就活はつらいよ【Aパート】
この作品は『時代に取り残された』と感じている全ての方々に捧げます。
「――という訳で、今月分の給与については債務整理が付き次第、六十%を上限に――」
担当弁護士による説明が延々と続く。
ついにXデーが訪れた。
株式会社プロップが倒産したのだ。
中国の人件費の高騰、アイドルビジネスの大失敗、映像・CМ部門の低予算化による過度な競争、そして先日の謎の駐車場陥没事件による社用車の全滅。
原因は多々あるが、少なくとも社員、バイトの賃金の高騰だけはない。
まあ、会社に先がなかった事はバイトの健悟の目から見ても明確だったくらいなので、おそらく正社員なら誰もがこの日が来るのを肌で感じていたであろう。
実際、ローカルアイドル初公演後に退社した企画班の藤瓦と、経営状況の具合を知るや否や真っ先に別会社へ移ったという制作デスクの猪村は賢明な判断をしたと言えた。
(昼まで残らされて倒産話を聞かされるとは‥‥。
しかも、今月分の給料は遅れる上に半額ちょっと‥‥。
こっから先、どうやって生きてこう‥‥?)
健悟はうつむいた。
特にこの会社に愛着というようなものはないし、労働に見合った賃金をもらっていた訳でもない。
ただ単に、また就活をしなくてはいけないという絶望感に打ちひしがれていただけだ。
「おい健悟、元々悪縁だったんだから、そう気を落とすな。
それより次の就職口に向けてレッツらゴーだ。」
真雨が慰める。
「(俺、五十七だぞ? 雇うか、普通?)」
健悟は小声で愚痴った。
「まっ、雇わねぇよな、普通。」
「(お前、容赦ねぇなぁ~。)」
間髪入れずに即答した真雨に思わずこぼす健悟。
「弱みなんかを見せる方が悪りぃんだよ、けけけ。」
隣りで笑う元守護霊を見ると、何だか悩むのがバカバカしく思えてくる。
一人称視点では辛い現実でも、斜め上からの視点で見ればこれ程面白いショーはない。
自分の悲劇は他人にとっては喜劇に過ぎないのだ。
「ふっ‥‥。」
そう考えると思わず健悟の口端が少しだけ上がった。
● ● ●
そこから先はネットでの就活に明け暮れた。
「おい健悟、ここは良縁だぞ! すっごく糸は細いけど。」
「‥‥経験不問ってあるけど、経験者優遇ともあるだろ?
こういうのは大抵、経験者が採用されて終わりなんだよ、経験上。
――それより、このプログラマー募集ってのはどうだ? これなら経験者だぞ、俺。」
「ああ、そこはやめといた方がいい。純然たる悪縁だ。」
「じゃあ、ここは?」
「最悪レベル。」
「ここは?」
「縁、ほっそ! 応募した途端に切れそうだ。」
● ● ●
「――で、結局ハローワークかよ? あり得ねー。」
待合コーナーで悪態をつく元守護霊。
「(仕方ねぇじゃねぇか。今月生き延びる為の資金がもうねぇんだ。
‥‥日払いの仕事をやるしか、もう。)」
健悟が言い訳をしていると、
「三百十五番の方、十一番、窓口へ、どうぞ。」
順番が機械音声によって呼ばれ、立ち上がる健悟。
「飯綱健悟さんでお間違えないでしょうか?」
窓口に座る中年のやや太めの女性が問い掛けてくる。
「はい、間違いありません。」
「私、氏家と申します。本日は宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
頭をぺこりと下げる健悟。
「えーと‥‥情報処理二種と大型一種、介護職員初任者研修をお持ちなんですね。
それで、どのような職をご希望でしょうか?」
「――実は、先日バイト先が倒産してしまい、今月のバイト代も遅延している状況なので、出来れば日払いで働けたらと思いまして‥‥。」
「あの、失礼ですが貯金の方は?」
「お恥ずかしい話、ほぼ底をついていまして‥‥。」
「そのご年齢ですと肉体労働は少々厳しいような‥‥?」
「いえ、ローンもあるので、この際贅沢は。」
「‥‥そうですか。
今、急募の日払いの所を打ち出しますんで、ご自宅に戻られてから検討してください。」
そう言うと氏家はキーボードを打ち始めた。
そのたどたどしい打ち方に健悟は苛立ちを覚えつつも黙って待った。
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