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CYCLONE/JOKER  作者: 独楽犬
11/14

Ships don't kill people, people kill people.

 ブリッジも地獄絵図と化していた。一応は防弾ガラスが使われていたが、カラシニコフによる至近距離からの連射には耐えられなかったらしく中と外とを隔てるものは無くなっていた。ヒナタがMP-7を、プラムニーがガバメントを、それぞれ砕かれたガラスの向こうに見える“敵”に向けて撃っていた。

 操舵手は舵輪の後ろに屈んで隠れながら操艦し、通訳は床に伏せて泣き叫んでいる。

「このままでは持ちませんよ」

 航海長が涙目になりながら訴えた。

「確かに。埒があかない」

 マガジンを交換しながらヒナタが答える。援軍が到着するまで膠着状態を続けるのも1つの手であるが、今のままでは甲板に居る全員が死ぬか集中治療室送りになるだろう。

「よし。後部に火力を集中して、敵の後ろへと抜けよう」

 ヒナタは立ち上がって、またMP-7を乱射した。

「37ミリ砲を潰すんだ。それから後方に逃げる。あれだけ叩いたんだ。離れていくのに自分から向かってはこないだろう」



 ヒナタの指示は艦内無線を使ってすぐに全員に知らされた。それは、後部機関銃座で不審船に向けて25ミリ機関砲を乱射していた水兵が頭から血飛沫を上げて倒れたのとほぼ同時であった。

 近くにいたハトラーが水兵のシャツの袖を掴んで引き寄せた。それから周りの皆に首を振って見せた。

「後部砲手がやられた!」

 誰かが艦内無線機に向かって叫んでいる。

<よし。前部銃座の砲手を送る!>

 それを傍受して聞いていたオベロンが海兵隊の無線網の発信ボタンを押した。

「援護射撃用意!」

 前部銃座から砲手が駆けてくる。甲板構造物などに使って敵の火線から身を隠しているが、身を晒さなくてはならない場所があった。

「用意!」

 オベロンの声とともに残る海兵隊員たちは銃を握る手に力を込めた。

「援護射撃!」

 海兵隊員たちは一斉に物陰から姿を晒し、不審船の乗員に対して一斉射撃を浴びせた。その背後を砲手が駆け抜ける。

 命からがら後部銃座に辿り着いた砲手は防盾の影に身を隠しつつ準備をした。武器を持った海兵隊と水兵が次々と集まり、M2重機とグレネードの銃口が不審船後部に向けられる。



 艦橋にすぐに“準備完了”の報告が伝わった。

「よし。取舵一杯!」

 操舵手が舵輪をまわして船首が左へと向き不審船から離れていく。船体が進攻方向に対して斜めの向きになったので、その抵抗により速力が一気に下がり、その横を全速のままの不審船がすり抜けていく。



「目標、後部37ミリ砲!撃ち方始め!」

 オベロンの叫び声とともにホワールウィンドに残った火力の全てが不審船後部甲板に叩き込まれる。ライフルが、機関銃が、M2重機関銃が、25ミリ機関砲が、40ミリグレネードが、SMAWが、ホワールウィンドに残されたありったけの火力が不審船後部甲板で炸裂する。



 空中からもホワールウィンドの離脱を援護すべくシーホークが銃撃を加えていた。危険を冒して接近し、タリーが不審船の甲板に機関銃を浴びせている。空中から攻撃から不審船の船員は逃れる術がなく、おもしろいように倒れていった。

 そのとき、不審船の後部甲板で大爆発が起こった。タリーは閃光と衝撃から身を庇いながら、37ミリ機関砲が10メートルほど上まで飛んで、それから海に落下するのを見た。どうやら何かが爆発して銃座を吹き飛ばしたようだ。

「よっしゃあ!悪党をやっつけたぞ!」

 タリーは操縦席のオリスカニーとレスリーにガッツポーズを見せた。

「これでホワールウィンドも…」

 言い終わらないうちにタリーは何者かに突き飛ばされたかのように倒れて、言葉を遮られた。

「機付長!」

 レスリーが叫んだが、タリーは反応しない。

「俺が操縦する。タリーを!」

 オリスカニーが命じると、レスリーはベルトを外してキャビンに駆け込み、動かない機付長に抱きついた。見ると胸からドクドクと血が流れている。レスリーは強く手を当てて止血を試みるが停まる気配がない。

「ダメだ!血が止まらない!」

 レスリーの泣き叫ぶ声を聞いてオリスカニーはこれ以上戦場には留まれないと判断した。

「グレイレディ、こちらセプター6。機付長が撃たれた。退避する」



 ホワールウィンドの甲板では誰も離れていくヘリコプターなど気にも留めていなかった。37ミリ砲が吹き飛んだこともみんな知っていたが、それで銃撃が休まる様子も無かった。最大速力のままの不審船と減速しているホワールウィンドの距離はどんどん開き、不審船もこれ以上はホワールウィンドに手を出そうとはしなかったが、海兵隊員と水兵は不審船上の動く物体にはひたすら銃弾を撃ちこんだ。

「撃ち方止め!撃ち方止め!」

 オベロンがそう叫んだのは、不審船がホワールウィンドからだいぶ離れて、全ての火器の射程外に出た時であった。逃走を続ける不審船の上では炎が上がり、黒煙が上空まで伸びていた。

 ホワールウィンドは艦橋の上で不審船が離れていくのを見つめていた。後部甲板の37ミリ砲が吹き飛んでからは、相手の姿を捉えることはできなかった。



 ヒナタが離れていく不審船を見て、床に倒れこんだ。

「艇長!大丈夫ですか!」

 周りの将兵がヒナタを取り囲んだ。プラムニーが手を差し出すと、ヒナタはその手を握った。

「大丈夫。腰が抜けた」

 そこへヒナタを囲む輪を割って、通信士が入ってきた。

「艇長。キャンベラの司令部から通信です。クイーン・オブ・ザ・ウエストが目標を追尾しているようです。それから何か援助が必要か尋ねてきています」

「負傷者搬送のためのヘリコプターを要請して」



 甲板には薬莢と血溜まりと静寂が残っていた。海兵隊と水兵はしばらく呆然としていてなにもできなかった。それからオベロンの指示で負傷者の収容と後片付けが始まった。

 ヒューイットは甲板に放置された武器を回収してまわった。持ち主の行方は考えないことにした。そのとき、後部25ミリ銃座の台にもたれかかるように甲板に座るハトラー上等兵とその前で立ち尽くすラムジー二等軍曹の姿を見つけた。

「大丈夫か?凄い戦いだったな」

 声をかけたが2人とも反応しなかった。

「大丈夫か?」

 ヒューイットがそう言いながら、ハトラーの肩に触れると彼はそのまま倒れてしまった。そして額の大きな銃創から血が流れ、甲板を赤く染めた。

「俺がついていながら…」

 相変わらず肩の傷口を手で押さえているラムジーがようやく口を開いた。



 この日の戦闘でホワールウィンドでは8人の死者と7人の負傷者が出た。さらにヘリコプター、セプター6の機付長ボブ・タリーは揚陸艦キャンベラの医務室に収容され、そこで死亡が確認された。

 キャンベラから派遣されたヘリコプターに負傷者のうち重傷の3人が収容され、そのままキャンベラまで運ばれた。そしてホワールウィンドは残った乗員と8つの遺体とともにハイフォンへの帰途についた。

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