鷹端瑞希神療内科【Aパート】
この作品は『時代に取り残された』と感じている全ての方々に捧げます。
バキッ!
健悟は気付くと目の前の守護霊をグーパンで殴っていた。
● ● ●
事の発端は三時間前まで遡る。
「あー、キミ、明日から来なくていいから。」
派遣先の社長から急なクビを宣告されたプログラマー、飯綱健悟は気が遠くなった。
「あ、あの、急にそんな事を言われても‥‥。
理由‥‥そう、理由を聞かせてもらえませんか?
でないと納得出来ません!」
健悟は必死に食い下がった。
当たり前だ、年齢は五十七、峠はとっくに下り坂のプログラマ―。
面接以前に断られ続け、やっと辿り着いた派遣先。
はい、そうですか、では次の仕事に、という態にはいかない。
「うーん‥‥じゃあ言うけど、ウチの求めているレベルじゃないんだよね。
何て言うか、四半世紀くらい前のものなんだよ、キミの技術力は。」
「――でも、明日って急過ぎませんか?」
「これは一か月前宣告だから来月分の給料は払うよ。
だから、引継ぎ済ませたら荷物をまとめて、もう上がってくれないかな。」
健悟はぐぅの音も出ない。
「‥‥わかりました。
お世話になりました。」
● ● ●
一時間前、健悟はアパートのある駅まで戻って来た。
しかし、素直に自室に戻る気にはなれず、足の赴くまま慣れ親しんだ街を散策していた。
小さな児童公園。
(このブランコに乗ったら負けな気がする‥‥。)
だが、負け犬オーラを引き付ける何かがそのブランコにはあった。
(乗ってしまった‥‥。)
漕ぐ訳でもなく、ただブランコに腰掛けて項垂れる健悟。
(あ~、俺、これからどうすんだよ‥‥。
いっそラクにでもなるかな‥‥。)
自身の気が病んでいるように思えた健悟は、ふと顔を上げる。
すると、彼の水晶体を通して網膜にある看板が焼き付いた。
「心療内科、か‥‥。あんなとこにあったっけかな?」
ブランコから下りた健悟の足は、何の気なしに看板へと向かって行った。
● ● ●
(やけに空いているけど、今日、やっているのか?)
病院に入るなり不安に駆られる健悟。
「初めて受診される方でしょうか?」
受付にいた小柄で栗色のショートボブの女性スタッフが声を掛けてきた。
小柄‥‥?
確かにそうなのだが、健悟には小学生高学年くらいの女子に見えた。
「ええ、まあ、はい‥‥。」
「では問診票に記述して待っていてください。」
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それからどれくらい待った事だろう。
「では飯綱さん、診療室へどうぞ。ご案内します。」
受付の小柄な女性が健悟に声を掛けた。
胸の名札には山田とある。
「あ、はい。」
健悟は立ち上がると黙って山田の後をついて行った。
診療室のドアを三回ノックしてから開ける山田。
「どうぞ、こちらへ。」
医師と思われる白衣を着た深緑色のロングヘアをした若く美しい女性がクールな声を発した。
「はい。」
健悟がパイプ椅子に座るや否や女医は、
「初めまして、私がこの病院の院長、鷹端瑞希です。
よろしく。」
と挨拶をした。
「あなたが院長先生、ですか!?」
「ええ、おかしいですか?」
「いえいえ、そんな‥‥。」
健悟は明らかに若過ぎると言いたかったが、そこは忖度の範疇だった。
そんな健悟を尻目に問診票をざっと目を通す瑞希。
「結論から言いましょう。
――飯綱さん、あなた、守護霊を変えなさい。」
瑞希は真顔で言い放った。
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