スケバンヒーローにヨロシクっ!
「鬼木燈子だ、覚えときな」
私は言って、鴇崎高校のボスから手を離した。これで私はついに、鴇崎市最強の女番長になった。東西南北、全校を潰した私に敵う相手は、今日この時をもっていなくなった。
だが、満たされない。私の心はまだ飢えていた。
どれだけ暴れても、スケバンと恐れられても、私の飢えは満たされず、誰もこの苦しみを理解してくれる者はいなかった。
スケバンらしく髪は金に染まり、顔つきも厳つくなった。それなのに、私は満足できないでいる。
私は一体、何なのだろう。分からない。そう自問自答を繰り返す毎日に、私は飽きていた。
「はぁ、退屈」
以来、この学校は私の城になった。先公もクラスの野郎も、誰もが私を崇め恐れた。まさに皇帝のような扱いをされた。そのせいで、余計に退屈な生活が始まった。
「あ、姉貴!」
「ひっ……」
このように、敵が消えた。誰も私に敵わないと知って、元ボスまでもが姉貴と呼んで恐れている。若しくは、恐れたフリをしているのかもしれない。
だが結果は変わらない。どんな卑怯な手を使われようと、私に勝てる奴はきっとこの街には、もう居ない。
そう思っていた。今日までは。
「お前が鬼木燈子だな?」
退屈していた私の前に、燃えるような赤髪の男が現れた。皇帝に対し何たる無礼を、周りはそんな目でコイツを見ていた。
しかし私は違った。微かだが、心が躍った。この命知らずな感じ、虫唾の走る暑苦しさ、飽きつつあった私は何か、コイツから楽しそうな気を感じた。
「いかにも私がそうだが、アンタ何者だ?」
「俺は赤城累、正義の味方だ!」
「正義だぁ? で、その正義サマが何の用?」
「ああ! お前をスカウトしに来た!」
赤城、奴はそう名乗りながら私の手を握ってきた。冗談か何かかと一瞬疑ったが、奴の目は本気の目をしていた。そう、冗談抜きにスカウトしにきたのだ。
それに気付くと、思わず笑いが込み上げてきた。
「アンタ、マジで言ってんの?」
「ああ。アンタ強いんだろ? だから、スカウトしに来た!」
「スカウトって、部活なんかやらねぇよ」
「部活じゃない! 世界を救うヒーローだっ!」
奴の言葉に、クラス中がしんと静まり返った。そして数秒の沈黙の後、笑いの渦が巻き起こった。私も、つい吹き出した。
そりゃあだって、いきなりヒーローとしてスカウトだぞ? そんなことをいきなり言われて、驚かない方が難しい。
だが、見ているうちに少し気になった。何より面白そう、かつ本気の姿が気に入った。
「お前、ちょっと来い」
誰にも聞かれないよう、私たちは屋上に移動した。と言うのも変な話、赤城がそこを選んだ。
「実は俺、ヒーローやってんのよ」
「うん。知ってる」
「何だって⁉︎ アンタ、まさかエスパーか?」
「馬鹿言うな。自分から公表してるくせに」
話を聞くまでもなく、コイツは相当抜けていた。私の一番嫌いなタイプだ。
しかし彼はそれでも私が知らないという体で話を続け、おもちゃのような腕輪に手を翳した。
声は聞き取れなかったが、変身の掛け声だったのだろう。叫んだ瞬間、奴の体が炎に包まれた。そして、炎が吹き消されると同時に、中から真っ赤なスーツを身に纏ったスーパーヒーローが現れた。顔は炎を模したシールド付きのヘルメット、体は全身タイツのようなスーツ。まさに絵に描いたようなヒーローだった。
「おぉ、すごいな赤城」
どう答えるべきか分からず、私はとりあえず驚いた。すると赤城は満足そうに頭を掻いた。
そして、その姿のままスカウトについてのことを話し始めた。
簡潔に言うと、赤城は怪物から世界を守るヒーローに選ばれたが、まだ一人だけ。だから最強の仲間を探し求め、最強と恐れられるこの私を第二の戦士としてスカウトしにきた。と言うことらしい。
「な、な。やってくれるだろ?」
「やだね、めんどくさい」
確かに面白い話だった。しかし、どうにも戦隊ヒーローというのが私にはウケなかった。
今まで一人で戦ってきた分、私から見たチームヒーローというのは卑怯な気がしてならないのだ。
それに、仮に私がヒーローになったとして、ロングスカートが強制的に縮められるのには抵抗があった。グレても私は女、流石に恥ずかしいものの一つくらいある。
だが、どれだけ断っても赤城はしつこく言ってくる。
「頼む! この通り!」
「やだ」
「お願いだ!」
「だからやだ」
「一生のお願い! な、いいだろ?」
言っても引かないな、コイツ。諦めた私は、ため息を吐いて赤城の一生のお願いを聞くことにした。
ただし、条件付きで。
「おい、姉貴が赤城と戦うらしいぞ!」
「マジかよ! 早く行こうぜ!」
私が出した条件。それは、赤城と私のタイマン勝負。これに赤城が勝てば、ヒーローの仲間入りをしてやるというものだ。
当然スーツはなしの生身対決だが、赤城は自信満々だった。
グラウンドは野次馬で群がり、自然とリングができていた。
「いいか、手加減はナシだからな」
「ああ! 俺も、ドンといかせて貰うぜ!」
こうして、ゴングが鳴り響いた。それと同時に互いにぶつかり合った。
やはりヒーロー、戦い方が上手い。私の攻めを翻弄しながら、確実に一発、また一発と打ち込んでいく。相手も手加減なしのようだ。
つまらなくて死にそうだった私は、自然と燃えていた。
久々に対峙した強敵、それがこんなヒーロー野郎とは思わなかったが、私は全盛期以上の勢いで応戦していた。
華麗なアッパーカット、ジャブ、ブロー。そしてラリアットも。ボクシングなのかプロレスなのか分からない。これだ、これが喧嘩だ!
