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CYCLONE/JOKER  作者: 独楽犬
10/14

Meeting Engagement

<グレイレディ、こちらセプター6。目標は船首に57ミリ砲を装備している!>

<グレイレディ、エヴァ7。こちらでも確認した>

 57ミリ連装機関砲の銃口がホワールウィンドに向けられたのは航空機からの報告とほぼ同時であった。

「回避!」

 操舵手が舵を一気に回して、舵を動かした。小型船のホワールウィンドは舵の反応も上々で素早く針路を変える。すると、つい先ほどまでホワールウィンドが航行していたあたりに水柱が立った。相手が57ミリ機関砲を撃ってきたのだ。

「退避しましょう!」

 航海長が進言したが、ヒナタは首を横に振った。

「ダメだ。相手は57ミリだぞ!撃ち負ける。一旦、57ミリの死角に入り込むんだ!」

 それは即ち不審船のすぐ横に飛び込むということを意味する。そうすれば船体そのものが邪魔になった57ミリ砲をホワールウィンドに撃ちこむことはできないが、船員たちが持つ小火器を浴びせることはできる。

「しかし…」

 航海長も、操舵手も命令の実行を躊躇していた。

「いいから、ヤツのすぐ横につけろ!」

 ヒナタが命じると同時に、ホワールウィンドの前を横切るように次々と水柱が立ち、雨が降ったかのように水滴が艦橋のガラスに叩きつけられる。ホワールウィンドは標的になっているのだ。それを目の前にして操舵手はいよいよ覚悟を決めた。

 ホワールウィンドの船首が不審船の方を向き、一気に距離を縮める。相手の砲手は、まさか接近してくるとは思わず明後日の方向に銃撃を行なっていた。

「甲板の全員に告ぐ。敵の水兵どもとの銃撃戦に備えよ!」

 スピーカーを通じて乗組員に訴えるヒナタの手にはMP-7短機関銃が握られていた。



 どんどん近づいてくる不審船の船体に甲板上の水兵、海兵隊の緊張は高まっていた。不審船の甲板には小火器を持った男達が続々と集まっている。

「覚悟を決めろ!」

 オベロンがショットガンを片手に、それぞれの武器を構えて甲板構造物の隠れる水兵と海兵に発破をかけた。

 カラシニコフの銃声が響き、ホワールウィンドの甲板に火花が散った。敵の銃撃が始まったのだ。

「撃ち返せ!」

 シンプソンが叫ぶのと同時に水兵と海兵は手にする重火器の引き金を引いた。海兵隊のM4カービンが、水兵たちのM16ライフルが、銃座の12.7ミリ機関銃が不審船上から銃撃を行なっている一団に次々と放たれる。

 水兵達はフルオートで連射するが、海兵は数発ごとの短い連射を繰り返すバースト射撃で効率よく敵を射抜いていった。狙撃手であるヒューイットの射撃回数はさらに少なかった。銃撃をしてくる不審船の船員の中で指導者的な者を見つけては狙い撃ちをしていた。オベロンは錠撃ち用のモスバーグM590を使っていた。アサルトライフルのような制圧力も、狙撃銃のような精密さもなかったが、錠撃ちのために散弾ではなく単体の一粒(スラッグ)弾を使っていたので、当れば衝撃は小銃弾の比ではなく、命中した相手はそのまま吹き飛んでしまう。見た目はなかなか滑稽な様であった。

 圧巻であったのは2門の25ミリ機関銃と40ミリ擲弾の攻撃である。25ミリ砲は不審船の船体に穴を開けて船員の身体に当れば文字通り吹き飛ばしてしまう。40ミリ砲は不審船の甲板上でいくつもの小爆発を起こし、その度に何人もの敵を吹き飛ばす。

 射撃の腕で勝るアメリカ軍がより多くの敵を倒していたが、人数で勝る上に船体が相手より大きいので上方から攻撃できる不審船側も少なからず戦果をあげる。物陰から少しばかり身体を出しすぎた水兵が何人か命中弾を浴びた。その度にホワールウィンドの衛生下士官が水兵と銃火を掻い潜りながら、負傷者の応急措置を行なうのだ。



 空を飛ぶシーホークにも銃撃が向けられた。それは主にカラシニコフでシーホークの防弾板で十分に防げたが、57ミリ機関砲が向けられたら一溜まりも無い。

 操縦席のキャノピー近くにカラシニコフが当たり、火花が散った。

「ひっ!」

 若いコパイであるレスリーは銃撃を受けたのは始めてであった。

「退避しましょう!もし57ミリ砲に狙われたら!」

 しかしオリスカニーは取り合わなかった。

「バカな!今、退避すればホワールウィンドは孤立する。増援が来るまでもたせるんだ!」

「こっちには機関銃1丁しかないんですよ!」

 レスリーが抗議した。もしヘルファイアーがあれば機関砲など射程外から撃破できるが、今の状態ではコルベット並みの武装を載せた敵に対して非武装も同然であった。

 そこへタリーが割り込んできた。

「見ろ!奴ら、まだ隠し玉を持っていたらしい」

 不審船の後部甲板には前部甲板に載せられた57ミリ砲のようにシートで包まれた物体があった。不審船の船員たちがシートを外すと、下から57ミリ砲より小ぶりながらホワールウィンドの機関砲より大きい武器が姿を現した。

「37ミリ連装砲です!」

 タリーがそれを目で確認して報告すると同時に、オリスカニーは機体を急降下させた。37ミリ砲の銃口はホワールウィンドではなくてシーホークの方に動いた。



 パン、パン、パンと音がして甲板に火花が散る。不審船から放たれる銃撃はホワールウィンドの船体にも容赦なく撃ちつけられるが、精々カラシニコフ小銃の7.62ミリ弾くらいなので鋼鉄の甲板に弾かれてしまう。

