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第八話 彼らの見た目はアウト寄りで



 スズラン市は海辺に点在する観光名所である。

 ファンタジーな街並みはテレビで何度も取り上げられているしスズラン市中央に位置するCMタワーと呼ばれる灯台としての役割も持つ展望台の高さは実に四百メートル。

 他にもおいしいものや美しい景色は山ほどあるが中でも注目されているのは水関連だ。

 真っ青な宝石を敷きつけたような海に郊外にある、すきとおるような川、プールは一年を通してにぎわうほどに温度の調節がなされており、温泉には思わず耳を疑うほどの効能が数多くあるらしい。

 飲み水すらも普通より高く売れるほどだ。

 笑ってしまうような話であるが一般学生のサヨやレイジに取って遊び場があるのは実にありがたい話だ。

「おせぇぇな………」

 コンビニで買った吸うタイプの空になったアイスを加えて、サヨがつぶやいた。

 噴水広場。そのベンチでフリルがあしらわれた白いシャツとレースのついたスカート。黒いニーソに足の高いブーツといった格好のサヨと、熱くなり始めたこの時期でも長袖長ズボンに身を包むレイジ、そして長い髪をポニーテールにした白いパーカーの少年、ツバキ。

 それぞれ荷物を抱えてぼんやりと空を眺める。

「三十分前に今家出たってきりだもんな……」

「おいて行っちゃう?」

 ツバキがそんなことを口走った。

「いやだめだ……。今日はユキムラとうまく付き合って真の友と呼べるようになろうの会、略してユウマの会何だ。あいつがいないと意味ないだろ」

「なんだよそれ……」

 レイジが呆れたような声を漏らした。

「兎も角。しばらくはここで待つからな……決めたからな」

「まぁ、まつぶんには全然いいけどなぁ」

 レイジが息をつきながらそう言った。

「やぁ、皆さん。おはようございます。遅れて申し訳ない」

 聞き覚えのある声に、三人は同時に振り向いた。伸ばした髪の毛の後ろから、暗い瞳を三人に向ける。

 それでいて口元には小さく笑みをたたえていた。紫色の上着で体を隠したユキムラは両手をポケットに突っ込んで背中には大きな荷物を抱えている。

「おせぇぞー!」

「いやはや、敵をまくのに時間がかかってしまいました……」

「敵ってなぁに?」

「あー……邪悪な大人です」

「なにそれ」

 クスッとツバキが笑った。兎も角、これで全員集合だ。

「よーし! 全員揃ったところで早速行くか!」

 サヨが大きく腕を上げた。おー! と三人がばらけながらも合わせた。



「おまえ、まさか普通に更衣室で着替えるのか?」

「いつものことだろ?」

「それはそうだけど……」

 スズラン市の海に浮かぶ大きなドーム状の建物、その自動ドアをくぐれば円状に道が伸び、目の前には受付がある。

 四人で雑な話をしながら歩く。プール独特のにおいがする更衣室に入るとサヨとツバキに視線が集まった。

 ほんのり濡れていて小さな突起が無数に並ぶ更衣室の最も角。

「なんかみられてない?」

「ツバキは可愛いからな」

「貴方も相当だと思いますがね」

「照れるぜ」

「褒めて……は、いますねぇ」

 雑談もほどほどに、サヨの視線はユキムラが抱えるものに向く。

「てかユキムラお前その超大きい荷物の中何が入ってるんだよ」

「あぁ、コレは色々ですよ」

「色々?」

 レイジがさらに詳しく、と促すとユキムラは待っていたといわんばかりに大きな荷物の中から色とりどりのおもちゃを取

り出す。水鉄砲にしぼんだ浮き輪、その他幾つかの玩具など。

「お前もしかして結構楽しみにしてたか……?」

「いいえ? ただこういう経験は始めてですので、何を持って来ればよいかわからず」

 それでいろいろなおもちゃを片っ端から、ユキムラはニコニコと語った。

(かわいいところあるんだな)

 そんな思いをサヨたちは会えて口に出さずに飲み込んだ。

「さ、早く着替えましょう。今日は一日ここにいるつもりですので」

 ユキムラがそう言った。結局楽しみにしてたんじゃないかと、誰もがそう思った。


 更衣室の目の前にあるシャワーを抜ければ天窓から光が差し込む。

 ドデカイウォータースライダーに流れるプール、とてつもなく広いその空間は室内であることを忘れそうだ。

 あえて少し熱く設定されたその空間は早く水に入りたいという欲望をかきたてる。

 レイジはほんのりぬらされた体を伸ばした。

 赤い水着が膝の下ほどまでをカバーしていてそこから下は実に筋肉質な足をさらしている。

 メンズ用のラッシュガードで袖までを覆っているがうっすらと筋肉を浮かばせるその体は周囲におおっという声を上げていた。

「レイジはすげぇガタイいいよな。なんかしてるのか?」

「いや? 特に何も?」

 そう言ってレイジに後ろから声をかけたのはサヨだった。

 ほっそりした真っ白な足が黒いフリルの中から生えている。装飾の施されたビキニは見事に下半身を覆い隠し、ないはずの胸を幻視させる。ごまかしの利かない腰回りや肩をパーカーで覆えばそこにいるのは美少女だ。

