セカンドオピニオン【Dパート】
「毎度おなじみの石原昇天の回収業社でございます。
地縛霊、悪霊、動物霊、物の怪はおりませんか?
おりましたら多少に関わらずお声掛けをお願い致します。」
ビル群を突き抜けて回収業社の超巨大な空飛ぶルンバが現れた。
窓から見えるそれは、色が青色である事から、この間、玄武を吸引した業社とは別の業社なのだろう。
街の雑踏を掻き消す程けたたましく鳴り響くアナウンスも、普通の人間には聞こえないものと思われる。
「業社さぁ――ん! ここに悪霊がいまぁ――っす!」
真雨は張り裂けんばかりに声帯を震わせた。
だが、『落ちろ』コールに掻き消され、業社にはその悲痛なSОSは届かなかった。
「真雨、あの鋏は出せるか?」
健悟が真雨に尋ねた。
「ほい、これか?」
真雨はポンと鼻毛切り鋏を手品のように出した。
「俺がなけなしの金で買った小麦粉をあいつらにぶつける。
お前は俺のスマホのバッテリーをその鋏でショートさせてからあいつらに投げつけるんだ。
この異空間で粉塵爆発が起こりゃあ、さすがに業社も気付くだろ!」
「おいおい、そんな奇跡の連荘、繋がると思うか?」
「繋がんなきゃ、俺たちの命が繋がんねぇんだよっ!」
「しゃあない、やってみっかぁ。
――ほれ、最後の切り札を渡しな、健悟。」
健悟は軽くスマートフォンを真雨へパス。
院内は守護霊が実体化出来る特殊な空間だけにスマートフォンが受け取れる。
「おっとと‥‥ナイスキャッチ、アタシ。」
上手い事、捕れて第一関門は通過した。
「よし、次っ! ――くらえ、アリジゴク野郎!」
健悟は小麦粉を袋ごと投げつけた。
「何の真似ですか、人間!?」
中山は鋭い大顎で小麦粉の袋を跳ね除けようとした。
途端、紙製の袋は破け、舞い散った小麦粉が青龍と中山を包み込む。
第二関門突破!
「くうっ、小癪な真似を!」
青龍が悔しがる。
「最後はアタシか! くらえっ!」
鼻毛切り鋏をバッテリーに突き刺すと、たちまちショートする健悟のスマートフォン。
「はわわっ!」
だが、その衝撃に驚き、スマートフォンを落としてしまう真雨。
たちまち最後の切り札は砂に埋もれてしまう。
「何やってんだよ、落ちこぼ霊!」
「だ、だってばさぁ~、ちょっと怖かったんだよっ!」
「しょうがねぇ、もうあとは力づくで登り切るしかねぇ!」
と、言いつつも、五十七歳の体力がエンプティするのに三分も掛からなかった。
「落・ち・ろ! 落・ち・ろ!」
容赦なく二人に砂を浴びせ掛ける青龍と中山。
が――
「ん?」
青龍がショートしたスマートフォンを大顎で掘り当てた。
そして、その次の瞬間。
バウ――ン!
小麦粉は爆音を立てて炎の柱を舞い上げた。
が、それはYouTubeで見られる素人の実験動画程度のスケールだった。
「思ってたよりショボっ!」
思わずツッコミを入れる健悟。
しかし、回収業社に異変を気付かせるには充分だった。
窓から立ち昇る白煙に、妖の匂いがわずかに付いていたからだ。
「毎度おなじみの石原昇天の回収業社でございます。」
方向転換し、病院へと向かってくる超巨大なルンバ。
「せ、先生!?」
「中山さん!」
砂の中に必死に潜って息を潜める青龍と中山であったが、回収のプロは手慣れたものだった。
超巨大なルンバの強力な吸引力は、アリジゴク兄弟が妖術で作った砂を巻き上げて窓を破壊すると、青龍と中山の身体を舞い上がらせる。
「私、先生の事、ずっと前から好きでした‥‥。」
「私もだよ、中山さん‥‥。」
二体の悪霊は抱き合いながら砂ごと超巨大なルンバに吸い込まれ、そして浄化された。
病院だった場所はやがて普通の雑居ビルに変わる。
「まっ、さっきのはアタシの活躍のお陰だな。
まさに起死回生ってヤツ?」
「何が活躍だよ、結果オーライじゃねぇか。」
すると突然、健悟の腹から空腹音が鳴った。
「小麦粉もスマホも失くしちまうとはなぁ‥‥今日は朝からトホホだよ。」
「ったく、タダより高けぇモノはねぇな、けけけ。」
真雨は超巨大なルンバから排出されたトイレットペーパーを両手に持ちながら笑った。
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