就活はつらいよ【Dパート】
「はっ!? 俺は一体!?」
正気に戻る健悟。
直後、健悟の背中から蝉の羽化《うか》のような形で飛び出してくるマリア。
「お待たせさん、真雨。」
「姐御、さっすが。」
真雨が左手の親指を立ててニッと笑う。
「えっと‥‥真雨、この人は?」
健悟が真顔で尋ねてきた。
「おまっ‥‥見えんのか、姐御の姿が!?」
「ん? ああ。」
「たぶん、私が身体ン中に入った時、縁が繋がったんだろうさね。
私は流しの守護霊、雀落マリア。よろしく。」
長い後ろ髪を襟首から右手でファサッとさせてマリアが自己紹介をした。
「俺は飯綱健悟と言います。
訳あって今は守護霊と分離している状態でして‥‥。」
「挨拶はそこまでだ、健悟。
――姐御、ものはついでだ。この『成れの果て』退治、協力しちゃあくんねぇか?
アタシ一人じゃどうにもなんねぇ。」
「了解、強力はしてやるさね。
――けど、残糸切りはお前さんがやんなさいな。
早いとこレベル二桁に乗せないと、満足な道具が手に入んないからね。」
そう言うとマリアはギターをポロンと一奏でし、
「絡みなさい! 弦一郎!」
と命じた。
するとギターの弦が伸びていき、次々に『成れの果て』を雁字搦めにしていく。
「すげぇ‥‥。」
驚嘆する真雨。
「とっととその虫眼鏡でこいつらの残糸を焼き切ってしまいなさいな。
太陽が傾かないうちに。」
「お、おう。助かったよ、姐御。」
「労としちゃ多くないよ。
だからまあ、お題は四十万円にしといてやるさね。」
「カネ取んのかっ!?」
真雨と健悟がユニゾンした。
「真雨、知ってるかい? 働くと金が手に入るんだ。」
● ● ●
二時間近く掛かって真雨はようやく全ての残糸を焼き切り終えようとしていた。
一方、健悟はというと‥‥
「飯綱さん、もう大丈夫なの?
突然、変な声を上げたりして‥‥。」
ハローワークの職員、氏家に質問攻めに遭っていた。
「ありがとうございます。もう大丈夫です。
ちょっと疲れが溜まっていたので、暑さにやられたんでしょう。」
「病院、行った方がいいんじゃない?」
「明日の面接が終わったら、掛かり付けの神療内科に行ってみます。」
「まあ、心療内科。
‥‥ええ、ええ、それがいいです。お大事に。」
健悟は行き違いがある事をわかっていたが、説明すると余計に心配されそうな気がしたので、そこから先は適当に氏家に合わせた。
プツッ。
最後の一本を焼き切った真雨に対し、レベルアップが告げられた。
いつものように光に包まれメタモルフォーゼしていく虫眼鏡。
「こ、これは‥‥!?」
驚愕を隠せない真雨。
「真雨、レベル二桁まではひたすら忍耐さね。」
「忍耐って言われたって、この道具は使い物になんのか!?」
真雨が悲痛な声を上げるのは無理もない。
新しい道具は一匹のゴマダラカミキリだった。
● ● ●
「まっ、こういう部屋で過ごすのも悪くはないさね。」
マリアは今日の報酬の代わりとして健悟の部屋の無期限宿泊の権利で手を打った。
普段は疲れも睡眠も不要である彼女も、霊との闘いで消耗した時に限っては休息が必要だった。
そうした場合、今までは野宿や他人の車の中で休む事が多かったが、人間の部屋で休めるのはやはり格別なのだろう。例え、それがアラ還・独身男のむさ苦しい部屋であったとしても。
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