就活はつらいよ【Cパート】
「顔と声が合ってねぇんだよ!」
真雨が健悟にツッコミを入れる。
(今のアタシは健悟の身体にゃあ入れねぇ‥‥。
一体どうすりゃ‥‥?)
真雨のこめかみに嫌な汗が流れる。
「お困りみたいだね? 守護霊‥‥いや、元守護霊のお嬢ちゃん。」
どこからともなくクール系の女性ヴォイスが耳に届く。
「どこだ!?」
「私はここさね。」
見上げると、ハローワークの二階の庇の上に立つ髪の長い女性の姿が確認出来た。
逆光でよく見えないが、ハンチング帽にパンタロンルック、おまけに白いギターを抱えていた。
これでコートを着てようものなら『さすらいの太陽』の峰のぞみのコスプレだ。
「何者だよ、色んな意味で!?
――つか、降りて来いっ!」
「訊たければ上って来なさいな。」
「残念なお報せだ。
アタシはコイツと一定以上離れられねぇんだよ!」
バキッ! ビシッ! バシッ!
真雨は峰のぞみモドキと対話しながら、群がってくる『成れの果て』を殴り倒していた。
「仕方ないね。――とうっ!」
峰のぞみモドキは前宙しながら飛び降りた。
「私は流しの守護霊、雀落マリア。
流しと言っても酒場の流しじゃないよ? 台所の流しでもないよ?
フリーランスって意味だからね。」
「守るヤツがいねぇんじゃ守護霊じゃねぇじゃん!」
「チッチッチッチッ、レベルが一定以上あれば、こういう選択も可能なのさね。
――そんな事より、あのおっちゃん、どうにかしたくはないかい?」
「し~ご~と~、め~ん~せ~つ~。」
恍惚な表情で不気味な声を出し、うろつき回る健悟はいつしか周囲の注目を集めていた。
「ノイローゼかな?」
「ああはなりたくないよな‥‥。」
ギャラリーは口々に勝手な事を言っている。
「マリア、頼む!」
真雨は両手を合わせて頼んだ。
が、マリアは遠い目で知らんぷり。
どうやら頼み方がお気に召さなかったようだ。
「マリアさん、お願い!」
頼み直す真雨。
「あー、私、帰っちゃおうかなぁ~。」
「マリアの姐御、頼んます! いよっ、女一匹!」
「姐御、いいねぇ。今度からそれで行こう。
あと、女一匹ってのもなかなか気に入った。」
マリアは手をポンと打って真雨に告げた。
(昭和四十年代センス、知っといてよかったぁ。)
バキッ! ビシッ! バシッ!
真雨は安堵しながらも闘いの手を休めない。
「それじゃあ、早速入らせて頂くよ。」
マリアはそう告げると、健悟の背中から身体の中へとダイブした。
「んんっ?」
どこからともなく聞こえてくるギターの音色に健悟の身体を乗っ取っていた『成れの果て』の地縛霊が首を傾げる。
ポロン、ポロン、ポロン、ポローンポロン、ポローン‥‥ティトティトティト‥‥♪
その音が近付くにつれ、マリアのシルエットが鮮明になっていく。
「ぐげげっ、誰だ、お前はっ!?」
「貴様みたいな輩に名乗る名前はないねぇ。
残糸、断ち切らせて頂くよ。」
そう言うや否や、マリアはギターの仕込み部分を素早く抜く。
と、ほぼ同時に『成れの果て』の地縛霊の残糸は断ち切られ、自分の身に何が起こったのかわからないまま粒子になって消えた。
「う~ん、愉楽❤」
マリアは顔を紅潮させ、恍惚の境地に似た快楽に酔いしれた。
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