」
二人はマリアに聞こえない小声でぶつかり合った。
「さて、二人が仲直りしたところで、カラオケに行こうじゃないか。」
唐突にマリアが提案してきた。
「なんでカラオケ? 俺、歌いたい気分じゃねぇんだけど。」
「ぷぷぷー、アニソンしか歌えねぇのが姐御にバレるんが恥ずいんだ。
しかも調子っ外れだしぃ。」
「ち、違わいっ! アニソン以外だって歌えんだぞ? ‥‥古いけど。
そういう真雨だって俺と同じレパートリーなんじゃねぇか?」
「ふっふっふ、深夜ラジオで流れてた曲なら歌えるもんねぇーだ♪
どーよ健悟、元守護霊様に屈した気分は? けけけ。」
「なら、得点で勝負しようじゃねぇか。
さてさて、カラオケボックスの機械が元守護霊様のお声を認識出来るかな?」
「うぐぅ‥‥この卑怯者大夫め。」
「さあ、行こ行こ!」
健悟はそう言うと玄関へと向かって行った。
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