しかしそれを邪魔するように、第一ラウンド終了のゴングが鳴った。
「いいじゃんか! 赤城、相当やるねぇ!」
「アンタこそ、俺の思った通りの強さだ!」
お互い言いながら休憩し、10秒もしないうちに第二ラウンドに入った。
十分な休憩ができず互いに消耗している状態だったが、私も赤城も本気でぶつかり合った。
隙を見てパンチ、隙を見てアッパー、そして怯んだところにボディプレス!
まさにはちゃめちゃな格闘技。野次馬も白熱して騒いでいた。
だがしかし、突然その歓声は絹を裂くような悲鳴に変わった。
「な、何だ?」
『姉貴、いいや鬼木燈子! 今日がお前の王朝時代終焉の時だ』
禍々しい声と共に、鈍い音が聞こえてくる。そして、人混みを殴りながら現れたのは、元ボス、もとい杉浦だった。
チャラチャラとしたツンツン頭が特徴的な、私の前の皇帝。
「杉浦、邪魔すんな!」
「そうだそうだ! 俺たちは今――」
『うるせぇ! この力を得た今、お前など赤子も同然!』
すると、杉浦の体は黒い煙に包まれた。そして出てきたのは、杉浦とは似ても似つかない狛犬を模した怪人だった。
手には鬼の棍棒のように変形したバットを担ぎ、止めに入った先公を殴り倒した。それを見た野次馬達は、恐れ慄き我先にと逃げていく。
「とうとう悪魔に魂を売ったか! 杉浦!」
『なんとでも言え! 俺はお前に受けた屈辱を晴らすためなら、手段を選ばない!』
邪魔に入られたことに苛立った私は、ただの杉浦だと思い殴りかかった。しかし杉浦の体は硬く、私の拳から痛々し音が聞こえてきた。
「がぁっ!」
「鬼木! 仕方ない、怪人だってんなら! 《チェンジ・フレイムエレメント》!」
続けて変身した赤城が杉浦に突撃した。しかし、消耗していた赤城は棍棒に殴られ、呆気なく飛ばされてしまった。
そして、邪魔者がいなくなったことをいいことに、杉浦は私を棍棒で殴った。
頭が真っ白になり、一瞬死後の世界が見えた。記憶も、一瞬全部消えた気がした。
そして、頭から流れ出す血の音が聞こえてくる。
(もしかして私、死ぬのかな)
一瞬そんなことを考えた。そして見上げると、第二撃を与えようとする杉浦がいる。
「させるかぁぁぁ‼︎」
しかしその時、赤城が私を庇って背中に棍棒を受けた。
「赤城ィィィ!」
『雑魚が。ヒーローごっこをしているからこうなるというのに』
「おい、赤城! 赤城!」
「……にげろ」
許せなかった。死ぬかもしれない一撃を私のために食らった赤城を馬鹿にしたコイツが、どうにも許せなかった。
その時、私の中で恨みに似た念が集積した。そして、その念が私を立ち上がらせた。
「うらぁぁぁ‼︎」
気付けば、私は殴っていた。人間じゃなくなった杉浦を何度も、何度も殴った。拳が潰れるような音がするが、気にせず殴った。
だが限界はすぐに来た。腰を殴られ、一瞬で窮地に立たされた。
「くそっ! くそぉっ!」
悔しくて、自分を呪いたくなった。不甲斐なくて不甲斐なくて、もう言葉すら見つからず叫ぶことしかできなくなっていた。
しかしそんな時だった。私は打開策を見つけた。
「赤城、契約成立だ」
「?」
「アンタの仲間、なってやる! だからその、腕輪をよこせ!」
すると、さっきまでへばっていた赤城が嘘のように立ち上がり、私に腕輪を付けた。
その瞬間、瀕死状態だった私の体力が見る見るうちに回復した。そして自然と、変身の仕方が頭に入ってきた。
「行くぜ! 《チェンジ・カオスエレメント》!」
叫びながら腕輪に手を翳すと、闇が私を包み込んだ。しかし、それはただの闇じゃなかった。希望の光を強調する、正しき道の闇だった。
そして、私の体を黒いスーツが身を包むと、頭をヘルメットが覆った。そして顔には、三日月のような形のシールドが形成された。
『なっ! 変身しただと⁉︎』
「お陰様で、吹っ切れたぜ! さあ、お仕置きの時間だっ! ほら赤城!」
「ああ! 行くぞ!」
私たちは、反撃を開始した。お互い息のあった連携をしながら、杉浦を押した。スーツのお陰で痛みも和らぎ、手も足も出させないほどの猛攻で攻めた。
杉浦は対抗して棍棒を振るも、変身した私には通用しない。
『何だと⁉︎ 一体何が起きていると言うんだ!』
「言っただろ、吹っ切れたってさ」
「よし、トドメと行こうぜ、ブラック!」
色で呼ばれるのは何だか気が引けるが、まあいい。私たちは同時に腕輪に手を翳し、必殺技の構えをした。
『エレメンタルバースト!』
(そうだ、これは卑怯じゃない。互いに力を補いながら戦う。それが、チームプレイなんだ!)