 美男美女、はたから見ればカップルといったところだろう。

「えぇ……遺伝的な?」

「まぁ、そんな感じだ」

「いやぁ、お二人とも待ってくださいよ」

 ペタペタと足音を鳴らして、歩いてきたのはユキムラだった。長い髪の毛から水を滴らせ、パーカータイプのラッシュガードの前をしめ上半身を隠している。

 下半身もワンサイズ大きい水着を来ているのかすっぽり隠れている。素肌が殆ど見えていないユキムラは水鉄砲や浮き輪を抱えていた。

「荷物多いな」

「まぁ多いに越したことはないでしょう? 持ち込みも可能なようですし」

「それはそうだな」

 サヨは頷いた。にしても多すぎね? という疑問をかみ殺して。

「ぅシャワー冷た……」

 小さな足音を鳴らしながら奥から最後に顔を出したのはツバキだ。

 ポニーテールを作った幼女にしか見えない少年は、恐らく学校指定のものであろう水着だけを身に着けていて上半身は裸だった。

 半透明のビーチボールを抱えてギリギリ体を隠すその姿は……

「アウトだろ」

「何が!?」

 サヨの唐突な言葉にツバキは思わず大きな声を上げた。

「だって……なぁ?」

「まぁ、サヨはセーフだろうがツバキはどうだろうな……これなぁ……」

「これって何!?」

 悪乗りを始めたレイジに早々に見切りを着けて、ツバキは助けを求めるようにユキムラを見た。しかしユキムラは黙って首を横に振るだけだ。

「しかしまぁ真面目な話、その格好だと日焼けが気になるな。よーし。上選ぶぞ!」

「え? でも僕お財布……」

「大丈夫。無料でレンタルしてくれるんだよ。入場料が高いからな! ほら、行こうぜ!」

「あ、ちょっ!」

 ツバキは少し強引に手を引かれる。レイジたちがまたか……という視線を二人に向けていた。



「ねぇ、サヨちゃん。このままじゃダメなの?」

「ダメだ。このままではかわいさが違った方向に向かっちまう」

「どういう事?」

「魔法少女たるもの、身なりに気をつけろってことだ……」

「関係あるのかなぁ?」

 ツバキは疑問の声を上げたがその声はどこか明るい。

「フフ……」

「? どうしたの?」

「いや、最初にあった時もこんな感じだったなぁって……」

「最初かぁ……」

 サヨの言葉をツバキは口の中で復唱した。たった数週前のことが遠い昔のように、それでいて昨日のことのように思い起こされる。

「ねぇ、サヨちゃん」

「ん?」

「魔法少女って何なのかな?」

「俺にもわかんねぇ……」

 ざわついた声にかき消されそうなほどに静かな声だった。わからない。結局のところサヨもツバキも、魔法少女が何かということすらわかっていなかった。

 そもそも魔法少女という呼称自体サヨが始めて救った少女にあやかってサヨが勝手に名乗っているもの人間離れしたこの力はどこから来るのか、サヨは自分の両手を見つめてから考える。

(わかんねぇ)

 いくら考えても、答えにはたどり着けなかった。魔法少女としての力の源も、ワクナーイと言う怪物の出どころも、なぜ自分とツバキが同じような力を使えるのかということも、いくら考えてもわからない。答えが出てくるはずもない。

「やめだ! やめ! 考えてもわかんねぇよ。それに……」

「それに……?」

「スズラン市に得体の知れない脅威が迫っていて、それをどうにかする力が俺達にはある。そうなったら……やることは一つだろ。ここを守る。少なくともそれがこの力を与えられた意味だと俺はそう思ってるんだ。だからこの力が何かわかってもわからなくても俺のやることは変わらねぇよ」

 サヨははっきりとそう言い切るとツバキの方を見て笑った。

「サヨちゃんらしいね」

「ん? そうか? んっと……ありがとう……なのかな?」

「フフ、さ、早く……」

 ツバキは微笑みサヨの手をつかみなおした。今度はツバキがサヨの手を引いた……。



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