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あまりに使えないんで守護霊をチェンジしてもらっていいですか。  作者: 鳩野高嗣
第四章 セカンドオピニオン
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セカンドオピニオン【Dパート】

「毎度おなじみの石原(いしはら)昇天(しょうてん)の回収業社でございます。

 地縛霊、悪霊、動物霊、物の怪はおりませんか?

 おりましたら多少に関わらずお声掛けをお願い致します。」


 ビル群を突き抜けて回収業社の超巨大な空飛ぶルンバが現れた。

 窓から見えるそれは、色が青色である事から、この間、玄武(げんぶ)を吸引した業社とは別の業社なのだろう。

 街の雑踏を掻き消す程けたたましく鳴り響くアナウンスも、普通の人間には聞こえないものと思われる。


「業社さぁ――ん! ここに悪霊がいまぁ――っす!」


 真雨(まさめ)は張り裂けんばかりに声帯を震わせた。

 だが、『落ちろ』コールに掻き消され、業社にはその悲痛なSОSは届かなかった。


「真雨、あの(はさみ)は出せるか?」


 健悟(けんご)が真雨に(たず)ねた。


「ほい、これか?」


 真雨はポンと鼻毛切り鋏を手品のように出した。


「俺がなけなしの金で買った小麦粉をあいつらにぶつける。

 お前は俺のスマホのバッテリーをその鋏でショートさせてからあいつらに投げつけるんだ。

 この異空間で粉塵(ふんじん)爆発が起こりゃあ、さすがに業社も気付くだろ!」


「おいおい、そんな奇跡の連荘(レンチャン)(つな)がると思うか?」


「繋がんなきゃ、俺たちの命が繋がんねぇんだよっ!」


「しゃあない、やってみっかぁ。

 ――ほれ、最後の切り札を渡しな、健悟。」


 健悟は軽くスマートフォンを真雨へパス。

 院内は守護霊が実体化出来る特殊な空間だけにスマートフォンが受け取れる。


「おっとと‥‥ナイスキャッチ、アタシ。」


 上手い事、捕れて第一関門は通過した。


「よし、次っ! ――くらえ、アリジゴク野郎!」


 健悟は小麦粉を袋ごと投げつけた。


「何の真似ですか、人間!?」


 中山は鋭い大顎(おおあご)で小麦粉の袋を跳ね除けようとした。

 途端、紙製の袋は破け、舞い散った小麦粉が青龍(せいりゅう)と中山を包み込む。

 第二関門突破!


「くうっ、小癪(こしゃく)な真似を!」


 青龍が悔しがる。


「最後はアタシか! くらえっ!」


 鼻毛切り鋏をバッテリーに突き刺すと、たちまちショートする健悟のスマートフォン。


「はわわっ!」


 だが、その衝撃に驚き、スマートフォンを落としてしまう真雨。

 たちまち最後の切り札は砂に埋もれてしまう。


「何やってんだよ、落ちこぼ霊!」


「だ、だってばさぁ~、ちょっと怖かったんだよっ!」


「しょうがねぇ、もうあとは力づくで登り切るしかねぇ!」


 と、言いつつも、五十七歳の体力がエンプティするのに三分も掛からなかった。


「落・ち・ろ! 落・ち・ろ!」


 容赦なく二人に砂を浴びせ掛ける青龍と中山。

 が――


「ん?」


 青龍がショートしたスマートフォンを大顎(おおあご)で掘り当てた。

 そして、その次の瞬間。


 バウ――ン!


 小麦粉は爆音を立てて炎の柱を舞い上げた。

 が、それはYouTube(ユーチューブ)で見られる素人(しろうと)の実験動画程度のスケールだった。


「思ってたよりショボっ!」


 思わずツッコミを入れる健悟。

 しかし、回収業社に異変を気付かせるには充分だった。

 窓から立ち昇る白煙に、(あやかし)の匂いがわずかに付いていたからだ。


「毎度おなじみの石原(いしはら)昇天(しょうてん)の回収業社でございます。」


 方向転換し、病院へと向かってくる超巨大なルンバ。


「せ、先生!?」


「中山さん!」


 砂の中に必死に(もぐ)って息を(ひそ)める青龍と中山であったが、回収のプロは手慣れたものだった。

 超巨大なルンバの強力な吸引力は、アリジゴク兄弟が妖術で作った砂を巻き上げて窓を破壊すると、青龍と中山の身体(からだ)を舞い上がらせる。


「私、先生の事、ずっと前から好きでした‥‥。」


「私もだよ、中山さん‥‥。」


 二体の悪霊は抱き合いながら砂ごと超巨大なルンバに吸い込まれ、そして浄化された。



 病院だった場所はやがて普通の雑居ビルに変わる。


「まっ、さっきのはアタシの活躍のお陰だな。

 まさに起死回生ってヤツ?」


「何が活躍だよ、結果オーライじゃねぇか。」


 すると突然、健悟の腹から空腹音が鳴った。


「小麦粉もスマホも失くしちまうとはなぁ‥‥今日は朝からトホホだよ。」


「ったく、タダより()けぇモノはねぇな、けけけ。」


 真雨は超巨大なルンバから排出されたトイレットペーパーを両手に持ちながら笑った。

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