 その様子を見ながら艦橋の上に立つホワールウィンドは安堵していた。57ミリ砲の出現には驚いたが、所詮は海賊。主な兵器は世界のどこにでもあるカラシニコフで、それでは人間の身体は貫けても船は無理だ。水兵が何人か倒れたように見えたが、彼女にはどうでもいいことであった。

「まぁ大丈夫か?」

 こちらに比べて相手は悲惨だ。船首の57ミリ砲の死角に潜りこんで重火器による攻撃を防いでいるホワールウィンドに対して、相手は25ミリ機関砲、40ミリ擲弾、12.7ミリ機関銃の銃撃を浴びているのだから堪ったものではあるまい。

 相手の船橋を眺めると、そこに居る分身の衣服は赤く染まっていて、うずくまって苦痛に耐えているようであった。

「ご愁傷様」

 すると、その下の船橋から出てくる人影があった。その男たちは手にした巨大な“荷物”を船橋横のウイングの手摺に備え付けた。

 それを見てホワールウィンドは顔色を変えた。



 ヒューイットはさらに1人の敵兵の頭を射抜いて次の目標を探していた。そしてホワールウィンドの見た男たちを見つけた。彼らはビニールに包まれた“荷物”を船橋ウイングに備え付けていた。ヒューイットは反射的に引き金を引いて1人を仕留めたが、その時には“荷物”の準備は終わっていた。そして最後の仕上げに男たちの1人がビニールを取り去った。

 その正体を知ったヒューイットは叫んだ。

「ブリッジにDShK38(ダッシュK)!」

 ダッシュKことDShK38重機関銃はロシア版のM2重機関銃ともいえる12.7ミリ機関銃である。ヒューイットが仲間に警告を発すると同時に射撃が始まった。強力な12.7ミリ機関銃を前にホワールウィンドの甲板も耐えられなかった。弾があたる度に穴が開き、ホワールウィンドを容赦なく痛めつけた。

 勿論、人間が浴びれば只では済まない。12.7ミリ弾の直撃を受ければ身体そのものが引きちぎれてしまう。それほどの攻撃が水兵と海兵隊に容赦なく襲い掛かったのだ。既に流れ出た血で真っ赤になったホワールウィンドの甲板に肉片が飛んだ。そして吹き飛ばされた者の中にヒューイットの上官が居た。

「少尉!」

 片手を失ったシンプソンの身体がホワールウィンドの甲板に叩きつけられた。ヒューイットはすぐにシンプソンのもとへと駆け寄った。シンプソンの顔は真っ青になっていた。ヒューイットは脈を測ったが、既に心臓は停まっていた。

「隊長の様子はどうだ!」

 オベロンが声をかけてきた。ヒューイットが首を横に振ると、すぐにその意図を察した。指揮を執るべき将校が死に、自らが指揮官になったのだ。オベロンはすぐに動いた。シンプソンが死ぬ前も実質的には彼が指揮を執っていたのだから難しいことはなにもない。

「ラムジー!」

 オベロンは自分より1つ下の階級の男に向かって叫んだ。

「銃座を破壊しろ!」

 ラムジー二等軍曹はそれを聞くと無言で頷いて、背中に背負った筒状の物体を構えた。SMAW携帯ロケットランチャーだ。ラムジーは敵の銃撃にも構わず立ち上がり、それを銃口から火を噴き続ける重機関銃に向けて構えた。引き金を引くと、爆音とともに一筋の光が煙を残して銃座に飛び込んでいった。

 次の瞬間、重機関銃の銃座が銃手とともに爆発した。機関銃と銃手はその衝撃で海に投げ飛ばされて沈んだ。

「よっしゃ!」

 ラムジーはガッツポーズをして自らの戦果を喜んだ。その結果、目立つことになった。

 ヒューイットの見ている目の前でラムジーがなにかに突き飛ばされたかのように倒れた。横にいたハトラー上等兵がすぐに倒れたラムジーを物陰に引き込み、傷の手当を始めた。ラムジーの顔が苦痛に歪み、肩の傷口を手で必死に押さえつけている様を見ると命に別状は無さそうだが、血が滴り甲板に溜まりつつあった。

 相手の船橋を見るとラムジーを撃ったと思わしき狙撃手を発見した。他のやつはやたらと乱射しているのに、その男は狙いを定めてカラシニコフを1発ずつ撃っていた。ヒューイットは物陰から姿を晒してその男に狙いを定めた。引き金を引くと狙撃手は倒れて海に落ちた。

 敵を射殺するとヒューイットはすぐに物陰に引っ込んだ。彼がついさっきまで立っていた甲板には銃撃が集中して火花が散った。

 物陰に隠れて息を整えると、周りに目を凝らして仲間の様子を伺った。みんな物陰に隠れてうまく銃撃から身を守っている。そんな中、甲板上に突っ立ち自らを曝け出している者が1人居た。その人物は腕から血を流していた。

「なにをやってる!早く隠れろ!」

 ヒューイットの叫び声に相手―ホワールウィンド―は一瞬だけ彼の方に振り向いた。彼女はヒューイットの言葉に呆れているようだったが、彼にはその理由は分からなかった。そしてホワールウィンドはすぐに敵船の方に視線を戻した。

 その時、またヒューイットの潜む遮蔽物に銃撃が集中して、彼は顔を引っ込めた。

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