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生きていく事【Cパート】

「ワシは‥‥ワシはもう働きたくないんじゃあっ!」


 ロボット形態になった7(トン)ユニックの付喪神(つくもがみ)は天地も裂けんばかりに声を張った。

 呆気に取られる三人だったが、そのうち真雨(まさめ)がニマッと笑う。


「じゃあさ、いっそラクになっちゃわね?

 テメェの残糸(ざんし)を切らしてさえくれりゃあ、ラクになれるよ。」


 右手に持ったゴマダラカミキリを見せつけながら死へ(いざなう)う真雨。


「働きたくもないが、死ぬのも嫌なのじゃあっ!」


「わがまま抜かすなっての! 行くぞ、オラッ!」


 突貫娘はいつものように突っ込んで行く。そして――


 ピシッ!


 ロボットの7(トン)(りょく)のデコピンをくらい、いつものように弾き返される。


 ドガン! ザザザ‥‥。


 地面に叩きつけられたまま滑り、土煙を巻き上げた。


「真雨、お前ってホント成長がねぇな。まるで工夫がねぇ。」


「るっせー、健悟(けんご)! こいつ、()えーんだよ、マジで! はあ、はあ‥‥。」


 青天状態から身を少し起こした真雨が叫ぶ。


「この悪縁は強靭な両端リングワイヤーが束になって絡み合っている。

 キンクになってるとは言え、私の仕込みを使っても容易(たやす)くは切れないだろうさね。」


 マリアが白いギターから仕込み刀を抜いて語る。

 ちなみに『キンク』とはワイヤーがよれている状態の事で、この状態で使用していると切れ易い。


「じゃあ、勝てねぇのか?」


「そうは言ってないよ。

 悪縁は切れなくても、この世とあやつの命を繋ぐ残糸はただの荒縄程度。難易度としては高くないさね。」


「甘いわ、守護霊!」


 そう言うと、ロボットは自身の残糸をも両端リングワイヤーの束でコーティングした。

 相変わらずワイヤーにはキンクがあったが。


「ンな真似(マネ)が出来んのかよ!? はあ、はあ‥‥反則じゃねぇか!」


 意地と根性で立ち上がった真雨が、息も絶え絶えに指さして非難する。


「やかましい! 反則も短足もあるか!

 デコピン一発でノビていればよかったものの‥‥次の一撃は容赦はせんぞ!」


 ロボットは頭に丁髷(ちょんまげ)状に付いているユニックのクレーン部分を真雨に向けて放ってきた。


 ビシッ!


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 立っているのがやっとの真雨は直撃をくらう。


 ドッガ――ン! ザザザザザザ‥‥。


 先程とは比べ物にならない威力で地面に叩きつけられ、勢いよく地を滑る真雨。


「真雨ーっ!」


 健悟の呼び声に反応しない真雨。


「ぐひひっ、今度はそちらのギター姉ちゃんの番だ! くらえっ!」


 マリアに向けてクレーンを発射してくるロボット形態の付喪神。


「よっと。」


 間一髪避けるマリア。


「健悟、トラックの弱点はどこだい?」


「そりゃあ、左のミラーだな。

 あれがなくなると怖くて運転なんか出来たもんじゃねぇし。」


「了解さね。」


 そう答えるとマリアは天高くジャンプ。


「やらせはせん!」


 鋭い左フックがマリアを襲う。


「当たんないよ、私にはね。」


 左フックを踏み台にし、マリアは加速を付けて頭部まで到達。


「頂くよ。」


 仕込み刀の一太刀が左ミラーを叩き斬った。


「うがあああああっ! 目がぁっ、目がああああああっ!」


 ガクリと片膝を着くロボット。


「お次は残糸(ざんし)、断ち切らせて頂くよ。

 必殺、かまい断ち!」


 仕込み刀が生み出した真空波が残糸をコーティングしていた両端リングワイヤーの束を全て断ち切った。

 しかし、


「ちっ、残しちまったかい。」


 肝心の残糸だけ残してしまった事に舌打ちをするマリア。

 そこをすかさず、


「断ち切れ、ゴマダラ!」


 身動きが取れない真雨が道具(アイテム)のゴマダラカミキリを剥き出しになった残糸に向けて飛ばす。


「キキィー!」


 残糸に取り付いたゴマダラカミキリは、それを(かじ)り始めた。

 真雨のこの道具(アイテム)のユニークスキルは『遠距離攻撃』と『激痛』である。

 特に後者は、残糸を噛まれた者に激痛を走らせるという身の気もよだつ特性があった。


「うぎゃぎゃぎゃぎゃあああっ!」


 経験者ならおわかりかと思うが、ゴマダラカミキリの強靭な(あご)で噛みつかれるととても痛い。どのくらい痛いかというと、それはもうとにかく物凄く痛いのだ。


「働くのも死ぬのも嫌じゃが、痛いのも嫌じゃーっ!」


 ロボットは悶絶しながら転がり回り、配送し終えて戻って来ていたトラックを次々に()ぎ倒していった。


 ● ● ●


 ゴマダラカミキリの奮闘三十分、付喪神の残糸は風前の灯とまでになっていた。


「イヤ、だ‥‥死ぬ、のは‥‥。」


 意識は朦朧(もうろう)としつつも、尚も生への執着を示す付喪神。

 そんなロボットの身体(からだ)を優しく撫でる健悟。


「俺だって同じだよ。働きたくもないし、死ぬのも怖い。痛いのだって嫌だ。

 でも、生きていく限りは働かなくちゃならないし、いずれは必ず死ぬ。

 君は死に時を間違えただけなんだよ。君は悪くない。」


「死に‥‥時‥‥‥‥そう‥‥か‥‥。」


 健悟の言葉を聞き、ヘッドライトが徐々に薄暗くなるロボット。


 プツン。


 遂にロボット型の付喪神の残糸は切れ、魂は粒子になって消えた。

 同時に人払いの結界も解ける。

 と、そのタイミングで――


 チャラリラッパー、チャラリラッパー、ラッパッパー♪


「真雨の守護霊レベルが5になりました!」


 レベルアップを告げる音声が流れた。

 ゴマダラカミキリが光に包まれ、そこから現れる新道具(アイテム)は――


「なんだこりゃあ!?」


 ピンク色の柄をしたL字型の安全カミソリだった。

 なかなか有効そうな道具(アイテム)が受け取れない真雨は、旧式の機械を父親から受け取った時の某ロボットアニメ(ガンダム)主人公(アムロ・レイ)の気持ちが初めて理解出来たという。



「‥‥まあ、新道具(アイテム)はさておき、一件落着ってとこだな、健悟。」


「どこが一件落着なんだよ、落ちこぼ霊。見ろよこれ!」


 死屍累々(ししるいるい)としているトラック数台とうつ伏せに倒れているロボットの残骸がそこにはあった。


「こんなん、どう説明すりゃあいいんだよーっ!」


 健悟の絶叫が駐車場を駆け抜けていった。

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