鷹端瑞希神療内科【Cパート】
「こんな物で切れる糸など、あってもなくてもどうでもいい『選択糸』だけですね。」
呆れた口調で瑞希がつぶやいた。
「アタシだって、もっと経験値を積めば強力な道具を‥‥。」
「経験値が何だ、俺を踏み台にしやがって!
俺の五十七年を返せーっ!」
健悟が真雨の胸倉を掴み、大きく揺する。
「まあまあ、飯綱さん、落ち着いてください。
守護霊チェンジすればいいじゃないですか。」
今までずっと状況を見守り続けていた山田が健悟の肩を叩いてニッコリ笑い掛ける。
「そ、そうですね‥‥。
あまりに使えないんで守護霊をチェンジしてもらっていいですか。」
健悟は真雨から手を放すと、瑞希に依頼した。
慌てたのは真雨だ。
「ちょっと待て! チェンジされたらアタシはどうなるんだよ!?」
「自然と強制転生ですが、何か?」
「せっかく守護霊の資格まで取ったのに今更‥‥。
しかも強制転生って、確か転生先は‥‥。」
真雨は蒼ざめた顔で目を潤ませる。
「未来永劫、ナメクジです。
どれ程の徳を積もうと転生先はナメクジです。」
瑞希は冷徹に告げた。
「イヤだーっ! 絶対にイヤだーっ!
健悟、今まで一緒にやってきた仲じゃねぇか!
今更チェンジだなんて、そりゃねぇだろうよ、なっ、なっ?」
真雨は泣きながら健悟に縋りつくが――
「ええい、やかましい!
チェンジったらチェンジだ!」
健悟の意志は変わらない。
当然と言えば当然だ、守護霊として機能していないのだから。
「では飯綱さん、先払いで百万円をお支払いください。」
山田がニッコリと請求してきた途端、健悟の顔が引きつった。
「ひゃ、百万‥‥ですか?」
「はい、百万円です。
ああ、税金は掛かりませんから安心してください。
この病院は必要としている人だけしか入れないので税金を納めなくてもいいのです。」
山田が事情を説明すると瑞希が、
「山田さん、初診料と守護霊の呼び出し料金、合わせて二十八万円が抜けていますよ。」
と、冷徹にツッコミを入れる。
「二十八万って、俺の月給分じゃないですか!」
愕然とする健悟。
「お前にゃ『チェンジ』に支払える金、ねぇもんなぁ~。けけけ。」
あざ笑う真雨に殺意の波動が沸き立つ健悟。
「テメエがちゃんと機能してれば俺の人生だってなぁっ!」
バキッ!
健悟は気付くと目の前の守護霊をグーパンで殴っていた。
「ほえぶぁっ! ンゴロンゴロ‥‥!」
情けない声を上げて転がって行く真雨。
「先生、残念ですが、チェンジはナシでお願いします。
まだまだ生きていかなきゃいけませんので‥‥。
――ああ、今日の料金は後で必ず支払います。」
「では、あの守護霊はどうしますか?
元に戻すなら、更に二十六万円追加ですが?」
瑞希はゴミでも見るかのような目で真雨を見下ろした。
「‥‥持ち帰ります。
てか、それしかないでしょう。」
「――そうですか。
言っておきますが、アレが実体化していられるのはこの病院の中だけです。」
「その方が都合がいいですから問題ないですよ。」
「それともう一つ。
あなたにだけは今後もアレの姿が見えて、会話も出来てしまいますので。」
「‥‥まあ、仕方ないですね。
アレと仲良くやっていけるかはわかりませんが、努力はしてみますよ。」
「あんだよ、さっきからアレ呼ばわりしやがって!
アタシには真雨って名前があんだかんなっ!」
立ち上がった真雨がツカツカと健悟に歩み寄る。
「黙れよ、元守護霊っ!」
健悟の言葉にムカッと来た真雨は、
バキッ!
右のストレートで健悟をぶっ飛ばした。
何はともあれ、健悟と真雨の共同生活が始まった。
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