すると、拳に力が湧き上がってきた。そして、両側から大きく振りかぶって――
「「どらぁぁぁ‼︎」」
この一発で、私たちは杉浦に勝った。
「……はぁ、はぁ。やったな赤城」
「アンタこそ、やっぱり俺の目に狂いはなかったよ」
放課後になり、杉浦も病院に搬送された後も私たちはグラウンドにいた。疲れて休んでいるだけだ。だが、とても刺激的で楽しい気分だ。
「なあ、この後飯に行かないか?」
「いいね。それじゃあ俺の行きつけの――」
「「うどん若大将の店とか」」
偶然ハモった。そのせいで一瞬静まり返るが、すぐに笑いが込み上げた。
まさか同じ店が出てくるとは思わなかった。だが、何だかタイマンのお陰でコイツと距離が近づいた気がする。
「今後とも頼むぜ、赤城」
「お互いに頑張ろうな、鬼木」
こうして、私と赤城は握手を交わし、正式にヒーローになった。
しかし、これはまだ序章に過ぎない。
この物語は私、いや私達が力を合わせて世界を守る、奇妙で刺激的な激闘と友情の物語。その始まりだ。
今作を執筆するにあたって
どうも、スタバの地縛霊です。お待たせしました、武者修行の成果第7弾、いかがだったでしょうか。もう半年ぶりですね。本当に、申し訳ない。
少々長編執筆などでやんややんやと慌ただしい生活をしており、なかなか連載も手付かずで気付けばもう五ヶ月更新止まり(キャー)。未だにやりたい事、書きたいことが多すぎて時間と労力が物理的に釣り合わずとても腹が立つ始末。こういう時こそ、カフェイン様のお力を使う時ッ! そして同時に、YouTubeを消して覚悟を決めようぜッ!
と、そんな言い訳は置いておいて。元ネタ解説なんかやっていきましょう。
まず、今作を執筆した経緯。これは単純に、小説で特撮系のジャンルに挑戦してみたいなぁ、と思ったからです。まあ実際仮面ライダーの小説とかありますし私もアクションシーン等では特撮を参考にしておりますが、「そういえば戦隊モノって取り扱ったことないよな」と思い、そこからインスピレーションを受けて書き上げました。
次にキャラクターの元ネタ。と言うわけでまず最初、スケバンの鬼木の姉さんですが、こちらはコピー記読者の方にはわかって欲しい。そう、オニキスです。というのも、強者を求めている不良という設定にする上で「オニキス=最強狩りの死神」と呼ばれている所から、彼の名前をそれっぽく改変してみました。(後、外見が美形かつ髪型など女の子らしい所もあることから選びました)
そして真っ赤なアイツ、赤城ィ! 彼はコレといった元ネタはないですが、大衆的に見た「戦隊レッド」のイメージを完全再現してみました。リーダーで一直線、それでいてどこかバカっぽい。所謂ルフィ的な王道キャラクターッ! 名前も「まあレッドだし」ということで赤城になりました。我ながらテキトーだなオイ(汗)
ということで最後。今作の世界観ですが、こちらは二、三十年ほど前の不良漫画や「ハイスクールヒーロー」などをモチーフに作り上げました。後は、前作「うどん戦争」の世界観がなんか使い易かったので無理やり地続きにしました。でもこういう関係なさそうな世界が一つだった! って裏設定いいよね!
(ここで鍵宮コソコソ噂話っ! 実は鍵宮作品って、時代や国境、異世界間の隔てはあるものの、基本的に全世界繋がっているんだ! でも現代バトル系は整合性とか面倒って理由で、何らかの理由で歴史が消えた、若しくはパラレルワールド設定で戦わない歴史もある、ってしてるみたい!)
ということで、次回はヒミツが巻き起こすドタバタコメディ! お楽しみにッ!