アイドルオーラ【Dパート】
「‥‥‥‥。」
失望感満載といった真雨と健悟の顔。
「くっくっくっくっ、ダサ過ぎですわ。」
白蛇が笑い泣きする。
「こうなったらヤケクソだっ!」
真雨は最後の力を振り絞り、残糸を紙やすりで擦り始めた。
「無駄です。とっとと諦めて死になさぁーい。」
「テメェにとって残念なお報せだ。
『あきらめ』の四文字はアタシにはねぇんだよ!」
せめて『諦め』の二文字と言ってほしかったところだ。
「見苦しいですよ、苦し紛れのハッタリは。」
「アタシには『強制転生』が掛かってるんだ!
そう簡単にナメクジになんかになってたまるかってんだ!」
「ひいっ、ナメクジですって!?」
三すくみの関係からかナメクジという響きにビビり、思わず締め付けを忘れる白蛇。
(今だ!)
その隙に乗じ、一気に擦りを加速させる真雨。
そして――
プツッ!
遂に残糸が切れた。
「あぎゃひぃーっ!」
その瞬間、白蛇は断末魔の声を上げて消滅した。
「‥‥ありゃ、今度はレベルアップなし、かよ。」
真雨は手にしていた紙やすりを見つめながら、ため息をついた。
● ● ●
「なっ、何よ、ウソ!? これが私!?」
気絶から目を覚ましたケイは手鏡を見て驚愕の声を上げた。
白蛇が消滅したのと時を同じくしてケイのアイドルオーラもデフォルト値に戻ってしまったのだ。
更に残念な事に、蚊の妖に吸い取られた他の娘のアイドルオーラはわずかたりとも復活しなかった。
さて、そんな初公演の結果だが、スター性ほぼほぼ0行進のローカルアイドルのイベントが成功を収める訳もなく、プロップは多額の負債を抱える事となった。
唯一、百合との契約が不履行となった事で、ケイの寿命が元通りになったのが救いと言えた。守護霊が不在なのは心配だが‥‥。
そして――
「すみませんでした!」
レンタルの2t車をボロボロにした事とアイドルに平手打ちをした事により、健悟は始末書を書かされ社長の荻原に提出した。
(始末書って反省文の事だったのか‥‥。)
五十七歳にして初めて書かされた始末書は、健悟の心に大きくダメージを負わせた。
● ● ●
「けけけ、始末書だって、鬼ダサ。ダサバホマトン。」
深夜、原画の回収の為に武蔵境へ向かう車の中で、助手席の真雨が健悟をせせら笑った。
「ちょっと待て! 2t車はお前が壊したんじゃねぇか!
あの娘を叩いたのだって、誰かが教育しないとだな‥‥。」
「そらまぁ~アタシが健悟の立場でも、あのバホマトン娘にはグーパンかレインメーカーの一発もくれてやったろうけどさ。」
「だろ?」
「でも、五十七で始末書かよ、けけけ。
やっぱ、テメェは鬼ダサだよ。」
「うっせーっ! 俺は無実だぁーっ!」
健悟はハンドルを握りながら叫んだ。
その隣りでは、けけけと真雨が愉快気に笑う。
ムッとした健悟はすかさず逆襲に転じる。
「言っとくけどな、お前の紙やすりも相当鬼ダサだぞ!」
グサッ! ‥‥というような擬音を感じた真雨。
「うっ‥‥それを言うなーっ!
あんな道具、ハズレガチャよりひでぇっ!」
鬼ダサ論争をしながら、二人を乗せた車は五日市街道に入った。
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