セカンドオピニオン【Cパート】
「はじめまして。
今日はどうされましたか?」
診察室にいたのは今朝、電車の中で会った六車だった。
「あれ、今日はもう帰られたのでは‥‥?
確か、七時上がりとかで東長崎で‥‥。」
健悟は逆に質問した。
「ああ、それは私の兄ですよ。
――私は六車青龍、三つ子の末弟です。」
「三つ子ですか、どうりで。」
青龍は朱雀と瓜二つだった。
「ああ、すみません、質問を質問で返す形になってしまいまして。
今日はこの守護霊を――」
「健悟っ!」
突然、真雨が言葉を遮った。
「何だよ、急に?」
「――こいつ、人間じゃねぇっ!」
「なに言ってんだよ、お前は?
――どうもすみません、不躾な元守護霊で‥‥」
と、そこまで言って言葉が澱む。
青龍の頭は三対の大顎を持ったアリジゴクの姿に徐々に変貌していった。
「おっといけない、私とした事が食欲に負けてしまいましたか。」
「お、俺を食う気か!?」
「正確には魂を、です。
あなたのような不運を背負いこんで六十年近くも生きてきた人間の魂は珍味中の珍味なのです。
よく言うでしょう、『人の不幸は蜜の味』と。
それが、より凝縮されているのです。たまりませんよ、これは。」
直後、舌なめずりのような嫌な擬音が健悟の鼓膜を直撃した。
「テメェのような悪霊に健悟を殺させはしねぇ!
今、死なれっとアタシの都合が悪りぃもんでね!」
「殺しはしませんよ、魂だけ食べるのです。」
「同じだ、同じ!」
「ついでに分離した守護霊はお酒に漬けましょう。」
アリジゴクの頭に変貌した受付の中山が提案してきた。
「それもまた極上の味ですね。
中山さん、あなた通ですね。」
「えへへ、それ程でもぉ~。」
「おいおい、冗談じゃねぇ。
――真雨、逃げっぞ!」
健悟は脱兎の如く診察室を飛び出した。
「そうはさせませんよ!」
青龍がそう叫ぶと病院全体の床が漏斗型の砂に変わった。
「くそっ、まさにアリジゴクかよ!?」
もがいても、もがいても下へとずり落ちていく健悟。
「働きアリにはお似合いの最期ってか。」
真雨が洒落にならない事を抜かす。
「おい真雨、お前、守護霊なら飛べんだろ?
俺を抱えて抜け出してくれ!」
「残念なお報せだけどよ、アタシは『元』守護霊。
今は宙に浮かべねぇんだよ。」
「つ、使えねぇーっ!」
「あんだと~っ!?」
必死に抵抗する二人に業を煮やす青龍と中山。
「落・ち・ろ! 落・ち・ろ!」
青龍と中山はユニゾンで落ちろコールをしながら砂を下から投げ掛けた。
これにより下への滑りが加速する健悟と真雨。
「くっそー、ここまでか!」
健悟が諦め掛けた時、アレが現れた。
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